最初は本当にただのカモだった。危機感なんかなさそうで、あまり荒事を知らなそうな面。俺はそういうやつが嫌いだった。平和に優しい世界でぬくぬく育ちましたって感じを隠しもしない、そんな生温いやつらに少しでも一泡吹かせてやりたかった。現実なんてクソなんだって
のほほんと笑った顔も、この先どうなるのか何も考えてなさそうな顔もムカついた。それなのにあいつは馬鹿でお人好しだから、こんな俺にすら信頼してしまっている。ハッキリ言えばいつでもやれた。戦闘中でも、何気ない会話の瞬間も、寝ている時にも。多分それをしなかったのはやっぱり、あいつに何かを感じたからだろうな。後になってそう思う
天使、か。色々思う事はあるが、まずはうっかりでやらなかったのは過去の俺ナイスだったと思う。損失がデカすぎるからな。利用できる所はたくさんありそうだからとことん利用させてもらおうと思った。俺のためにもな
だから仲間なんて感覚はサラサラなくて、これまで通り目的を達成したらチームを抜けてもいいし、なんなら口封じとしてやっても構わない。そのつもりだったのに......アサを、俺の大事な弟をなんの見返りもなく助けてくれた
薄々わかっていた。こいつらといると大変だしムカつくし、俺がいなきゃきっとあんなやつらすぐに野垂れ死んでるはず。でも......気持ちよかった。嬉しかった。楽しいと、久しぶりに思えた。殺していた感情が、抑えていた心が溢れ出した。他のチームでは絶対にならなかったのに
「そんなに他と違うのかね」
今は俺一人、リッカの宿屋の屋根の上に横になっている。久しぶりに一人になりたい気分だった。そのせいか物思いに耽っていた。慌ただしく流れた時間を思い返してもかなり濃い時間を過ごしていたと思う。適当に街を行き来して、なんとなくお宝探しして、なんとなくクエストをやってみたりして。他の冒険者と変わらないように過ごしてみても、俺の心に響くものはあまりなかった
だからこそ、今のチームは変なのだと思う。もちろんナインの事やサンディを入れたらどのチームよりも変だ、ずば抜けている。だがそういう点ではなく、他のチームにはないような温かさを感じている。ナインの最早慈善団体かと思うほどの人への尽くし具合だけでなく、ソールやエイリークも大概だと思う
根っこからの善人で、困っている人を見捨てられない質の集まりなのだろう。見返りすら求めない姿勢には呆れを通り越して少し引いているぜ、俺は。俺はお前らとは違って悪人なんだ、基本見捨てるし報酬は働いた分以上貰ったっておかしくねえはず。少なくとも俺はそれが当たり前だった
でも、こいつらと関わってから考えが少し変わってきている。助けられた人の笑顔や感謝の言葉を貰う度に、なんの価値もないと思っていたものに心が軽くなった。心の底からの「ありがとう」を見るとこちらもふと「よかった」と思ってしまう
レオコーンのやつも、エイリークの親達も、オリガのお父さんも、ラボオのおっさんも、マキナのお嬢様も。皆俺達に「ありがとう」と言ってこの世を去っていった。そう言われる度に俺は優しい気持ちになってしまった
「っだーー!!しっかりしろ、俺!!俺は海賊ロード!!甘ったれになるつもりはねえんだぞ!!」
その感情を思い出し少し恥ずかしくなる。俺にそんな感情があったなんて思わなかった。あの時、きっと俺はナイン達と同じような柔らかな顔をしていたと思うと自分でゾッとする
「はぁ、俺、もっとクールじゃなかったのかよ」
思い通りにならない現状に頭をガシガシとかく。人助けなんてキャラじゃないし割に合うわけない事なんてやるわけなかったのだが、それもいいのかもしれないと思ってしまっている俺に恥ずかしくなってくる。聞いてるだけで恥ずかしくなるようなセリフだって吐かれているのだ
『仲間の僕達を頼っていいんだからね。信じていいんだからね、僕達はいつだって君の味方なんだから!』
「仲間......ね。これが仲間、なのかねえ。ま、思ってたより悪くなさそうだよな」
カラコタ橋での件でアサや俺自身命を救われた。その恩には報いなきゃならないし、女神の果実も必要だ。回収しないといけない。回収....したら、ナイン達は.....
ゾッとするような未来を予想してしまい、後味が悪くなってしまった。こうなるから深追いはしたくなかったが仕方ない。どうにかするしかないだろう
「俺が守ってやるか」
恩には恩で返す。何も返さなかったり仇で返すクズに成り下がるつもりはない。命を助けられたのなら、命を助けてやる。それが仁義というものだろう。ツテはあるのだ、きっとどうにかなる
「だから......もう少しだけ、俺のままでいたい。俺でいさせてくれる場所にいたい。あいつらと、いたい」
俺は今は心からそう思う。ナインもソールもエイリークもサンディも俺がいないとダメなんだ
ブー、ブー
そんな事を考えていた拍子にポケットにある機械が振動した。いつもなら取る物も、なんとなく取る気になれなかった
ナイン「ねー、ロード、この装備なんて軽そうで面白そうじゃない?」
ロード「あ?ブッ....はははは!お前こんなん着んのかよ!!だせえな!!」
ナイン「えー、そうかなー?可愛いと思うんだけどな。ソールにはこっちとか」
ロード「ヒィーッ!!はははは!!やべえって!!ソールの顔見てみてえからやってみろよ!すんげえ顔すると思うぜ!」
ナイン「じゃあロードもこれにしてお揃いにしよう」
ロード「はっ......いや、流石に冗談キツイぜ、ナイン?」
ナイン「え?だって、よさそうじゃない?」
ロード「いやいやいや。あの...やめてくれ、頼む」
ナイン「そっか、残念だなー」
ロード「サンディ、はやくこっち来い。こいつのセンスに任せたら大変な事になるからよ」