【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】   作:埴輪庭

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第十五話【雪解け】

 ◆

 

 水上第一拠点、来賓室

 

「大方のところは聞いているが──ともあれ、久しぶりだね」

 

 榊星周がそういうと、片倉は頭を下げた。

 

 それを黙って見つめ、星周は「煙草を吸っても?」と尋ねる。

 

「はい」

 

 片倉が短く首肯すると、星周は紙巻煙草を一本、人差し指と中指で摘まんで先端を視線を注ぐ。

 

 火を点けるべきか、と片倉が腰を上げようとするとタバコの先端からにわかに煙が立ち上った。

 

「PSI能力ですか」

 

「うん、ある程度メカニズムは解明されているからね。私にもできないかと練習したら出来た。まあせいぜい煙草に火を点けるだけが精いっぱいだが」

 

 この時代、PSI能力──つまり超能力の原理は量子力学的に解明されている。

 

 "意思を波に、波を粒に、そして粒はあなたの望みに。PSI能力を覚えてQOLを高めよう"──ここ最近国内ではこんなCMがよく流れるほどだ。

 

 量子力学ではすべての物質やエネルギーは波の性質を持っており、意思や思考もこの波の一種として捉えられる。

 

 そして波には波と粒子の二重性が存在し、波の性質を持つものが観測や特定の条件下で粒子(具体的な物質)として振る舞う。

 

 最後に、粒に変換された意思(エネルギー)が術者の望む結果を生み出す。

 

 この辺りの解釈は既に一般に広まっており、現在世界中ではちょっとした超能力を使える者が爆発的に増えている。

 

 とはいえ何でもかんでも出来るというわけではなく、せいぜい小石を数ミリ動かすくらいが精いっぱいといった者がほとんどだが。

 

「ところで、今日私が君に会いに来た理由だが」

 

 星周がそう言うと、片倉も居住まいを正す。

 

「それを言う前に少し伝えておきたいことがあるんだ。まず、娘をむざむざと死なせた事は度し難い。とても許せない。同時に責任が全て君だけにあるとも考えていない。こう言ってしまっては身も蓋もないが、運が悪かったんだろうね。あの時の君たちならば、本来なら"攻略"可能なダンジョンだったということは認識している」

 

 星周はそこまで言うと、少し休憩するように煙草を一口吸い、溜息混じりの煙を大きく吐き出した。

 

 煙に多分の感情が込められていたからだろうか、部屋の空気がすこしだけ重くなる。

 

「しかし許せないものは許せないんだ。合理的な考えではない事は理解しているし、君と娘の結婚に変な条件をつけてしまった私が結局全ての元凶ではないかと言う思いもあるのだが。君は当時、優秀な探索者だった。そして私は優秀な者が好きだ。優秀な者でなければ娘との結婚を許したくなかった。私は君の優秀さを少し買いかぶってしまっていたのかな」

 

「……俺もあなたの立場なら、俺の事を許さないでしょう。でもあなたは俺の気持ちが少しでも楽になるように、逃げ場を作ってくれた。きつい環境で仕事をし、あなたの会社の為に金を稼ぎ、償い続ける機会をつくってくれました。償う事もできなければ俺は澪の後を追って死ぬしかなったでしょう」

 

 星周は答えようとせず、再び煙草を咥える。

 

 次に煙が吐き出された時、部屋の空気はそこまで重くはならなかった。

 

「……あの個体だがね」

 

 星周は話題を切り替える。

 

「それなりの利益にはなった。素材や、情報といったもので。君の──真祐君の貢献は大だ。社が得られた利益で、娘の死に対する慰謝料は払いきったと考えて良いだろう。だからもういいよ」

 

「もういいとは?」

 

「禊は終わりということだ。辞めるなら辞めるでかまわないし、相応の待遇で雇いなおせというならそれでもかまわない。元はもっと早くそうするつもりだったが、どうにも顔を合わせづらかった。君をより深く憎んでしまうかもしれなかったし。何かきっかけが欲しかったんだ。私の優柔不断のおかげで君はより長い間不遇な環境に置かれたわけだが、まあ私は娘を失っているんだ──それくらい我慢してくれるだろう?」

 

 星周がそういうと、片倉は「はい」と短く笑った。

 

 

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