「流石ですぜ!!嬢さん、生きてますかい?.......お嬢さん?......お、おい、しんでるぜ!」
男の人の声にソールの顔が青ざめる。だが、僕達はわかっていた。マウリヤさんは人形、つまり生きてなどいない。血も心臓もあるわけないのだから
「そんな......」
ソールが絶望感漂う声をあげたその時
「びっくりしたわ。あんなユニークな人、初めて見たわ」
マウリヤさんは何事もなかったかのように起き上がった
「え!?ひ、ひぃ.....なんで、確実に心臓が止まってたはずなのに.....ばけもの、こいつはばけものだー!!」
男の人は青ざめた顔で逃げていってしまった
「.......ばけもの.....」
マウリヤさんは男の人の発言に顔を俯かせて静かに呟いた。ソールが思わず駆け寄った
「マキナさん!!大丈夫ですか?」
ソールはマウリヤさんの手を握って毒沼から出てきた。マウリヤさんはずっと下を向いている
「マキナさんは化け物なんかじゃないですよ。まったく、攫おうとするし酷い事言うしなんてやつらなんだ」
「......わたし、知ってるわ。ばけものって.......絵本に出てくる悪い生き物の事。みんなのきらわれもの.......」
静かに呟くマウリヤさんをソールは優しく抱きしめた
「.........ナインさん、サンディさん、ロードさん、エイリークさん。本当は、なにか.....知ってるんじゃないですか?マキナさんの事」
「!?」
ソールはこちらを見ずにマウリヤさんを抱きしめたままそう言った。体は少し震えている
「教えてください。それとも.......俺にだけ秘密の何かがあるんですか?」
「.......あのね、ソールのためを思って隠してたの。ソールが傷ついちゃうかもって思って言えなくて........ごめんね」
「悪い、黙ってて。本当は知ってんだ、お嬢様の事」
僕達はマキナさんとマウリヤさんについての事を全て話した
「...........」
話を聞いた後もソールはずっと俯いたままで何も話さない
「ごめん、ソール」
僕も思わず謝るとマウリヤさんが話し始めた
「........本当はわかってるの。うまくできないの。みんな本当のおともだちじゃない。物をあげる時だけ来てくれるの。ほんとは......わたしはいらないの。マキナのためにたくさんおともだちを作りたかったけど、わたしばけものだからダメなのね......」
マウリヤさんの言葉に僕は胸が苦しくなった。思わず口を開こうとすると
「マキナさん、初めての外の世界楽しかったですか?」
ソールが明るくそう言った。抱きしめていたのを離して、そっとマウリヤさんの手を握っている
「え?うん。とっても楽しかったわ、知らないことばかり」
「よかった。俺とそのお友達とは何か違いましたか?」
「うん。ソールは.......物をあげなくてもなんでも教えてくれた。わたしを外に出してくれた。これまでとは全然違ったわ、どうして?」
マウリヤさんがゆっくりと顔をあげてソールを見た
「俺はマキナさんのおともだちだからです。知ってますか?おともだちは、物なんてなくてもその人を大切に、幸せを想う事ができるんですよ」
「ソールは、わたしのおともだち。これまでとは違うおともだち?」
「はい、マキナさんの新しいおともだちです」
「ばけものでも、いいの?」
「ばけものなんかじゃありません。俺の大切なおともだちにそんな事言わないでください」
「..........うふふ、ふふふふ。あははは!ソールったらおかしいのね」
マウリヤさんは嬉しそうに笑い始めた。物悲しかった空気がマウリヤさんの楽しそうな笑い声で和らいでいく
どこからか声が聞こえてきた
ありがとう、ソールさん。マウリヤ.....わたしの大切な、大好きなおともだち
すると、ソールの横にマキナさんの幽霊があらわれた
「おわ!これが、マキナさん」
「おかえりなさい!どこへ行ってたの?また遊びましょう。いろいろあったのよ。たくさんお話もしたいわ」
マウリヤさんの嬉しそうな顔とは対照的にマキナさんは少し悲しそうに口を開いた
「............ごめんなさい。もう遊べないのよ。もう二度と遊べないの」
「......わたしの事、きらい?きらいになったから遊ばないの?」
マウリヤさんは不思議そうにしながら首を傾げている
「違うわ。マウリヤ、ひとりぼっちだった私をあなたが支えてくれた。でも、あなたが今度はひとりぼっちになってしまったのが心残りだったの。でも.....」
マキナさんはソールを見た
「ソールさん、マウリヤのおともだちになってくれてありがとうございます」
「ソールを知ってたの?わたしの新しいおともだちなの。とっても面白いのよ」
「大した事じゃないですよ、マキナさん」
ソールが優しく笑ったのを見てマキナさんはまた悲しそうな顔をした
「せっかくおともだちになってくれたのに、ごめんなさい。ねえ、マウリヤ」
「なあに?」
「ごめんなさい。あなたはもう自由になって。私の願いにもう縛られなくていいの。私はマキナ、あなたはマウリヤ。私は天使様と一緒に遠い遠い国へ旅立ちます」
マキナさんはゆっくりと光を放ちながら天に登っていく
「だからあなたも....偽物のマキナじゃなくて、お人形のマウリヤに戻って。私の大切な、大好きなおともだち......。どうか幸せに」
