【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】   作:埴輪庭

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第二十六話【瑞樹の疑問】

 ◆◆◆

 

「片倉さん、うらやましいなあ」

 

 しまったと思った時にはもう遅い。

 

 私は思っていることが思わず口に出てしまった。

 

 片倉さんが怪訝そうな顔で私を見ている。

 

「い、いえ。すいません、強くていいなって思ったんです。私は戦闘はどちらかというと苦手ですから」

 

 そういうと片倉さんを納得してくれたようだったけど、やっぱり羨ましいなと思う気持ちが消えない。

 

 強くて羨ましいな、というのは本心だけれどそれは一部だ。

 

 片倉さんほど強ければきっとどこに行っても居場所があるし、常に誰かしらから必要とされるのだろう。

 

 私はこれまで私を必要としてくれた人は1人もいない。

 

 まあ仕方がない気がする、常に自分の顔色を伺ってくるような相手を好きになれる人はいないだろう。

 

 結局私が能力を使わなければいい話なのだが、それが私にはできない。

 

 無意識的に使ってしまう。

 

 ただ、片倉さんに注意をされてからは使う相手は選ぶようにしている。

 

 要するにやめることができていないのだ。

 

 だって、その人が私をどう思っているか気になってしまう。

 

 悪意を抱いているかいないのか、嫌われているかいないのか、こういうのはだいたいその時の機嫌とリンクするので、私に対して怒っているかどうかがどうしても気になる。

 

 探索者協会が案内するカウンセリングにも通ってみたけれど、私のこの気質は一向に良くならなかった。

 

 まあ原因は分かっているのだが。

 

 片倉さんにはちょっと叩かれているくらいのことを言ったけれど、実際はそんなものじゃなかった。

 

 私は父親にとって"灰皿"で、"性奴隷"で、"召使い"で、他にも数えあげればきりがないけれど、とにかくいろんなことに役に立てる道具だった。

 

 そして母親にとっては"父親の機嫌を良くするための道具"だ。

 

 逆らえば殴られた。

 

 骨を折られたこともある。

 

 それで目覚めたこの能力は私が受ける暴力をそれなりに減らしてくれた。

 

 だけど常に人の顔色を伺ってしまうという癖がついてしまった。

 

 そして家出同然に飛び出して、東京で探索者をするようになって。

 

 私はそれなりに暮らしていけてるけれど、やっぱり居場所は見つからない。

 

 一時的な仲間はできても私が本当に欲しい仲間は見つからない。

 

 おかしいよね。

 

 私はみんなのことを怒らせないようにしているのに。

 

 邪魔にならないようにしているのに。

 

 誰も私を大事にしてくれない。

 

 片倉さんはそうじゃないんだろうな。

 

 羨ましいな。

 

 きっと片倉さんも私が死んでも特に困ったりはしないんだろう。

 

 上級の探索者みたいだし、今回の探索だって人型モンスターに慣れるためだって言ってた。

 

 そんな準備運動みたいなことで命を落としかねないダンジョンに入るっていうこと自体が異常に思える。

 

 ああ、でも私もきっと他人が聞いたらくだらない理由で命をかけて探索者をやっているのかもしれない。

 

 だってこういう命を預け合うところでなら、私を必要としてくれる人がいるかもしれないから。

 

 ・

 ・

 

「沖島さん、ここはどうも距離感も狂いますね。それなりに急いでいるのに、カイトさんたちとの背が縮まらない」

 

 片倉さんが不意にそんなことを言った。

 

 確かにそうだ、走ったりすると罠にはまる可能性もあるので、それなり早くではあるが歩いて移動している。

 

 しかし足の動きとかを見ると、どう見ても私たちの方が早いはずなのにカイトさんたちとの距離が縮まらない。

 

 私たちが認識している距離と実際の距離が違うようだ。

 

「いっそカイトさんたちは放っておくという手もありますが、俺としてはあの赤い街灯へたどり着かせたくない。特に根拠があるわけではないんですがあまりいいことにはならない気がするんです」

 

 私も同感だった。

 

 あの赤い街灯はとても不穏な厄を孕んでいるような気がする。

 

 それでいてその厄がどんなものか確認したくなるような……。

 

 私はその時、あの赤い街灯が血まみれの手が私たちを手招いているような気がした。

 

「私もなんとなく悪い予感がします。どうしましょう、走りますか?」

 

 私がそう尋ねると片倉さんは頷いた。

 

 しかし──

 

「少し早めに走ります。沖島さんとは多分距離が離れることもあるでしょう。だから良かったらでいいんですが、抱えさせてもらえませんか。距離感が狂っている以上あまり距離を開けてしまうと沖島さんが孤立してしまうかもしれません。これは決して馬鹿にしているわけではないんですが、ここのモンスターは俺からしてみればそこまで強くありませんが、沖島さんには恐らく相応の強さに感じられると思います。孤立してしまうのはちょっと良くないと思います」

 

 私が答えに戸惑っていると、片倉さんは苦笑し「変なところは触ったりはしませんよ」といって赤い街灯を睨みつけた。

 

「すみません、答えを待っている時間はないみたいです。失礼!」

 

 そういった片倉さんはいつのまにか私の膝の下に手を入れ、背に腕を回し、要するにお姫様抱っこと言った感じで私を抱いた。

 

「え、え!? えっと、あの!」

 

「黙って! 舌を噛みますよ!」

 

 片倉さんは言うなり、物凄い速度で──! 

 

 私はほんの少しドキッとしたのだけれど、そんなドキドキはあっという間に消え去った。

 

 むしろ私から片倉さんの首に抱きついて振り落とされないように歯を食いしばる。

 

 落ちたら死ぬ、そんな気がして怖かった。

 

 だけど私の心の奥ではふとした疑問がくすぶっていた。

 

 ──なんで、この人は私の身を心配してくれているんだろう

 

 私なんて役立たずなのに。

 

 私は置いて行っても別に誰も文句は言わないのに。

 

 仲間と言っても探索者同士の絆みたいなものは、ゆるく薄いことがほとんどだ。

 

 必要に応じて仲間を見捨てて自分の身を守る事ができる者がプロフェッショナルだとされている。

 

 ──なのに、なんでだろう? 

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