ごちゃまぜ習作集   作:お否さま

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【みかん】

蜜柑の皮を剥く。

これが僕はいっとう上手くなれない。

いつまで経っても苦手なままである。

だいたい、こいつにはなぜ毛細血管のような筋が張り巡らされているのだろう。そのせいで毎度指の隙間に挟まったり手に引っ付いたりで蜜柑の匂いがこびり付く。給食で出た時など、手を洗っても着いていることがあり午後1番の授業で芳香剤代わりに嗅ぐと胸に青空が広がる心持ちではあるが、食べ物のカスがついてるから匂うと感じてしまうと途端に自分の指が汚らしく感じてしまう。僕の友達の指なら可愛らしいな、と思う程度なのにみかん食べてるはずなのに顔はリンゴになるのも面白い。

でもいちいちちぎれるのも苦手だし、ちょっと力を入れただけで汁が漏れるのも苦手。自分なりに赤子に触れるように接していると言うのに、すぐに泣き出してしまう姿と言ったら。それにあまりにも下手だからって、笑いながら僕の手から奪い取って勝手に剥き始めるのどうかと思う。君はともかく、他の人の指なら触れた時点であんまり食べたくないのだから、その辺自重してくれないかと毎度思ってる。「色んなこと助けてくれるけどこれだけは私の特権だね」なんて微笑まれると、そっぽ向きたくなるくらい顔が熱くなるし。

あと、これが10年ほども続いているのだ。一向に上手くならないし、ずっと隣で皮を向き続ける君がいるし、何も変わらないのも嫌だ。

コタツに一緒に入って一緒にテレビ見て一緒にみかん食べて。それが何年も変わらない光景。嫌かといえばそうじゃないのだけど、僕だって進化して蜜柑の皮くらい向けるようになりたい。くだらない事で喧嘩して君を泣かしてしまうのだってやめたい。いっつも最終的には僕が謝ることになるんだから、最初から喧嘩しなければいいのだ。

でも君も上の空なのも悪い。僕が変わる宣言をしようとする度に上手く口を封じてしまうのが君だ。そのくせ、上手くできなかったみたいに瞳を揺らして指を震わして、いつもより強めにくっついて。

喧嘩はしたくない、でも。

僕は蜜柑の皮を剥くことは別に苦手なままでいいのだ。いつまでもいつまでも、それこそヨボヨボになって君がシワシワになっても。

だけど、色々してもらって色々なものをくれた君に何も返せないのが本当に嫌だから。

 

今日もまた、苦手な蜜柑の皮を剥き、隣に君が来る。

僕が口を開こうとすると、君はさっと僕から蜜柑を受け取り別の話題を口にしようとした。

でも今の君は両手がふさがっているからこれを防げない。

僕は、彼女の口を物理的に塞ぐ。

 

呆気にとられた赤りんごに改めて伝える。

ちょっと押しただけですぐ泣くとこはみかんそっくりだけど、口に入れるのに10年かかるくらい手間がかかるとこも似てるけど。

抱きつくのは確かに君だけの特権だな。

みかんの香りが甘く爽やかに、僕の意識を塗りつぶしていた。

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