お屋敷の庭
庭の目立つ噴水のある場所にマキナさんと一緒にやってきた。マキナさんはおそるおそる流れる水に手を入れた
「わぁ......つめたいのね。これがおみずね」
「噴水は見てても楽しめるように作られてますからね。綺麗ですよね」
「ええ、でも見てるだけなのもあきてたから触ってみたかったの。こんなに近くでみるのもはじめてよ。ありがとう、ソール」
マキナさんは優しく笑っている。可愛いなぁ....
「えへへへ」
「あら?......あっちは?明るいわね」
マキナさんは少し遠くに見える街からの明かりやざわめきを気にしている
「サンマロウの商店街の明かりや話し声ですね。お店も多いですし、人もまだまだたくさんいるみたいです」
「へえ....。わたしも行ってみてもいいかしら」
「それは......」
マキナさんはこの街で一番有名なお嬢様だ。このまま外に出たら街の人達は驚いてしまうだろう。止めようとするが、マキナさんは物悲しそうな顔をして街の方を見ている
「お友達は、いろんな物をわたしにくれるの。わたしは見たこともない物が珍しくて、嬉しくて。でも、わたしだけ知らないのがイヤだったわ」
「マキナさん.....」
マキナさんは静かに話し始めた。優しい声ではなく、どこか暗く悲しそうな声をしていた。確かにずっと外に出られなくて、周りから持ってきてくれた物すら知らなくて.....それは、どれだけ孤独な気持ちだっただろう
セントシュタイン城にいた頃の俺を思い出した。父さんからの教えで剣に慣れていた俺は、同期達や周りの兵士達より強かった。先輩達は褒めてくれたが、同期達からはずっと嫌われていた。友達もおらず、先輩にも相談出来なかった勇気のなかった俺。苦しくて、つらくて、逃げ出したくてもなんとか意地だけで続けていた所に、ナインさんがやってきてくれた
セントシュタイン周辺の事しか知らなかった俺にいろんな世界を見せてくれた。勇気のあるナインさんを俺は尊敬している。ナインさんが俺にしてくれたように、今度は俺がマキナさんに世界を見せてあげるんだ
「外に出てみましょう、マキナさん。俺が案内します」
「いいの?」
「はい、もちろんです。ただ、マキナさんは顔が広く知られてますから突然だと街の人達も驚いてしまいます。混乱させるのはよくないので、少しだけ隠していきましょう。こっそりと、ですよ?バレないようにしましょう」
「うん。ありがとう、ソール」
部屋に戻って大きなグレーのコートを持ってきたマキナさんはそれを被るとぶかぶかで、目立つ赤いドレスや金髪はほぼ見えなくなった。これならバレないだろう。今度は靴をはいて窓から飛び降りた
「ふふ、なんだかとっても楽しいわ。こんなにドキドキするなんてはじめて。夢みたいだわ」
ワクワクを抑えられない顔でマキナさんは笑っている。そんな風に思ってくれるなら、俺も嬉しいな
「無理はしないでくださいね。体調やなにか気分がすぐれなかったらすぐに戻りますから俺に言ってくださいね」
「うん。わかった」
そうして俺達は街へと駆け出した
その頃、ナイン達は
「え、うそ!なんか街の方に行くんだけど!そこまでやっちゃう!?」
エイリークがソール達の行く先を見て驚いている。ソールなら庭で終わると思ってたのに
「マジで?ソールったら案外ダイタンね」
「まあお嬢様の姿は隠してるみたいだしいいんじゃね?あいつもショッピングしたかったんだろ」
「どうする?追ってみる?」
僕がそう聞くとエイリークとサンディは勢いよくこっちを振り向いた
「「もちろん」」
「そ、そうだよね」
二人の勢いに押されていると、屋敷を見ていたロードが声を出した
「待て、なんか庭でコソコソしてるやつらがいるぞ。なんだ、あいつら」
「「「え」」」
ロードの言葉に全員で密集して屋敷の庭を見る。そこには怪しそうな男達がマキナさんが開けた窓を覗くとそのまま部屋の中に入っていった
