──口の中に感じる血の味と、荒い呼吸に混じる血の匂いを感じながら、ただひたすら走る。
灰色に染まった曇り空はまるで私の黯然銷魂とした心を体現している様だった。
肉体の限界を感じ、視界がぼやけると同時に誰かにぶつかった。
???「おっと、お嬢ちゃん。ごめんよ、大丈夫だったかい?」
バンダナを巻いた獣人が手を差し伸べる。
???「君、名前は?お母さんはどうしたんだい?」
彼は私に視線を合わせる為に膝を屈めて優しい口調で質問する。
私が彼を警戒し後ずさろうとした時、奴等の声が聞こえた。
カイザー兵「いたぞ!!こっちだ!!」
???「どうやら追われている様だな。この先に俺の家がある。そこで匿ってやる。」
彼は私の状況を察してくれたのか、私の手を引き走り出す。
玄関の戸を開け、中に入る。
???「はぁ…はぁ…ひとまず大丈夫だろう。俺の名は柴。お嬢ちゃんの名前は?」
私は躊躇いつつ名乗る。
「……シロコ……砂狼シロコ。」
柴大将「シロコちゃん、お母さんはどうしたんだい?」
シロコ「……っ」
私は涙を堪えるのに必死で答えられなかった。
柴大将「……状況は粗方理解したよ。この場所もすぐバレるだろう。2階の屋根裏に隠れていなさい。」
私は言われた通り2階の突き当たりの部屋に入り、屋根裏に隠れる。
間も無くして家の戸が叩かれた。
屋根裏の木材越しに会話を聞く。
柴大将「どちら様でしょうか。」
???「部下から貴方の家に鼠が入り込んだと聞きましてね。我々の勘違いならばそれでいいのですが一応確認させて貰っても?」
その声の主は私の両親を殺した人物だった。
私は身体の震えを必死に抑える。
柴大将「誤解です。私の家には誰も来ていません。」
???「まあそう堅くならずに。形式的な質問を幾つかさせて貰うだけですよ。貴方には何の危害も与えるつもりはございません。」
???「では、お邪魔しますね。」
柴大将「…どうぞ、お掛けください。」
柴大将が椅子を引く。
???「どうも。さて、お名前をお聞きしても宜しいですか?」
柴大将「…柴です。」
???「柴さん、ご職業は何を?」
柴大将「……ラーメン店の営業をしています。」
???「柴…ラーメン……もしや、柴関ラーメンの店主さんでしたか?」
柴大将「…そうですが。」
???「貴方のお店なら何度か行ったことがある。貴方の作るラーメンは実に絶品だ!」
柴大将「それは…どうも。ところで、葉巻を吸っても?」
???「貴方の家だ。ご自由に。」
柴大将は震える手で煙管に火をつける。
???「自己紹介がまだでしたね。私、カイザーPMC高位指揮官ジェネラル直属の秘密部隊、Amadeus神の愛中将のランダ・トイフェルと申します。同僚からは"スネーク"と呼ばれていますが、気軽にランダと呼んで下さい。私の噂はご存知ですね?」
柴大将「…狡猾で、"鼠"キヴォトス人狩りが得意だとか。」
スネーク「……スネーク、実に不愉快な渾名だ。私は鼠共を尊敬しているというのに。」
スネークは少し間を置き話し始める。
スネーク「……少し昔話をしましょうか。ここキヴォトスの地は元々、先住民である無名の司祭のものだった。だが、現キヴォトス人は彼等を武力行使で放逐し、このキヴォトスの地を我が物にした。」
スネーク「世の中には現キヴォトス人の行いを、鼠が畑を食い荒らすかの如く低俗な行為と蔑む連中もいますが、私はそうは思いません。この世は元より弱肉強食。強い者が弱い者を喰い生きていく。故に私は現キヴォトス人の行為を自然の摂理に従っただけに過ぎないと考えているのです。」
柴大将「……だから貴方達、カイザーコーポレーションが現キヴォトス人を淘汰するのも正当な行いだと?ランダさん。」
スネーク「その通り。鼠が畑を食い荒らすのなら、蛇は鼠を食う。そこに何の違いもありません。」
スネーク「回りくどい話は苦手なタチでね。本題に入りましょう。」
スネークは形相を変え質問する。
スネーク「鼠は屋根裏にいるな?」
柴大将「…ッ!」
スネークは鋭い目つきで静かに柴大将を見つめる。
柴大将は一滴の涙を溢し、頷いた。
一連の会話を聞いていたシロコは屋根裏の中で必死に脱出口を探す。
奴等が続々と階段を登る音が聞こえてくる。
スネーク「鼠の位置を指で示せ。」
柴大将はこわばった身体を動かし、スネークに向かって指を差し、唾を吐きつけた。
一発の銃声が聞こえた直後、天井に銃弾を一斉に掃射される。
私は屋根裏の壁を打ち破り、外へ走った。
私を追う背後のカイザー兵に恐れながら、ただひたすらと、必死に走った。
奴等に両親が殺された時と同じ様に。
奴等を巻いた頃、私はアビドス自治区を出ていた。
廃墟の内奥に身を潜めて安心したのも束の間、何者かが廃墟に侵入してくる音が聞こえた。
私は死を覚悟し、涙を溢しながら両親の名を囁いていると、隠れていた部屋の扉が開かれた。
「──うへっ?!びっくりしたぁ…君、どこから来たの?」
そこに立っていたのは、桃髪の女性だった。