ごちゃまぜ習作集   作:お否さま

98 / 100
【クリスマスの過ごし方】

 

クリスマスなんて馬鹿みたいだ。

口の中で小さく言葉を転がす。声を大にして言わないくらい俺にだって分別はある。でも我慢はできない。俺には家族なんていない。こんな日の仕事終わりは一人で歩いていると、嫌でも家族連れが目に入る。ケーキと思わしき箱を持って幸せそうに笑う。父親が少ないのは出不精だからなのかそれでもその笑顔に翳リなど微塵も見受けられない。家族でなくても、男女のカップルが蕩けた顔で互いの手を握りライトアップに煌めきを添える。そんな光景は人間としての天国やら幸せとして見て美しいと感じるべきなのだろうけど、俺のような濁った人間には本当にうざったくて胸が痛くなる光景だ。正しいのがどちらかなんて分かってるけれど、これをどうにかするのは一人で歩いているうちは多分ダメなんだろう。

かと言って彼女を探す気力もなく。そもそも自分の姿なんて鏡ですら見たくないってのに、それを受け入れてくれる人を探すなんて妄言も甚だしい。この光景が嫌いなのはそんなふうに間接的に自分をこきおろすことに繋がることも含んでいるのかもしれないな。

街ゆく人々はこの後、さらなる温かさを得るのだろう。ストーブの着いた部屋に煌めいたツリー。テレビにはクリスマスの番組が流れ、食卓には特注の料理と大きくも小さくもその家族の形を示したケーキ。笑顔で囲む家族。

 

「何がダメだったんだろうなぁ」

 

おそらくこの先一生手に入ることも無く、そして苦しみ続けることが確定した俺。イタく口から零れ落ちる。電車の中でなくてよかった。どうにも独り言が多くなってしまったが、周りの人に聞かれていたらさらに最悪なクリスマスになるとこだった。あ、おれはクリスマス未満か!はは。

 

「ダメってどうしたんですか?」

「うぉわ!!?」

 

自虐メンタルに横からぶっ刺されるセリフ。

振り返るとサンタ衣装(とは名ばかりのうっすいミニスカ商売服)の女がたっていた。この寒空の下腐らず頑張ってるだけで尊敬に値するが今は構って欲しくはなかった。遠ざけるように口が言葉を勝手に紡ぐ。

 

「別になんでもないですよ、気にしないで」

「お兄さん1人だからそんなことを言ったんじゃないですか?」

 

2hit、どっちもクリティカル。言葉のナイフが鋭すぎる。思わず睨みつけても彼女は痛痒も感じていない様子で自然、こちらの言葉も強くなってしまう。

 

「うるさいな、勝手にしてくれよ」

「せっかくのクリスマスに1人なんてもったいないですよ」

 

それでも彼女は粘る。

 

「ね、せっかくなら私たちのお店に来ませんか?」

「はぁ?」

 

つまりは彼女は客引きだったというわけだ。そういうことなら、と帰ろうとすると。

 

「ま、ま待って待ってください。確かに客引きで声かけようと思ったんですけどお兄さんがあまりにどんよりしててそれならひとつ笑顔にしてみたいなと思いましてお兄さんなら私と波長が合うんじゃないかな私もクリスマスそんなに好きじゃないし」

「お、おう?」

 

思わず目を丸くして彼女を見つめる。ぐるぐると目を回して腕はバタバタと忙しい。それでもよくよく見ればなんとも美少女と言っていい容姿であった。むしろさっきまで気づかなかったのがおかしいくらい。でもってそんなやつがコミカルな動きで慌てているのは腹筋の痙攣を誘う。

とりあえず俺がその場にとどまったからかそれとも笑われたのが恥ずかしかったのか。彼女は一旦落ち着きふぅと息を吐く。それからこちらにその瞳を寄せると。

そして、ひとつ煌めいた。

 

「ね、嫌な夜は2人で乗り越えてみませんか?」

 

クリスマスツリーを背に粉雪とライトアップを味方にする彼女は、まるで天使のようだ。

クリスマスなんて嫌いだ。けれどこんな天使と過ごすのなら、クリスマスの過ごし方としては悪くはないか。

せっかくだからクリスマスプレゼントでもあげてみるか。

 

「あぁ、一緒に行こうか」

 

聖夜に偏屈な2人が揃って酒を飲み明かす。

馬鹿みたいな一夜でも不思議と悪くなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。