ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜   作:天音ろっく

7 / 28
7)そんな君が気になります Part②

 

 

 

 

「お兄ちゃん……。私、もう学校辞める」

 

「は……?」

 

「だって……っ。もうっ……、もう学校行けないよぉぉおおーー!!」

 

 

 突然泣き出した私に、焦り始めたお兄ちゃん。

 

 ──私達は今、誰もいない中庭に来ている。晒し者になっていた私を、お兄ちゃんが連れ出してくれたのだ。

 あの後、マイクを借りて訂正してくれたお兄ちゃん。

 

 

『今のは嘘です!』

 

 

 そう宣言するお兄ちゃんに、『嘘じゃないよー』と言い出したひぃくん。物の言い方ってものを、もう少し考えてもらいたい。

 結局、おやすみのハグをしてるって事で話しは落ち着いた。さすがに、毎日一緒に寝ているとは言えない。

 

 

『昔からハグしてるんです。俺も響と毎日してます』

 

 

 そう言って、身体を張って実演までしてくれたお兄ちゃん。その光景に、周りの女の子達からは歓喜の悲鳴が上がった。

 それでもやっぱり、一部の女の子達からは私に対しての反感の声が上がっていた。訂正してくれたお兄ちゃんの言葉も、皆がどれだけ信じてくれたかはわからない。

 

 

(もしかしたら、誰も信じていないかも……)

 

 

 そう考えると、もう学校は辞めるしかないと思った。

 反感を買い白い目を向けられ、好奇の視線を浴びる……。そんな四面楚歌な状況を想像すると、恐ろしくて耐えられそうもない。

 

 

「大丈夫だって、花音。……絶対に大丈夫だから」

 

 

 身体を張ってくれたお兄ちゃんには申し訳ないけど、全然大丈夫なんかではない。

 

 

「無理ぃ……っ」

 

 

 中々泣き止まない私を見て、困り果てたお兄ちゃんは小さく溜息を吐いた。

 

 

「花音……。学校辞めたら後悔するぞ。大体、学校辞めてどうする気なんだ? 編入するのか? 就職でもするのか?」

 

 

 急に現実的な話をしだしたお兄ちゃんに、何も答えられない私は口を(つぐ)んだ。

 

 

「何も考えてないんだろ? 学校を辞めるって事は、そうゆう事なんだぞ?」

 

 

(そんな正論言われたら何も言えないじゃん……っ)

 

「絶対に大丈夫だから。どうしても駄目だったら、その時にもう一度考えればいいだろ? ……な?」

 

 

 お兄ちゃんに説得され、渋々ながらに小さく頷く。

 

 

「俺も響もいるし、絶対に守ってやるから。大丈夫だよ」

 

 

 そう言って優しく頭を撫でてくれるお兄ちゃん。

 

 

(……大体、私をこんな目に合わせた張本人は今何処にいるの?)

 

 

「お兄ちゃん……っ。ひぃくんは今、どこにいるの?」

 

 

 グズグズと涙を拭きながらも、目の前のお兄ちゃんを見上げてそう訊ねてみる。

 

 

「ああ……たぶん、告白されてるんだろ。さっき女子に呼ばれてどっかに行ったよ」

 

 

(告白……。告白されてるんだ……ひぃくん)

 

 

 そんなの今に始まった事ではない。昔からモテるひぃくんは、よく女の子に告白をされていた。

 

 

(だけど──何だろう、この胸のモヤモヤは)

 

 

 今まで考えた事もなかったけど、いつかひぃくんにも彼女ができてしまうのだろうか? 

 そう思うと、何だか悲しくなってくる。

 

 

(幼なじみを取られる気がして寂しい……のかな?)

 

 

 何だかよく分からない。もしかしたら、今会っている人と付き合ってしまうのかもしれない。そう思うと、気になって気になって仕方がなかった。

 何だかよくわからない胸のモヤモヤに、私は少しだけ後悔をした。

 

 

(お兄ちゃんに聞くんじゃなかった……。もう忘れよう)

 

 

 そう思うと、涙を拭いてパッと笑顔を見せる。

 

 

「……私、戻るね。お兄ちゃん、さっきはありがとう」

 

「ん。……じゃあ、お昼にまたな」

 

「うん。あとでね」

 

 

 そう答えると私は中庭を後にした。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 黙ってモグモグとお弁当を食べている私は、チラリと隣にいるひぃくんを盗み見た。

 お昼休憩になり、今、私はお兄ちゃん達と一緒に中庭に来ているのだけど……。

 

 

(さっきの告白……、どうなったんだろう?)