「あれドロボーじゃね?ヤバくね?」
「捕まえないと!」
「うん、行こう!」
全員でマキナさんの庭に走っていった
商店街
サンマロウの中心にある大通り。周囲にはたくさんのお店が並んでおり、様々な人が昼夜問わず通って賑わっている
マキナさんは見た事ない量の人の数にびっくりしながらも、どのお店も興味深そうに眺めては楽しそうにしている
「こんなにお店があるのね、ずっといたのに知らなかった」
「俺もこんなにたくさんお店があるとは思いませんでした」
「ソールもはじめてなの?」
マキナさんは俺の発言に少し首を傾げた
「はい、俺もこの街に来たばかりなので」
「そうだったの。ソールはいきたいお店あるの?」
「俺ですか?マキナさんはないんですか?いろんなお店見てますが」
食べ物や武器、防具、道具やよくわからない物までいろいろある店をマキナさんは見渡した後、困ったような声を出した
「なにがあるかわからないわ。だからソールが教えて」
「なるほど。でしたら、お昼の時にマキナさんも貰っていたケーキのお店はどうですか?」
「あ、ケーキ、なのね。花瓶に飾ろうとしてたわ」
「ふふふ、ケーキは食べ物なんですよ」
「たべもの......。ね、ねえ、ソール。他のがいいわ。こうすいのお店は?」
マキナさんは食べ物と聞いて固まった後、焦ったように話し始めた。なにかあったのかな
「香水ですね。それならこっちにあったかな」
気にしないようにしながらマキナさんを案内する。しかし
「あ」
人がちょうど俺とマキナさんの間を通りかかり、少し分断されてしまった。その隙に
「だーれ、この子。大きなコートで姿見えないし不気味ね」
「おい坊主。ちょっと姿見せてみろよ」
ある意味目立つ格好をしているマキナさんを怪しむ目で見てきた人達がマキナさんの手を掴んだ
「あなた達はだあれ?」
「ん?どっかで聞いたような」
「あー!!すいません、すいません!俺の仲間なんです!」
慌てて掴まれていた手を引き剥がしてマキナさんを抱き寄せる。小さくキャッと声がしたが今は気にしない
「まだ子どもなのですいません」
「そう。変な格好させてるなよ」
「あははは....」
その人達は不満そうに違う場所に歩いていった
「ふー、なんとかなった。すいません、マキナさん。大丈夫でしたか?」
「うん、わたしは平気よ。ちょっとおどろいたけど」
「バレるかと思ってつい.....。痛くありませんでしたか?」
「ええ、はやくお店にいきましょう」
「はい、はぐれないように俺と手を繋ぎましょう」
「うん」
その頃、ナイン達は
マキナさんの部屋の中に入ると、さっき見た怪しい男の人達が慌てた様子で何かを部屋中探し回っていた
「あなた達、ここはマキナお嬢様の部屋よ!何してるの!」
エイリークが勇ましい声をあげた。男達はびっくりした様子でこちらを見た
「な、なんだお前ら!」
「泥棒なんざいい根性してるじゃねえか。大胆なのはいい事だが、バレねえようにやるもんだぜ」
「いや、そういう問題じゃなくね?」
「チッ、逃げるぞ!」
男達はそのまま扉に向かって走っていく。しかし
「あ!」
ドサァッ
仲間の一人がソファの角に引っかかり転んでしまった
「ま、待ってくれ!」
仲間は声を出して他の仲間達に呼びかけるが全員耳も貸さずに走って逃げていった。ちょっとかわいそうだなと思っているとこれみよがしにロードが悪い顔をしながら指を鳴らしてその人に詰め寄った
「さーて、お仲間に見捨てられたお前にはたーっぷり聞き出したい事があんだよなぁ」
「ひ、ひぃぃぃ!!」
「洗いざらい全部話せば痛い思いは少なくてすむからな?」
真っ青にして震える男の人を見て僕とエイリークとサンディは目を背けた
「ロードに任せよっか」
「「さんせ〜い」」
香水のお店
