ねえ?誰かいるの?
いるのだったら姿を見せてよ。何か言ってよ
そんな人々の声が聞こえる
僕達はいつからか"天使"と呼ばれていた
ウォルロ村
ここは小さなウォルロ村という場所だ。のどかな村で、いつも穏やかに時が過ぎていく。大きな滝が中心に流れており、その近くでは洗濯をしたり、飲み水として飲んだりする人達がいる。
僕はここに先輩であるイザヤールさんから守護天使の仕事を任されていた。以前まではイザヤールさんが守護天使としてこの村を守っていたが、その仕事を見習い天使である僕に譲ってくれたのだ。それが大体3年前。たくさん覚える仕事があって大変だったが、ようやく仕事も覚えてイザヤールさんに認められるくらいになってきた
今日はイザヤールさんが視察に来た。どんな調子かを抜き打ちテストしにきたようだ。少し緊張するが、穏やかな顔をして村を見渡すイザヤールさんを見て少しホッと一息ついた
イザヤールさんは坊主頭のキリッとした顔つきをしたイケメン天使だ。(前にハゲと言ったら凄い顔で怒鳴られて殴られた)自分にも他人にも厳しい天使で、周りの天使達からは鬼と呼ばれている。僕ことナインは、そんなイザヤールさんになぜか優しくされている。なんでだろう?まあ嬉しいからいっか
そんな事をぼんやり考えながら村を見ていると、イザヤールさんが話しかけてきた
イザヤール「天使ナインよ、よく頑張ったな。私にかわりこの村の守護天使をまかせた時は少々不安ではあったが、お前の働きにより村人達も安心して暮らしているようだ。
立派に役目を引き継いでくれてこのイザヤール、師としてこれ以上の喜びはない。これからはウォルロ村の守護天使ナインと呼ばせてもらうぞ!」
ふっという効果音がつきそうなほど優しい顔でそっと僕の頭を撫でてくれた。天使にしてはゴツイ手だけど、イザヤールさんに撫でられるのはほとんどなかったから嬉しい
ナイン「はい、イザヤールさん!ありがとうございます!僕、これからも頑張っていきますね」
イザヤール「ああ、その調子で......ん!?」
途中でイザヤールさんが表情を変えて村の入口より奥を見た
僕もその視線の先を見ると、村に向かって歩いている青い髪にオレンジのバンダナ、青いワンピースに白いエプロン姿の女の子と杖をつきながらゆっくり歩いている老人がいた
祖父「ふう、ふう。歳はとりたくないもんじゃ。苦労かけるのう、リッカや」
老人は息を切らしながらゆっくりと歩いている。リッカと呼ばれた女の子は祖父より少し先に行っていた
リッカ「頑張って、おじいちゃん。村まであとちょっとだよ!」
リッカは老人の方に振り返り、励ましている。そんな後ろで、ガサガサと茂みが揺れた
ズッキーニャ「ギッ!.....!?」
飛び出してきたズッキーニャとスライム達はこちらに向かってくるリッカ達に気づいた
ズッキーニャ「~♪」
ズッキーニャ達は近くの岩に姿を潜めると、知らずに近づいてくるリッカ達を待ち伏せ始めた
ナイン「あの魔物!まさかあの子達を」
イザヤール「ああ!これはいかん!あのままでは魔物に襲われてしまうだろう!さあ、ウォルロ村の守護天使ナインよ。我らの使命をはたす時だ」
イザヤールさんはそう言うと、浮遊のために動かしていた翼の向きを変えて勢いよく飛び出していく
イザヤール「は!」
ナイン「ぼ、僕もいきます!」
イザヤールさんに任せるわけにはいかない。僕だって、ようやく一人前に近づいたんだ。これくらいなんてことないんだ
僕も急いで翼を動かしてイザヤールさんの後を追った。だが、流石イザヤールさんだ。翼の動かし方も速度も僕とは比べ物にならない
天使にも魔物と戦えるように戦闘訓練がある。常日頃から剣や斧、爪、槍など得意な武器を取って魔物の手から人間達を守るために訓練をしている。僕はそこまで得意ってほどではないけどね
イザヤールさんは戦闘訓練でも凄い強さで、天使の中では誰にも負けた姿を見た事がない。そんなイザヤールさんにしこたましごかれた僕は苦手だった戦闘訓練もなんとか形になってきていた。なんか、思い出しただけで体のあちこちが痛むような.....
そんな事を思い出して苦い顔をしながら魔物の元へ降り立った
ズッキーニャ達「ギッ!?ギィィー!」
魔物達には天使の僕達の姿が見えている。犬や猫など感覚が鋭い生物には見えるようだ
イザヤール「さあ、本番だ。構えろ、ウォルロ村の守護天使ナイン!」
ナイン「は、はい!」
シュン!
