ナグサ「また相手の出方を伺うがあまり決め手に欠けていたね、モモイ。戦闘においては石橋を叩きすぎるという事は無いが、剣術では別だよ。相手に隙を与えてしまうという事も念頭に置いておきな。」
モモイ「くっ…」
初めて彼女と出逢ってから一週間が経過した。私は彼女に剣術の稽古をつけられていた。やはり彼女は強い。戦闘能力だけならあのゲヘナの風紀委員長に匹敵すると素人の私でも分かる程に。
ナグサ「今日はこのくらいにしておこうか。傷に汗が染みて痛いだろう。木刀を納屋にしまってきなさい。」
私はナグサに一撃でも喰らわせてやろうと、後ろから襲いかかるが、左手で受け流されてしまった。
ナグサ「私に不意打ちは通用しないよ。モモ…」
私は彼女の右半身に隙が生まれているのを見逃さなかった。すかさず脇腹に木刀を振るうが、向こうもこちらの狙いに気づいていたのか、軽くかわされる。
その時、私は彼女の右腕が黒ずんでいるのに気づいた。
モモイ「ナグサ、その腕は……」
ナグサ「……いずれ話そうかと思っていたけど、先に知られてしまったね。見ての通り、私は病に侵されている。」
ナグサは少し間を置いて続ける。
ナグサ「私は元々百花繚乱紛争調停委員会という部活に所属していた。私の大切な人を失った事は前に話したよね。その人は百花繚乱の部長だったんだ。この腕はその時に患ったものだよ。」
ナグサ「…恐らく、私はもう長くは無い。日に日に黒ずみが広がってきている。だから君がこの絶望に満ちた浮世を変えるんだよ。私には君に意思を託す使命がある。」
私は黙って彼女に背を向け早足で納屋に向かった。
ナグサ「モモイっ…!」
彼女の呼びかける声を無視し納屋に入る。
私が浮世を変える?そんなの絶対に無理だ。
ミドリやアリスすら守れなかったというのに。
ユズはあの時、自ら犠牲となり私を救ってくれた。なのに、私は恐怖から逃げる事しか考えられなかった。
今も、眼前の惨事から目を背け、のうのうと生きているのだから。
ナグサが私を追って納屋に入ってきた。
ナグサ「…モモイ、私が何故、君に意思を託そうと思ったか分かる?たまたま君がここに流れ着いてきたからではないよ。」
ナグサは続けて言った。
ナグサ「私はこの街がカイザーに襲撃された時、ひとり雪山にいたんだ。それも幼稚な理由でね。私が街に降りた時、街は既にカイザーにより占領されていて、火の海が広がっていた。私はカイザーの兵士を避けながら部員を探した。街中を流し回って、そして、やっと見つけたよ。私の大切な友人と、私を慕ってくれていた後輩の亡骸を。」
ナグサ「私はただ自分を呪うしかなかった。気付けば友人達の前で銃口を咥えていたよ。その時、声が聞こえたんだ。身を挺して私を救ってくれた人の声が。」