【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】   作:埴輪庭

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第三十五話【佐野 以蔵という男③】

 ◆

 

「俺は余り、人と話すのが得意じゃねぇんでさ」

 

 以蔵はぽつりぽつりとそんな事を言った。

 

 視線は一切合わない。

 

 以蔵の視線はテーブルに固定されたままである。

 

 全身から放たれる雰囲気は倦んでいるというか、なんというか。

 

 片倉はほんの1秒か2秒、以蔵を見ていた。

 

 脳にピリと何かが()る感覚。

 

 ああ、と片倉は思う。

 

 ──この人は、人嫌いとかコミュニケーション不全とかではなくて……

 

「俺もです、佐野さん。人というか、他の探索者と話すのが嫌なんです。特に真っ当に探索が出来ている人たちとは。なんていうか、自分が恥ずかしくなってしまって」

 

 言うと、以蔵は様子をうかがう様な視線で片倉を見た。

 

 片倉は構わず続ける。

 

「俺はこれまで7人もの仲間を失っています。俺だけが生き残りました。しかもね、佐野さん、仲間の皆は単に戦いや罠で死んだわけじゃなくて、俺を助けるために死んだんです。もしかしたらですが、俺がいなければ彼らは助かったかもしれません」

 

 片倉はそこまで言うと、「ああ、飲み物でも注文しましょうか。場所だけ使っていたら協会に怒られちゃいますからね」とテーブルに置かれていたタブレット端末を手に取った。

 

 以蔵はと言えば、顎下に生えている無精ひげを親指で擦り、どこか思案気に片倉を見つめていた。

 

「何を飲まれます?」

 

 片倉が尋ねると、以蔵は「ああ、じゃあアイスコーヒーで」と答える。

 

「ならアイスコーヒー2つですね……よし、と。注文しました。何か食べたりはしますか?」

 

「いや、飲み物だけで」

 

 ドリンクが来るまで、二人は暫く沈黙していた。

 

 しかし不思議と気まずい感じはしない。

 

 あー、と以蔵が話のとっかかりを作るためか妙な声を出して話始めた。

 

「片倉さん、は……そんな感じだとあんまり良くない気はしますぜ……いや、責めてるわけじゃなあなくってね。お仲間さんは、まあ片倉さんに生きてほしくって、なんちゅうか、助けたンだろうから。いや、なんか説教してるみたいだな、畜生」

 

 以蔵が頭をがりがりと搔きながらそんな事を言った。

 

「佐野さん、口下手なりに俺を励ましてくれてるってわけですか?」

 

 片倉が少し茶化した感じで言うと、以蔵は苦笑しながら頷く。

 

「ま、そンな感じですわな」

 

 片倉は何となく、本当に何となくだが、以蔵という男が何を考えているのだか分かった気がしていた。

 

 ──『きっと以蔵という男はコンプレックスを抱えているのだろう、恐らくは過去に何か過ちを犯して、そのせいで世間に顔向けできないという様な事を考えているのではないか……。それなら、まずは自分から()を見せて胸襟を開いたほうがいい』

 

 そこまで考えて片倉はトラウマを明かした。

 

 本当に以蔵がそんな事を考えているかどうかは分からないというのに、片倉には妙な確信があった。

 

 "何を考えているのか知りたい"──そう思っただけなのに、だ。

 

「それで、ええと……単独探索について聞きたいって話でしたけど、何が知りてぇんですかい?」

 

 以蔵が先ほどまでとは違い、ややリラックスした様子で問いかけてくる。

 

「実は、それも良く分からない始末でして……なんというか、今後の探索に単独探索っていう選択肢もいれようかというような、そんな感じなんです。はっきりしない答えですみません」

 

 片倉の言葉に、以蔵は特に気を悪くした様子もなく顎の無精ひげを撫でながら何事かを考えている。

 

 ややあって以蔵は──俺が思うにね、と口を開いた。

 

 ◆◆◆

 

 思うに、ダンジョンってぇのは生きてる──そう思うんでさ。

 

 いや、実はでけぇ生き物だとかそういう事を言いたいんじゃないんですがね、意思みたいなものがあると思う。

 

 それで、ここが肝心なンですがね、そいつは大分意地が悪い。

 

 例えば罠とかね、ここでこんな罠があったら嫌だなぁってぇ時に、都合よくポンと沸いたりするでしょう? 

 

 俺ぁ、あれも偶然じゃあないと思ってる。

 

 やつら、逃がしたくないというか、俺らが逃げる事を嫌ってるんですよ……まあ俺の勝手な考えですがね。

 

 でも逆の事をすると連中は喜ぶ。

 

 逆ってのはつまり、なんて言ったらいいのかな、挑戦ってやつでさぁね。

 

 限界に挑戦するだとか、リスクを冒すだとか……そういった事をね。

 

 そしたら何が起きるかっていうとね、ギリギリのラインを攻めてくるっていうのかな。

 

 こっちが死ぬか死なないかわからないような、そんなやばい状況をぶち込んでくる。

 

 見たこともない強えモンスターが出てきたりだとか、そろそろずらかるかって時に罠がぽんぽん沸いたりだとか……。

 

 そういうのを乗り越えていくと連中はご褒美をくれるんでさ。

 

 一度窮地を乗り越えると、それまで持てなかったような重いものが持てるようになったり、急に火なんて出せるようになったりね。

 

 変わったところになると身長が伸びたりだとか、(ツラ)が良くなったりとかそういうこともままある。

 

 まあこの辺は片倉さんも知ってるだろうけども。

 

 それで単独探索っていうのは、そのご褒美が普通の探索よりずっと多いンでさ。

 

 まあもちろん連中も喜ぶせいか普段よりずっとダンジョンは危なっかしくなるんですがね……。

 

 だからもし片倉さんがこのご褒美目当てで単独探索をしようってんなら気をつけた方がいい。

 

 少しでも油断するとすうぐ死んじまいますから……。

 

 

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