ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜   作:天音ろっく

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17)君は変な王子様 Part②

 

 

 

 

 ニコニコと微笑むひぃくんの隣で、ジャージの上着を羽織わされた私はトボトボと力なく歩く。

 

 

(さっきは本当に酷い目に遭った……)

 

 

 またひぃくんのせいで、とんだ晒し者になってしまった私。ぶつけた後頭部は未だにズキズキと痛み、そっと触れてみると小さなコブになっている。

 誤解も解けて幸せそうに微笑むひぃくんの横で、小さくため息を吐いた私はひぃくんをマジマジと見つめた。

 

 

(さっきはパニックすぎて気付かなかったけど……)

 

 

「ひぃくん。その格好……なんだか王子様みたいだね」

 

 

 青いロングジャケットには綺麗な刺繍が施され、袖にはヒラヒラとした白い布が付いている。これが、中世ヨーロッパをイメージした衣装なのだろうか。

 私を見て、フニャッと微笑むひぃくん。

 

 

「カッコイイね。ひぃくん似合ってる」

 

「本当? 良かったー」

 

 

 私の褒め言葉に、とても嬉しそうな笑顔を見せるひぃくん。何だか急に恥ずかしくなった私は、顔を俯かせるとジャージの袖で口元を抑えた。

 ひぃくんから借りたジャージは、やっぱりひぃくんの香りがする。

 

 

(まるで、ひぃくんに包まれてるみたい)

 

 

 そんな事を考えながら、鼻から空気を吸い込む。

 

 

(…………。私、変態みたい)

 

 

 大きすぎるジャージにスッポリと隠れている両手を見つめると、私はパッと顔を上げて口を開いた。

 

 

「ひぃくん、お昼どこで食べるの?」

 

(かける)のとこだよー」

 

「えっ? お兄ちゃんのところ? ……いいの?」

 

「うんっ」

 

 

(絶対に来るなって言ってたけど……本当に大丈夫?)

 

 

 ニコニコと微笑むひぃくんの姿を見て、少しだけ不安になる。

 

 

「きっと面白いのが見れるよー?」

 

 

 そう言ってクスクスと声を漏らすひぃくん。

 

 

(面白いのが見れるって何だろう?)

 

 

 ニコニコと楽しそうに微笑むひぃくんの横顔を見ていると、不安よりも好奇心の方が大きくなってくる。

 

 

「楽しみだねっ」

 

 

 ひぃくんを見上げながら笑顔でそう答えると、そんな私を見てニッコリと微笑んだひぃくん。そのまま私の手を取ると、ジャージの上からそっと優しく手を握る。

 私は繋がれた手にキュッと力を込めると、満面の笑みを浮かべながら廊下を進んだ。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 お兄ちゃんの教室の前まで辿り着くと、扉の前に飾られた看板を見て首を傾げる。

 

 

【男女逆転縁日】

 

 

(男女逆転て……何だろ?)

 

 

 首を傾げる私を見て、クスリと笑い声を漏らすひぃくん。

 

 

「楽しみだねー」

 

 

 ニコニコと微笑むひぃくんは、そう言うと教室の扉を開いた。

 

 

 

 ———ガラッ

 

 

 

「わぁ……っ! 本当にお祭りみたいだね!」

 

 

 沢山の提灯(ちょうちん)で飾られた教室は、まるで本物の縁日のようだった。

 スーパーボールすくいや輪投げなど、沢山の出店が並んでいる。私のすぐ目の前には、金魚すくいまである。

 

 

(本物の金魚がいるのかなぁ……?)

 

 

 近づいて覗いてみると、そこにはキラキラと光る金魚が浮いていた。

 

 

「わぁっ! 可愛いっ! ひぃくん、これ取って!」

 

 

 ひぃくんの腕を引っ張って、興奮気味にそう話す。

 

 水槽に浮いていたのは、電池でキラキラと光る玩具の金魚だった。

 昼食を食べに来たというのに、すっかりと金魚に夢中になってしまった私。そんな私を見て、クスリと笑ったひぃくんは水槽の前にしゃがむと振り返った。

 

 

「何色がいいの?」

 

「ピンクっ! ピンクがいいっ!」

 

 

 ひぃくんの隣に腰を屈めると、水槽の中の金魚を見てそう答える。

 

 

「取れるかなー?」

 

「絶対に取れるようにできてるから大丈夫だよ」

 

 

 ひぃくんの言葉に、水槽の前に座っていた店番の人がそんな返答を告げる。

 

 

(あれ……? なんか違和感が……)

 

 

 髭を生やした短髪のお兄さんは、何だかやたらと可愛らしい顔をしている。

 

 

(それに、さっきの声……女の人の声、だった様な……?)

 

 

「良かったねー、花音。絶対に取れるってよ?」

 

「……うんっ」

 

 

 店番の人をジッと見つめていた私は、慌ててひぃくんの方を見ると笑顔で頷いた。

 その後、アッサリと金魚を取ってくれたひぃくん。本当に誰でも取れるようにできていたらしい。

 掌にコロンと乗った金魚を見つめながら、私はニコニコと微笑んだ。

 

 

「ひぃくん、ありがとう!」

 

「どういたしましてー」

 

 

 フニャッと笑ったひぃくんは、そう答えると私の頭を優しく撫でてくれる。

 

 

「……あっ! ひぃくん、お兄ちゃんは?」

 

 

 すっかり忘れていたお兄ちゃん。一体、何処にいるのだろうか?

 

 

「たこ焼き食べよっかー」

 

 

 そう告げると、ニッコリと微笑んだひぃくん。

 

 

(え? 私の質問はドスルーですか?)