空間に閉まっていた武器をお互いに取り出した。見た目は何も持っていないようだけど、天使達はこうやって空間に一つだけ物をしまえるのだ
ナイン「(イザヤールさんはなんだか空間に物をたくさんしまえるみたいだけど、一体どうやってるんだろう。経験の差かな)」
イザヤール「ナイン、また考え事をしているな。油断していると足元をすくわれると何度も教えただろう!」
ぼんやりとしているのがイザヤールさんにバレて喝を入れられてしまった。まずい、まずい、しっかりしないとまた後でイザヤールさんにコテンパンにされる
ナイン「はい、すみません!」
イザヤール「ナイン、お前はあのズッキーニャという緑の魔物をやるんだ。実戦にはちょうどいいだろう」
イザヤールさんが指差す先には緑色の槍を持った魔物、ズッキーニャがいた
ナイン「わかりました!」
言われるがままにズッキーニャの前へ出る
ズッキーニャ「ギッ!」
ズッキーニャはそのまま走り込んで僕に槍を突き出した
ナイン「(これくらいなら同期の天使達の方が早いな。イザヤールさんなんて目に見えないし)」
なんでもないように最低限の動きで避けるとそのまま剣を横に薙ぎ払った
ザクッ!
ナイン「!」
初めての何かを切り裂く感覚。肉、ではないのだろうが、断ち切る感覚が走り少し怯んでしまう
ズッキーニャ「ギィィ....ギャーー!!!」
ナイン「わわわ」
怒ったのだろうか、切られて青い血が流れている事すら気にせずこちらに再び走ってくる。その姿に恐怖を持ち、少しだけ反応が遅れる
イザヤール「ナイン、気を強く持つのだ!そいつは優しき少女達を襲おうとしている魔物だ!何も恐れることなどない!」
ナイン「!!は、はい!イザヤールさん!」
僕の後ろ姿だけで怯えていると判断したのだろう、イザヤールさんの叱責がよく聞こえた。それだけでも心が軽くなる
そうだ、僕はもう悪者には負けない
負けたくないんだ
ナイン「やあああ!!」
走ってくる軌道を読み、一歩大きく力強く踏み込んだ
そのまま剣を真っ直ぐ突き刺した
ズバン!!
音を立ててズッキーニャの首から上が吹き飛んだ。そのまま空中で体と一緒に煙となって消えていった
ナイン「ふう」
イザヤールさんに振り返ると、イザヤールさんの周りにいたスライム達はとっくにいなくなっていた
ナイン「流石イザヤールさんです。励ましありがとうございました。スライム達は?」
イザヤール「あれくらいお前がズッキーニャと対峙した瞬間には終わらせた。弟子の成長を見る大事な機会だ。何者にも邪魔はさせない」
そんな会話をしていると、老人とレッカちゃん(名前合ってたかな?)が横を通りかかった
老人「おお。もう無理かと諦めかけたがなんとか帰ってこられたのう」
リッカ「もう!おじいちゃんったら大袈裟なんだから!でも、これもきっと守護天使様のおかげだよね」
レッカちゃんはそう言うと祈りを空に捧げた
リッカ「道中お守りくださってありがとうございます。守護天使ナイン様」
そう言うとレッカちゃんの体から青いオーラが形となって出てきた
リッカ「さ、早く村に入ろう!」
老人「うむ」
レッカちゃん達は何事もないかのようにそのままウォルロ村に入っていった
ナイン「これでお仕事完了ですね」
イザヤール「ああ。これは星のオーラ。人間達の我らへの感謝の心が結晶となったものだ」
ナイン「そしてこの星のオーラを天使界にある世界樹に捧げるのもまた僕達の使命ですからね」
イザヤール「ああ、流石だ。よく覚えてくれたな。では、ウォルロ村の守護天使ナインよ。ここはひとまず天使界に戻るとしよう!はっ!」
イザヤールさんは言うやいなやすぐに翼をはためかせ、空へと飛び立っていく
ナイン「あ!ま、待ってください、イザヤールさん!早いんだって、置いてかないで!」
何度目かわからないやり取りをしながら、必死にイザヤールさんを見失わないように追いかける
鳥を追い越し、空高く飛び、雲を突き抜けて進むと、そこには空に浮かぶ巨大な塔のような建物が現れる。
ここが天使界だ
周りには蔓や葉が生い茂り、建物周囲に天使達がいる。
また、その頂上には世界樹がある