【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】   作:埴輪庭

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第三十四話【佐野 以蔵という男②】 

 ◆

 

 数日後、片倉が自宅でぼんやりテレビを見ていると、通信端末に受付嬢からメッセージが届いた。

 

 佐野以蔵とのつなぎが取れたらしい。

 

 受付嬢は本人から許可を得て連絡先を受け取ったとのことで、それを片倉に伝えてきた。

 

 そうして連絡を取ること数回、コミュニケーションに難があると聞いていた片倉はある程度難儀する事を覚悟していたが、案外にもすんなりアポが取れた。

 

 ただ気になる所がないわけでもない。

 

「んん……妙に丁寧すぎるというか……」

 

 片倉は怪訝な顔をして画面を眺める。

 

 §

 

 拝啓

 

 突然のご連絡、失礼いたします。まずは、挨拶をさせていただきます。この度はお時間をいただき、ありがとうございます。

 

 さて、先日、協会の方よりお話を伺いまして、貴殿から私に対して話があるとのことで、その旨承知いたしました。内容についてはまだ詳しく存じ上げませんが、一度お会いしてお話をお伺いしたいと考えております。

 

 日時に関しまして、急ではありますが、明日はいかがでしょうか。もしご都合がよろしければ、場所はセンターにある喫茶店「修羅場」にてお会いできればと考えております。私の予定は午後からであれば空いておりますので、お時間をお知らせいただければ幸いです。

 

 ご多忙の中恐縮ではございますが、ご返信をお待ちしております。何卒よろしくお願い申し上げます。

 

 敬具

 

 §

 

 こんな文面なのだが、片倉的にはなんというか違和感を感じる。

 

 コミュニケーションに難があると言われている人間がこんな整った文章を書くだろうか──そんな疑問があるのだ。

 

 ──会ってみれば分かる事か

 

 鬼が出るか蛇がでるか、片倉はそんな心境だった。

 

 単独探索者というのは皆例外なくキワモノだと言う。

 

 片倉はそれなりに覚悟して話に臨むつもりであった。

 

 ◆

 

 そして当日。

 

 待ち合わせ場所に指定された喫茶店「修羅場」は、ネーミングセンスはともかくとして、内装は普通のカフェの様な風情だ。

 

 奇妙なのは客がいない事である。

 

 片倉も過去、この店を数回利用したことがあるが、いずれもそれなりに客は入っていた。

 

 ──店が閉まっている? 

 

 そう思った片倉だが、店内の照明はついており、卓に設置された注文用タブレットも起動している。

 

 とりあえずといった感じで片倉は四人掛けの卓の一方に座り、何となくタブレットを手に取った。

 

 モノはごく普通の機種で、気になる様な所は何もない。

 

 ディスプレイに流れる『お店からのお知らせ』という所をタップすると──

 

 §

 

 お店からのお知らせ

 

 営業時間変更のお知らせ

 →営業時間は午前5時~翌午前2時までに変更されました。お客様のご理解とご協力をお願い申し上げます。

 

 おすすめメニュー

 

 特製ブレンドコーヒー(中煎り):¥500

 手作りチーズケーキ:¥600

 季節限定の抹茶ラテ:¥550

 

 Wi-Fiサービスの提供当店では、無料Wi-Fiサービスをご利用いただけます。ネットワーク名は「Shuraba_Free」、パスワードは「explore」となります。

 

 注意! 

 店内でのPSI能力の使用は他のお客様のご迷惑となりますのでご遠慮ください。場合によっては武装職員へ通報します。

 

 §

 

 と、特に何の変哲もない文言が並ぶばかりだった。

 

 片倉は腕時計を見る。

 

 オメガ・エクスプローラー・テラニウム。

 

 スイスの高級時計メーカーであるオメガが生んだ探索者仕様の高級腕時計だ。

 

 榊澪からの誕生日プレゼントで、対物ライフルの実行射程距離内からの射撃でも壊れる事がないタフさが売り。

 

 時間は13時──5分前だった。

 

 待ち合わせ時間は13時だが、以蔵はまだこない。

 

 ──この分だと少し遅れるかな

 

 片倉がそう思うやいなや、入店を示す音が鳴った。

 

 店内は静まり返っているため、足音がよく響く。

 

 片倉が立ち上がると、そこには──

 

 ◆

 

「…………」

 

 そこには一人の中年男が立っていた。

 

 白髪混じりの髪の毛を短く刈り揃えた、何というか地味な普通のおじさんといった感じの男だ。

 

 作業着の様な服を来て、体格も中肉中背といった所。

 

 片倉の喉元あたりに視線を向け、目を合わせないようにしている様からはなるほど、コミュニケーション不全を指摘されたのも何となくわかるというものだった。

 

「あっ……と、はじめまして。片倉真祐と言います。突然お呼び立てしてしまって申し訳ありません」

 

 片倉は立ち上がり頭を下げて挨拶をするが、以蔵からの返事は返ってこない。

 

 そして頭を下げたままの片倉と、何も言わない以蔵の奇妙な初対面が数秒続き──

 

「あ、頭をあげてくだせぇ。普通に、接してくれりゃいいんで……」

 

 ぼそりと、そんな言葉が降ってくる。

 

 言葉尻は震え、明らかに常の状態にない。

 

 ただ、これはあくまでも片倉の直感に過ぎないのだが、以蔵が何か片倉に対して悪感情を抱いている様には思えなかった。

 

 ()()()のだ、何となく──()()()()()()()

 

 ──まさか緊張しているのか? 

 

 単独探索者といえば、心身共に文字通り人外のタフさが無ければ務まらない。

 

 人前で緊張するというような(ヤワ)なマインドでは、それこそ単独探索開始数十分後には腸をぶちまけて惨死を遂げるのがせいぜいだろう。

 

 しかしこの佐野以蔵という中年男は、大分年下であるばかりか格下でもある片倉に何かしらの畏怖を感じているようで、どうにも落ち着きがなかった。

 

「……とりあえず、何か飲みましょうか」

 

 片倉がそう振ると、以蔵はまるで童子の様にウンと頷いた。

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