マキナさんはそう言って消えていった
「.........」
マウリヤさんは黙ったままマキナさんのいた場所を見つめている。その手は静かにソールの手を握っていた
「マキ.....マウリヤさん」
「.......マキナは遠い国へ旅立つ。わたしは、人形マウリヤに戻る.....。でもその前に、マキナは旅に出るって街の皆に教えてあげなくちゃ。ソール、わたし人形に戻ることにする。だから......わたしとはおともだちじゃなくても」
「おともだちですよ」
「え?」
マウリヤさんが言いにくそうにしながら話しているのを見てソールは優しく笑った
「人形だっていいんですよ。俺とマウリヤさんはおともだち。何も変わりません」
「ソール.......うふふ、あなたって本当おかしいのね。ありがとう、ソール。じゃあ、わたし先に戻ってるね。街の皆に知らせなくちゃ。ソール達もすぐに来てね」
マウリヤさんはそう言って戻っていった。ソールはその後ろ姿を見守っていた
「......なんかアタシら空気だったっぽくね?まあ別にチャチャいれようとか思ったワケじゃないですケド」
「皆さん」
ソールの声に少し身を強ばらせた。ロードとエイリークも同じようだ
「どうしたの?」
「今回は気にしませんけど、次は絶対教えてください。優しさ故なのはわかりましたけど.......俺は、少し悲しかったです」
「........ごめん、ソール」
「すまねえ」
「ごめんね」
ソールの悲しい声にたまらず三人とも謝った。悲しませたかったわけじゃなかったけど、結果としてソールを悲しい気持ちにさせてしまった
「よし、もうこの話は終わりです。さ、早くこんな洞窟から出ましょう。マウリヤさんも待ってますし」
こちらに振り向いたソールは笑っていた。それでも僕にはどこか無理して笑っているように見えて仕方なかった
次の日、サンマロウ
宿屋に戻って昼まで休んだ僕達はお屋敷へやってきた
「マウリヤちゃん、どうなったかな」
「あのマキナの言う通りなら人形に戻ってるはずよね」
お屋敷の前にやってくると門番の人がお屋敷から出てきた
「ん?ああ、あの旅人か。ここはもう自由に行き来していいぜ」
「え?どうしてですか?」
「マキナお嬢様はどうやら旅に出たらしい。しばらく帰らないから門番はもういらないとの事だ。もしマキナお嬢様が戻ってきたら俺はまた門番をさせてもらう事にした。じゃあな」
門番の人はそう言って出ていった
「話はちゃんと通ってるみてえだな」
そのままお屋敷に入ると掃除をしているメイドさん達がいた
「こんにちは。マキナお嬢様のお部屋に行ってもいいですか?」
「すいません。マキナお嬢様は昨日旅に出られてしまい不在なのです」
メイドの人は申し訳なさそうに頭を下げた
「いえ、知ってます。少しだけ見ていこうかなと」
「それは構いませんが....」
マキナさんの部屋
マキナさんの部屋にある扉からあの小さな中庭に出た。そこには変わらずお墓が並んでいた。その一つの墓にマウリヤさんがもたれかかっていた
「あ!女神の果実!」
動かないマウリヤさんの前に女神の果実が落ちていた。僕とサンディは急いでカバンにしまった
「じゃあ.....マウリヤさんは本当に.....」
ソールはそっとマウリヤさんの顔に触れた。マウリヤさんはなんの反応も示さない
「........」
ソールは静かに顔が暗くなった
「.......ん?ソール、マウリヤさんやこのお墓から違う匂いがする。お花みたいな.......」
ふとエイリークが鼻をひくつかせてそう言った。確かに少しいい匂いがする
「え?.........もしかして」
ソールはマウリヤさんの握られた手を開くとコトンと何かが落ちた
綺麗な瓶に入った香水だ
「........マウリヤさん.......」
「この香水って確か私達がお近付きの印に買ったやつだよね」
「墓の前にも一つあんぞ。1個増えてねえか?」
「確かに。なんでだろ」
僕達が少し話していると、ソールはそっと香水を取って自分の手とマキナさんのお墓、そしてマウリヤさんに吹きかけた
「おともだちの証です。マキナさん、マウリヤさん、また来ますね。いろんな話をお土産に持ってきます。待っててくださいね」
ソールは嬉しそうに笑って祈り始めた
ロード「で、どうだったわけよ?初デートは」
ソール「初デートって.....別に話すような事なかったです」
ロード「なんだよ、もったいぶらずに教えろよ」
ソール「だいたい、俺を一人にさせたのロードさんじゃないですか。気になるんならこっちに来ればよかったんですよ」
ロード「そう言うなって。な?お嬢様といい雰囲気だったんだろ?手とか繋ぎ慣れてたな?」
ソール「ニヤニヤしすぎです。人のそういうの見て面白がるのはよくないですよ」
ロード「面白がってねえよ。ほら?今後の参考にしようかなみてえな」
ソール「今後?ロードさんも気になってる人とかいるんですか?」
ロード「もしかしたら何かの間違いで出来るかもしれねえだろ?」
ソール「何かの間違いレベルなんですか....。まあロードさんはカッコイイですからモテそうですよね。羨ましいです」
ロード「俺はソールも人の事言えねえと思うけどな。俺より優しいお前の方が俺はモテると思うぜ」
ソール「.......なんか、恥ずかしいなこの話題。やめましょうか」
ロード「賛成」