壁と見間違うほどの太さの木の幹と、僕達のはるか頭上を覆うピンク一面の景色に全員が言葉を失った
たくさんの舞うピンクの花びらが瞬く間にビタリ山を季節外れの春一色に染め上げていく
ナイン「キレイ.....こんなに綺麗なの初めてだよ」
ロード「......これが、シェリーの.....生きた証」
エイリーク「すごい.....もう、他に言葉が出てこないくらいだよ。こんなの.....絶対もう二度と見られない!凄すぎる!」
サンディ「これは流石のアタシもびっくりね。自然がここまでの事できるなんて......何が起きるかわからないわね」
ソール「......うぅ.....ぐっ....うう」
ソールは桜を見上げながら止まらない涙を必死に拭っている
ナイン「ソール、大丈夫?」
ソール「はい.....でも....涙が止まらなくて......。俺、めちゃくちゃ感動しました........こんな、凄い桜になるまで......シェリーさんはどれだけ苦労したのか凄く伝わってきます。そして、人間達にもう一度笑顔になってほしいという優しいシェリーさんの心も、伝わってきます」
ソールは涙で赤くなった目のまま、シェリーさんを見た。シェリーさんは変わらず大木を抱きしめている
ソール「ありがとうございます、シェリーさん」
シェリー「はい。皆様に喜んでいただけたなら、私の100年は無駄ではなかったという事です」
シェリーさんがソールに優しく笑うと、抱きしめていた大木が崩れ始めていく
ナイン「あ、木が」
シェリー「申し訳ございません。もう、時間のようです。やはり.....ここまでの事をすると100年の力でもあっという間ですね」
桜の木もどんどん小さくなっていき、次第に元の黒い小さな木に戻ったと思ったらそのまま砕けてなくなってしまった
ロード「おいおい、なくなっちまったぞ」
サンディ「ちょ、これ戻んないの?」
ソール「.....シェリーさん、もしかして」
シェリー「はい、神木としての私はこれで役目を終えました」
エイリーク「そっ....か。本当に、最後の桜だったんだね」
シェリーさんの言葉に全員が少し俯いてしまう
シェリー「皆様、本当にありがとうございました。私の最後の姿を見せられたのが皆様でよかった。もしよろしければ、頭の片隅程度で構いません。今の桜を思い出していただけたら、私は生きてきてよかったと、そう思えます」
ソール「そんなものじゃないですよ。シェリーさんの桜は、俺の一生の中で忘れられない思い出になりました。死ぬまで忘れません。何時までも、俺はあなたを覚えています。心も、優しさも、何一つ忘れません」
ナイン「僕も!」
エイリーク「私も!」
ロード「最高だったぜ」
サンディ「アタシもね!」
シェリー「はい!!あの....もし、よろしければ最後のわがままを聞いてもらってもよろしいですか?」
シェリーさんは少しモジモジした様子でソールをチラチラと見ている
ソール「俺達でよければなんなりと」
シェリー「よかった。あの、魔物の私も、成仏させてもらえませんか?」
ソール「え....」
ロード「な、何言ってんだよ」
シェリー「私は、人間を憎む心から生まれてしまいました。それでも、こうして神木の私を幸せな形で役目を終えた以上私に存在理由はないのです。だから、せめて最後は優しいあなたがたの手で.......ダメ、ですかね」
サンディ「......どーする?」
エイリーク「......難しいよね。だって、倒すのは......苦しいよ」
ナイン「.....シェリーさんはさ、このままじゃ、嫌なんだよね」
シェリー「そうですね。このまま魔物として.....というのは、なんともいえませんね。私に戦うような力自体はありませんので」
ロード「.....苦しいだけ、か。ソール、どうする?」
ソール「.........」
ソールはずっと俯いている。顔は見えず、ソールがどう思っているのかわからない
シェリー「......申し訳ございません。やはりわがままでしたね、今のはなかったことに」
ソール「わかりました。シェリーさん、いいですよ」
シェリー「え」
ロード「.....いいのか?」
ソール「シェリーさんの為になるのなら......苦しいし悲しいですが.....そうするのが正解だと思います」
ソールは顔を上げてつらそうに笑いながらシェリーさんを見た
シェリー「ありがとうございます、ソール様」
ソール「ナインさん、ロードさん、エイリークさん、サンディさん。俺がやります。いえ、やらせてください」
ナイン「ソールが、いいんなら」
ロード「決めたんなら止めねえよ」
エイリーク「......わかった。ソールのその選択は、私も間違ってないと思うよ。だから、間違っても自分を責めないでね」
サンディ「何が正しいのかなんて難しくてわかんないんだから、後悔ないようにやんなさい。ソール、しっかりね」
ソール「はい!」
僕達の言葉を受けて、ソールは魔物のシェリーさんに大きく近づいた
シェリー「どうぞ、その剣で一思いに。覚悟は出来てます」
ソール「シェリーさん、俺はあなたを傷つけたくありません。だから武器は使いません。その綺麗な姿のまま、お見送りいたします」
ソールはそう言って目を閉じて祈りを捧げる
パァァァ
ソールの祈る手の中に小さな炎が灯った
エイリーク「わ、凄い。聖なる力を感じる」
ロード「あれは?」
エイリーク「私もやった事なかったんだけど、神とか信仰を深めていくとできるようになる聖なる力ってやつだよ。相手を浄化させる、そんな力らしいよ。ソール、もうこんな事できたんだ」
ソール「あんな悪意の炎なんかではなく、どうか、優しい炎で」
ソールはふっと小さな炎に息を吹きかけた
そのまま炎は優しくシェリーさんの体を包んでいく
ソール「せいなるほのお」