昼に立ち寄った香水のお店に再度やってきた。女性の客がそれなりに多く、男性を連れてる人もいるが男性は少しつまらなさそうにしている
「ここが香水を売ってるお店ですよ」
「なんかふしぎなにおいがたくさんね」
マキナさんはキョロキョロと物珍しそうにしている。お店の光がマキナさんの綺麗な目を更に輝かせている
「どうして女の人ばかりなのかしら」
「香水を付けるのは主に女性ですからね。女性からいい匂いがすると、男の人はいい印象を受けますし、綺麗な雰囲気がするんです」
「そうなの。.......ねえ、ソールがくれたお花のこうすいはどれ?わたし、あれがいいわ」
マキナさんは少し考え込んだ後、俺にそう聞いてきた
「同じものですか?一つあれば充分だと思いますが」
「わたしね、たいせつなお友達がいるの。そのお友達にもあのお花のこうすいをわたしてあげたくて。ふたりでおなじにおいがしたら、きっとお友達もすごくよろこんでくれるとおもうの」
マキナさんの話を聞いてなるほどと思った。友達へのプレゼントにしたいのか。お揃いだったら確かに喜ぶだろうな
「わかりました。大切な友達なんですね。では、俺が買ってくるのでマキナさんはここで少し待っててもらっていいですか?なにかあればすぐにお店の中に入ってきてください」
「わかったわ。ありがとう、ソール」
俺はマキナさんを店のすぐ横にいてもらい、早足で店の中に入った。入口のすぐ近くにアネモネの香水はあるので早く済ませよう
俺が店の奥に進んでいった時
「はぁ.....はぁ.....」
息を荒らげた男達が集まって話していた
「くっそ、いつもならあの時間に屋敷にいるんじゃねえのかよ。しかも変な連中にバレちまうし、仲間も置いてきちまった。どうすんだよ!!」
「これじゃああいつらが北の洞窟まで来るのも時間の問題だろ。マキナお嬢さんも見当たらねえしどうする!!」
その大声が聞こえたマキナさんがとことことその人達に近づく
「わたしがどうかしたの?」
「あ?な、なんだこいつ」
「お前なんかには用事ねえよ」
「でも、今あなた達わたしの事話してたわ」
マキナさんはそう言ってフードを外した
「こ、こいつは!!!」
「おいおい、マキナお嬢さんじゃねえか!!なんで外に!」
男達はいきなりの事に戸惑っている
「わたしに用事?お友達になってくれるの?」
「え。あ.....ああ、そうなんです、お嬢様。あの、お友達になりたいんで俺達に着いてきてもらってもいいですかい?」
「でも、今ソールを待ってるの。もう少ししたら来るからそれまであなた達も待ってて?」
「ソール?つ、付き人か?いや、今すぐ来てほしいんですよ」
「でも....」
俺が急いで買った香水を持って戻ってくると、その謎の男達とフードを外したマキナさんが話しているのを目撃した
「げ!な、なにしてるんですか!あなた達!!」
俺は急いでマキナさん達に向かって走り出す
「まずい!!本当に戻ってきやがった!!おい、もう逃げるぞ!!」
男の一人がマキナさんを持ち上げて走り出した
「キャッ!え、どうしましたの?」
「待て!!!」
逃げていく男達の背中を追いかける。誘拐なんてさせるものか
ナイン「流石お嬢様の部屋だね。いろんなものがある」
エイリーク「ぬいぐるみとかも多いわね。可愛い」
ロード「これくらいならまだいいんだよな。やっぱりあの部屋がコテコテしすぎなんだよ」
サンディ「なに、ロード?アタシのセンスにイチャモン?マジうざいんですケド」
ロード「別にそんなんじゃねえけどよ。ちょっと俺は苦手ってだけだ」
サンディ「ってゆーか、思ったんですケド」
ロード「なんだよ」
サンディ「これ、アタシ達も一見ドロボーじゃね?」
ナイン「あ」
エイリーク「確かに」
ロード「........サンディ、そういう事は言わなくていいんだぜ」
サンディ「やっぱり気づいてたんじゃん。さっさとアタシ達も出た方がよさそう」