 

 

 そんなことを思いながらも、ニコニコと微笑むひぃくんに手を引かれてやって来たのは、教室の奥にあるたこ焼き屋の屋台の前。

 

 

(いい匂い……)

 

 

 その匂いにつられてお腹を鳴らした私は、お兄ちゃんの事はたこ焼きを食べてから探そうと、そんな風に考える。

 

 

「……なんでお前らがいるんだよ」

 

 

 突然聞こえてきたお兄ちゃんの声に驚き、私は慌てて周りを見回した。

 

 

(あ、あれ……? 今、確かにお兄ちゃんの声がしたのに)

 

 

 姿の見えないお兄ちゃんを不思議に思いながらも、目の前で焼かれるたこ焼きをジッと見つめる。

 

 

「美味しそうだねー」

 

「うん。お腹空いたぁ」

 

 

 たこ焼きから目線を外すことなく答える私を見て、隣にいるひぃくんはクスクスと笑い声を漏らす。

 

 

「おい。シカトすんな」

 

 

 

 ────!?

 

 

 

(やっぱりお兄ちゃんの声が聞こえる……。え、どこ?)

 

 

 周りを見回しても、お兄ちゃんらしき人は見当たらない。

 

 

「幻聴が聞こえる……」

 

 

 その不思議な現象に、ポツリと小さく声を漏らす。

 

 

 

 ────カツンッ!

 

 

 

「痛っ!」

 

 

 いきなり、知らない女の人にうちわの角で叩かれた私。

 

 

(酷い……っ。私が何したって言うの?)

 

 

「花音! 大丈夫!?」

 

 

 涙目で頭を抑える私を見て、心配そうに顔を覗き込むひぃくん。

 今日は厄日だ。いくら元からポンコツだとはいえ、こんなに頭ばかり打っていたら本当にバカになってしまう。

 

 

「翔、酷いよー! 花音痛がってる!」

 

 

(ひぃくん、違うよ。私を叩いたのはお兄ちゃんじゃないよ。私達の目の前にいる、その背の高い綺麗な女の人だよ……)

 

 

 ビクビクとしながらも女の人にチラリと視線を送ると、女の人は小さく溜息を吐くと口を開いた。

 

 

「……悪い。角で叩くつもりはなかった、ごめんな」

 

 

 

 ────!?

 

 

 

「……えっ!? お兄ちゃん!?」

 

 

 大きな声を上げると、見開いた瞳で目の前の女の人を凝視する。

 

 

「何だよ……気付いてなかったのかよ」

 

 

(……えぇぇええーー!!? めちゃくちゃ綺麗なんですけどっ! ていうか、なんで女装? お兄ちゃんて……、もしかして……)

 

 

「女装が趣味、なの……っ?」

 

 

 思わず顔が引きつる。

 

 

「アホかっ。んなわけないだろ。男女逆転て書いてあったろ?」

 

 

 溜息混じりにそう告げるお兄ちゃん。

 

 

「ああ、なるほど……」

 

 

(そういう意味だったんだ……。良かった。お兄ちゃん女装が趣味なのかと思っちゃった)

 

 

 言われてみれば、金魚すくいのお兄さんにも違和感があった。

 

 

(やっぱり女の人だったんだ)

 

 

 

 ────カシャッ

 

 

 

 突然のシャッター音に視線を向けてみると、ひぃくんがお兄ちゃんを撮影している。

 

 

「おい……。ふざけんな、今すぐ消せ」

 

 

 ギロリとひぃくんを睨みつけるお兄ちゃん。

 

 

「花音にも送ってあげるねー」

 

 

 そんなお兄ちゃんを無視して、ニコニコと微笑んでいるひぃくん。

 

 

(ひぃくん……お兄ちゃんの顔をちゃんと見て? 鬼だから。そんなにドスルーしないで……)

 

 

「無視すんな……っ、響」

 

 

 おっかない顔をした鬼が、ひぃくんをギロリと睨みつける。そんな鬼に向けてニッコリと微笑むと、携帯を差し出したひぃくん。

 

 

「翔。花音と一緒に撮ってー?」

 

「……自由かよっ! あのな、今俺はお前らのたこ焼き作ってんだよ。んなもん撮れるか、アホ。……いいから早く写真消せよ」

 

 

 イライラとしながら、溜息を吐いたお兄ちゃん。

 

 

(ひぃくんとの写真、欲しかったなぁ……。だって、今のひぃくん本物の王子様みたいなんだもん)

 

 

「お兄ちゃんのケチ……」

 

「ケチー」

 

 

 私の言葉に、ニコニコと微笑むひぃくんも便乗する。

 

 

「お前ら……、いい加減にしろよ?」

 

 

 ドス黒いオーラを放つ鬼に恐れをなし、思わずひぃくんの背後に身を隠す私。

 その後、何だかんだで写真を撮ってくれたお兄ちゃん。

 

 

「あーっ! 翔の写真が消えてるー! 酷いよーっ!」

 

「煩い。肖像権違反だ」

 

 

 お兄ちゃんから返された携帯を見て、ワーワーと騒ぎ始めるひぃくん。

 そんな中、私はひっそりと自分の携帯を見た。

 

 

(……大丈夫だよ、ひぃくん。私の携帯にちゃんと届いてるから。……彩奈にも送ってみよっと)

 

 

 私は後日、とんでもなく恐ろしい鬼に怒られる羽目になる。

 そんな事とはつゆ知らず、私は女装姿のお兄ちゃんの写真を眺めては、クスリと小さく笑みを漏らした。

 

 

 

 

 

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