 

 

 それが気になって仕方がなかった。

 

 相変わらず隣でニコニコとしているひぃくんからは、いつもと変わった様子は全く感じられない。

 

 

(聞いて……、みようかな)

 

 

「ひぃくん……。さっきのって……、どうなったの?」

 

「んー? さっきのって何?」

 

 

 お弁当を食べ進めていた手を止めると、私を見て小首を傾げるひぃくん。

 

 

「さっき……告白されたんでしょ?」

 

 

 少しだけ顔を俯かせると、チラリとひぃくんの様子を伺う。

 すると、ピタリと固まったひぃくんが両目を大きく見開いた。

 

 

(え……っな、何? 聞いちゃマズかったのかな)

 

 

「か……っ、花音……花音……っ」

 

 

 瞳を小さく揺らしながら、プルプルと震える手を私に向けて伸ばしたひぃくん。そのままガバッと私に抱きついたかと思うと、突然大きな声を上げた。

 

 

「っ……可愛すぎるよ、花音っ! お嫁に来てくれるの!? ありがとう!! 大切にするからね!!」

 

 

(どういうこと……っ? 私の質問はどこにいったの……?)

 

 

「──おい、響」

 

 

 ギロリとひぃくんを睨みつけるお兄ちゃん。その声に反応したひぃくんは、嬉しそうな顔をして口を開く。

 

 

「翔っ! 聞いた!? 花音がお嫁に来てくれるって!!」

 

 

 そう言ってニコニコと微笑むひぃくん。

 お兄ちゃんは私の腕を引っ張ってひぃくんから離すと、小さく溜息を吐いた。

 

 

「……聞いてないし、言ってない」

 

 

 シレッとした顔をするお兄ちゃんは、自分の隣に私を座らせると再びお弁当を食べ始める。

 

 

「言ったよー! 確かに言った!!」

 

 

(いや……言ってないです、ひぃくん。私そんな事一言も言ってないよ……。そんな事より、私の質問はスルーですか? 結構勇気出して聞いたのにな……)

 

 

 そう思うと、ガックリと肩を落とす。

 

 

「告白が気になったって事は、俺の事が好きだって事でしょ?」

 

 

 

 ────!!?

 

 

 

 ひぃくんの発した言葉で、私の顔に一気に熱が集中し始める。そして、見る見る内に真っ赤に染まってしまった私の顔。

 まるで茹でダコのように真っ赤になってしまった私は、ひぃくんに向けて勢いよく声を上げた。

 

 

「っ……ちっ、違う! 違うもんっ!!」

 

 

(なんて事だ……っ! ひ……っ、ひぃくんを好きだなんて……! そんな事あるわけない! 違う、絶対に違う……っ!)

 

 

 カーッと熱くなってゆく顔に、自分でも動揺が隠せない。

 確かにひぃくんの事は好きだ。だけど、恋とかではなくて……幼なじみとして好きなだけ。大体、さっきだってひぃくんのせいで酷い目に合ったのだ。そんな人を好きになる訳がない。

 ──そう、自分に言い聞かせる。

 

 

「かの〜んっ!」

 

 

 

 ────!?

 

 

 

 嬉しそうな声を上げながら、いきなり飛び付いてきたひぃくん。そんなひぃくんを支えきれなかった私の身体は、ゆっくりと後ろへ向かって傾いてゆく。

 

 

(えっ……ここ、ベンチ──落ちる!)

 

 

 ギュッと固く瞼を閉じると、その衝撃に備える。

 

 

(…………。あ、あれ……? 痛く……、ない?)

 

 

 恐る恐る瞼を開くと、目の前にはひぃくんらしき胸板が見える。

 

 

「……っ。おい、ふざけんな響!」

 

 

 背後から聞こえるお兄ちゃんの声。どうやら、私はお兄ちゃんを下敷きにして倒れているらしい。

 きっと、私を庇ってくれたのであろうお兄ちゃん。上にはひぃくん、下にはお兄ちゃん。

 

 

(笑えない……。何このサンドイッチ)

 

 

「早く退()け、重い」

 

 

(ごめんなさい……、お兄ちゃん。私、動けません。苦しくて声すら出せません……っ)

 

 

 全く退く気のないひぃくんは、私の上で「かの〜ん。かの〜ん」と嬉しそうな声を出している。

 

 

(く……、苦し……っ)

 

 

 苦しさから少しだけ顔を横へと動かしてみると、中庭にいる生徒達が視界に入ってくる。

 三人で抱き合ったまま、地面に転がっている私達。そんな私達を見て、驚きに目を見開いている人達や、クスクスと笑っている人達。

 どうやら、また私は皆の前で醜態を晒してしまったらしい。

 

 

(もう嫌……っ。なんでいつもひぃくんてこうなのよ……。絶対にひぃくんを好きだなんて有り得ないから……っ)

 

 

 私の上で嬉しそうな声を出しながら揺れているひぃくん。

 そんなひぃくんに抱きしめられながら、私は苦しさに顔を歪める。

 

 

(っ……お願い、揺れないで……。苦しいし、恥ずかしい……っ)

 

 

 ──その後。お兄ちゃんが無理矢理ひぃくんを退けるまでの間、私はずっと潰れた蛙のような呻き声を上げていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。