パチパチと炎が弾ける音がしながらシェリーさんを包み込んだ
シェリー「ああぁ......なんて、あたたかい.......優しい炎ですね。まるでソール様のようです」
炎の中でシェリーさんが嬉しそうに目を細めた
ソールはシェリーさんにゆっくり近づき炎に包まれたシェリーさんを抱きしめた
シェリー「!?ソール様、火傷されてしまいます!」
サンディ「ちょ、ソール何してんの!?」
ソール「これくらい大丈夫です。火傷くらいどうって事ありません。シェリーさん、一人は寂しいですから。最後まで、俺が一緒です。一人ぼっちにはさせませんから」
シェリー「ソール様......」
ソールの言葉に思わず止めようとした僕達も手を止めてシェリーさんの側に近寄って抱きしめた。炎が熱く肌が焼けるような感覚がするのを気にせずに全員で炎を包んだ
ロード「悪かった、シェリー。俺、あんたをずっと疑ってた。俺達に何か悪さしようとしてんじゃないかってな。そんな事なかったのにな、すまなかった」
シェリー「ロード様....いえ、突然でしたので当然です。私にも悪かった点があるので気になさらないでください」
エイリーク「シェリーさん、桜を見せてくれて本当にありがとう。一緒に山菜食べれて本当によかった。美味しかった?」
シェリー「エイリーク様.....はい!それはもちろん!料理された山菜があんなに美味しいなんて知りませんでした。一番美味しい山菜でした、本当にありがとうございました」
サンディ「シェリー、あんたから貰った髪飾りチョー大事にするから。アタシ達との思い出、全部覚えておいてよね」
シェリー「サンディ様。はい!気に入っていただけて私もとても嬉しいです。思い出、しっかり忘れずに持っていきますね」
ナイン「シェリーさん、おじいさんともし会えたら僕達の事、教えてあげて。そして伝えてね。シェリーさんは僕達に最高の幸せと桜の景色を届けられたよって」
シェリー「ナイン様....。はい、ぜひ伝えさせていただきます。お爺様、大変喜ばれると思います」
シェリーさんの体がどんどん崩れていく。足や手は既に燃え尽き、ついに顔も崩れ始めている
シェリー「どうか.....皆様の旅路が......花咲き彩り豊かに........なりますように」
ソール「さようなら、シェリーさん」
シェリーさんは優しく笑って燃え尽きてしまった。そのまま炎も一緒に消え去った
全員がその場でしばらく黙り込んだ。僕も胸に穴があいたような感覚がする
ソールは全員の腕の火傷をそっと治していると
ガサ
ロード「誰だ」
わずかに遠くの木が揺れた。瞬時にロードが爪を構えてそこを見ると
???「すまない、あたしはこの山のレンジャー、プーディー」
独特な見た事ない衣装を身に纏う少し片言の女の人が現れた
プーディー「お前達は今の桜が何なのかわかるか?」
ソール「あ、それはですね」
ソールは今あった出来事を全て説明した
プーディー「.....そんな事が。確かに、あの謎の魔物はここにあった木を守っていたような。そうか、あの桜は.........。お前達は清い心を持っているのだな。人間にしては珍しい」
プーディーさんはそう言うとソールに手を差し出した
プーディー「お前、レンジャーの素質ある。自然を愛し、自然と共に生きる職業、レンジャー。なってみないか?」
ソール「俺が、レンジャー....!?」
エイリーク「レンジャーって?」
ロード「確か、サバイバル技術とかに特化した狩人だったか?山の中で過ごしてたり、弓を扱ったり狼を従えてたりするんだ。上級職と呼ばれる素質や指導者が少ない職業の一つだぜ」
プーディー「ほう、詳しいな。だが、お前からは少し変な匂いがする。あたしはお前はあまり好きじゃない」
ロード「.....なんだ、こいつ」
プーディー「どうする?なってみるか?」
ソール「.....俺でよければ、なりたいです!シェリーさんのような理由もなく燃やされてしまうような事は許せないので」
プーディー「うむ。ならば、これを持ってダーマに行くといい」
プーディーさんは分厚い本を渡した
プーディー「これがあれば転職できるようになる。レンジャーになって力をつけてみろ。そうすればお前もレンジャーとして認めてやる」
ソール「わかりました」
プーディー「それと、どうやら相当桜に気に入られたらしい。お前にその桜の精霊がついている。もしかしたら心を通わせられるかもしれない。では」
プーディーさんはそう言うと去っていった
エイリーク「レンジャーに精霊だって、ソール凄いじゃん」
ソール「桜の精霊.....シェリーさんなのかな。というか、勢いでなっちゃいましたけど、炎を出すレンジャーってアリなんですかね」
ナイン「確かに。自然を守る?のに炎出したら反対だねって思うかも」
サンディ「ま、あの変なのも素質あるって言ってたんだし大丈夫でしょ」
ロード「人にいきなり好きじゃないとか言ってくる失礼なやつだったけどな。まあいいや、とりあえず向かうか。石の橋に」
ナイン「うん」
シェリー「ありがとうございました、ソール様。最後まであんなに優しくしていただいて」
ソール「シェリーさんが素敵な事をしてくれたから、俺ができる限りの事をしたまでです」
シェリー「本当に優しい方ですね、ソール様」
ソール「ちなみに、精霊ってシェリーさんなんですか?」
シェリー「いえ、私ではないですが.....ソール様を気に入られる気持ちもよくわかります」
ソール「そっか、シェリーさんじゃないのか」
シェリー「精霊は人間は目に見えないらしいですが、力を与えてくれる存在ですのできっといい事あると思いますよ」
ソール「そうなんですね。まあ間違って燃やさないようにだけ気をつけないと」
シェリー「うふふ、そうですね。びっくりされちゃうかもしれませんね」