星月の欠片外伝 『ブラックパレード』 作:麻布亭 那比湯 慧林
『息子よ。いつか大きくなったら、
夢破れたものや、疲れ果てたものたちの救世主になってくれるか?
お前の中に潜む敗北感や、悪魔、不信心に負けず、やつらの企みを打ち倒すことができるか?
私はいつかお前を置いて逝く。
亡霊がお前を導くだろう。あの夏のブラックパレードに』
by 『welcome to the black pareade』
僕がまだ小さな子供の頃、モビルスーツが好きだった。
男の子によくある幼い頃の『機械博士』の時期だ。
モビルスーツ図鑑を開いていつも見るのはなんと言ってもガンダム! それもRX78が僕のお気に入りだった。
「なんだビギン、またモビルスーツ図鑑を見てるのかい?」
「うん!」
「何を見てるんだね……おお、ガンダムか。ガンダムはいいぞビギン」
そういえばおじいちゃんは昔パイロットだったとお母さんから聞いた事がある。
「おじいちゃんもパイロットだったんでしょ? 何に乗ってたの?」
「そうだなあ……」
おじいちゃんは遠くを見る目をして、ふいにいたずらっぽい笑顔をした。
「……おじいちゃんはな、昔ガンダムに乗ったんだぞ」
「本当に!?」
「本当さ! たった1日だけな……!」
「なあんだ」
僕はがっかりしたのと同時に、嘘じゃなさそうで安心した。
でもおじいちゃんは僕が疑ってると思ったのか、端末をいじって1枚の写真を僕に見せた。
「写真もあるぞ。悪いジオンと戦った後にメカニックのみんなと撮ったんだ」
そこに写ってたのは、細部は違うが確かにあのRX−78。
ガンダムだ!
「……! ガンダムだ……」
「そうとも。ガンダムさ」
僕は、おじいちゃんに言って度々その写真を見せてもらった。
ガンダムもそうだけど、その写真を見ているおじいちゃんの目になにか美しいもの、キラキラ輝くものがある気がして。
時は流れて僕は高専生になった。この小さな町のメカニック志望だ。MS免許を取ったある夏の日、祖父は大層喜んで、あの日のような笑顔で僕を工房に連れ出した。
「ビギン、工房に行こう。ビギンが免許を取ったら乗せてやりたいMSがあるんだ」
「マジで?! まさか買ってくれるの!?」
「いや、アレは同好会の共有でな。古い型だし……お前はジェガンにしなさい。あの方が安全だよ」
「なんだ。でもありがとう」
工房はこういった町によくある町工場で、車や重機、プチモビの整備や販売をしていた。
少ないけど、古いジェガンやネモの民生品を売ってたりして、幼い頃からここは僕の遊び場であり、町のMS愛好家の社交場でもあった。
そして、やがて僕の仕事場になる所だ。
「アレを見たらきっと驚くぞ。ビギン」
「もったいぶるなあ」
「ハハハ、まあ見てのお楽しみだ」
そうして十分ほど車に乗って工房のガレージに着く。
秘密基地じみたガレージの隠しエレベーターを初めて知った。
「これいつからあるの?」
「秘密さ。この町の男たちの秘密基地だよ。お母さんにもガールフレンドにも絶対に秘密だ。男の約束だ。できるか?」
「たぶん」
「絶対だ。誓いというのはそういうものだ」
「破ったらムラハチ?」
祖父は凄みのある笑顔で応じた。
「約束するよ」
「それでいい。お前も来年からここに就職するんだろ。仕事を始めたなら、それは一人前の男だ」
「あー……うん」
「じき、わかるさ」
祖父は大きな手で僕の背中を叩いた。
エレベーターが開いた。
その先にいたのは……ガンダム。あの日のガンダムだった。
「これだよ。わしらのガンダムだ」
「アレまだあったの!?」
「いや、新造した。できるだけ同じパーツを集めてな」
「へえ〜……」
僕は仔細にその『ガンダム』を見てみた。
「これジムⅱじゃん! 頭は陸ガンですらないお手製だよね?!」
祖父はあいまいに笑った。
僕はひどく落胆したが、それを表に出すほど子供でもなかった。
「まあ……うん、確かにジムⅱなら性能はRX-78と同スペックだから実質ガンダム……かも……?」
「まあ、そうがっかりするな。少し乗ってみようじゃないか」
「副座式なの?」
「詰めれば二人くらい乗れる」
「ええ〜……」
この時点でもうオジサンに合わせる若者モードでしかなく、テンションは底だった。
「センサー、ジャイロバランサー、エンジン、オールグリーン」
『おう! 退避確認ヨシ! 発艦を許可する……ってな!』
町のモビルスーツ同好会の人たちは建物内に避難して管制塔ごっこだ。
そう、その時の僕にはいい大人が何を子供みたいなごっこをしてるんだとひどく恥ずかしかった。
「ラージャ。『ガンダム』動くぞ」
けれど、『ガンダム』が動いたその瞬間。僕はあの幼い日のように何か輝くものを祖父の目に見た。
祖父の顔つきが好々爺から『戦士』のそれになった。
それからガンダムはガレージの中をちょっとだけ歩き、シュミレータを僕と祖父交代で動かした。
祖父の操縦は反射神経は衰えていたものの、軍のエースだったというのを信じるには十分なものだった。
「どうだ、おじいちゃんもまだまだ捨てたもんじゃないだろう」
「スコアは僕の方が上だけど。でもおじいちゃん本当にパイロットだったんだね」
「当り前だろう! ハハハ……」
スコアは僕の方が良かったが、明らかに滑らかさが違った。
僕はほんの少しだけ祖父を見直し、それと同時にやっぱりオジサンたちの悪乗りにはつきあいきれないと思った。
それは僕の少年時代の温かい思い出。
それだけの、はずだった。