【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】   作:埴輪庭

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第四話【次の仕事】

 

 ◆

 

「やあ、お二人とも早いですね、おはようございます」

 

 プレートに朝食を乗せて、小堺良平が声をかけてきた。

 

「お早うございます」

 

「おはよーおじちゃん 今朝もトレーニング?」

 

 海鈴が尋ねると、小堺は「ええ」と頷いた。

 

「お二人は若いからダンジョンに潜っているだけでメキメキ伸びるでしょうが、僕ぁもう50も半ばですからね 何もしないとどんどん衰えちゃって……普通に暮らしていく分には問題なくても、ダンジョンに潜るとなるとねえ」

 

 小堺は頭を掻きながらそんなことを言う。

 

「おじちゃんも稼がないといけないもんねぇ」

 

 沙耶は海鈴の言葉を聞いて、ちらっと小堺の左腕を見た。

 

 一見すればただの腕だ。どこもおかしいところはない。

 

 しかし文字通り皮を剥がせば、金属で形作られた義腕が露わになるだろう。

 

 過去のダンジョン探索によって致命的な負傷を受けた小堺は、『六道建設』の手配によってサイバネ手術を受け、現在彼の体の3割強が機械化されている。

 

 ただ、その代償は大きく、小堺は『六道建設』に大きな借入金を作ってしまった。

 

 企業からの借金を放置することは、サラ金からの借金を放置するのとはわけが違う。

 

 サラ金ならば預金の差し押さえがせいぜいだろうが、企業相手となると身命を差し押さえられる恐れもある。

 

 例えば、想像するだけで怖気立つような様々な非人道的な実験の検体にされたりといった危険が出てくる。

 

 小堺が企業探索者として働いているのは、そういった事情があるからだ。

 

「世知辛い世の中ですよ ああ、そうだ、今日の探索は穴堀りですよ 嫌かもしれませんけど上からのお達しでね。ノルマは未踏査地帯の調査。踏破率をあげたり、下層へ繋がる道を見つければボーナスが出ます」

 

 小堺の言葉に沙耶と海鈴は露骨に嫌な顔をする。

 

 ダンジョンにも様々なタイプがある。

 

 大きく分ければ全天型、迷宮型、異界型だ。

 

 全天型とは自然環境そのものがダンジョン領域と変じたもので、先日の森林地帯のダンジョンなどは全天型にあたる。

 

 迷宮型はその名の通りで、ダンジョンと言えばこれだという者も少なくない。基本的には鉱山跡や山岳地帯に入口が形成され、進路は地下へ地下へと延びるケースが多い。

 

 異界型は非常に特殊な形態で、全天型でも迷宮型でもない特徴を持つ。

 

 小堺が言う「穴堀り」とは、迷宮型ダンジョンを意味する。

 

「や、やだぁぁぁ! 先月潜ったばかりじゃん どうせ鉱山跡でしょ? 空気は悪いし、狭いし! そんでもってモンスターはキモいし最悪だぁ……」

 

 海鈴がダダをこねるが、上からのお達しとなると拒否権はない。

 

 彼女もまた彼女で、『六道建設』のために働く理由がある。

 

 それは金だ。

 

 事情を抱える片倉や小堺はともかく、沙耶や海鈴は高い報酬を貰って【六道建設】で働いている。

 

 そして海鈴には人より余分に金を稼がなければいけない理由があった。

 

 沙耶の方はといえば、彼女は海鈴ほど露骨な反応は示さない。

 

 嫌そうにはしているが、文句は言わない。

 

「片倉さんもそのつもりでいてくれますか?」

 

 小堺が声をかけると「わかりました」とだけ返事が返ってくる。

 

 片倉の平常運転だ。

 

 彼はどんなダンジョンだろうが文句ひとつ言わないし、顔色一つ変えない。

 

 

 

 ◆

 

「今回はというか、今回も少しハードな探索になりそうですよ。片倉さんはご飯それだけで足りますか? 足りなければ僕の分を少しお分けしますよ」

 

 小堺は一応聞いてみたが、片倉は「いえ、結構です」とそっけない。

 

 冷淡というわけではなく、これが片倉という男の常なのだ。

 

 小堺もそれ以上は勧めないが、表情はやや曇る。

 

 提案を断られたからではなく、単純に片倉の健康状態をおもんぱかってのことだ。

 

「そんな顔しないでください、別に今の境遇に不満はありません。体を動かすだけの栄養はカロリースティックで取れています──それに、どうせ味なんてしませんから」

 

 小堺の様子にさすがに思うところがあったのか、片倉は彼にしては珍しく饒舌に言い訳らしきものを述べ立てた。

 

 味がしないというのは事実だ。

 

 探索のストレスが原因か、それとも鬱か、片倉は重度の味覚障害を患っている。

 

「ドクターは心因性のものだから気の持ちようで治ると言っていました。それに、これは本心ですが結構便利なんです。探索中、どうしても何か食べなきゃいけないって時に味を気にしないで済みます。小堺さんも黒猿の肉は食べた事あるでしょう? ろくなものじゃないらしいですね」

 

 小堺は「うっ」と呻き、苦笑いを浮かべた。

 

 嫌な事を思い出してしまったようだ。

 

「ダンジョン探索してれば誰でも一度は“現地”のものを口にすることがありますよねぇ」

 

 ハハハと笑う小堺。

 

「まあ、そういうわけですから。探索は午前10時……今から2時間後を予定しています。少し急ですが、物資の準備などはもう済んでいますから」

 

 小堺は続けてそう言って、今度は別のテーブルに向かっていった。

 

 どうやら向こうのテーブルに知り合いがいるらしい。

 

 手を掲げて挨拶しながら歩き去っていく小堺の背を見送り、沙耶と海鈴は少しだけ顔を見合わせて同時にため息をついた。

 

 

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