【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】   作:埴輪庭

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第四十話【単独探索④】 

 ◆

 

 片倉は渾身の勢いで飛び込んだ──が。

 

 空気そのものが凝固したように感じ、片倉の体は宙空に留められた。

 

 両手両足が見えない力で引っ張られ、まるで見えない十字架に磔にされたかのように宙に固定される。

 

 筋肉に力を込めてもびくともしない。

 

 全身の自由が奪われる。

 

 片倉は必死に抵抗を試みたが束縛は強固だ。

 

「決断が早いね。私が人間の意識を残していると分かっててもすぐに()に来たか。私はかつて、君みたいな()()を量産したくて数多くの実験を重ねて来たんだ。PSI能力の開発は実の所その副産物に過ぎないのさ」

 

 人間は弱い、と早見は嘆いて見せた。

 

「ロボトミーの様な手段では駄目なんだ。意思薄弱なモノにダンジョンは恩恵を授けない。私はどこまで人間でありながら、同時に情のないキリングマシーンの様な二面性を持つ者を作りたかった。まあでも、これが中々ね……人間性と非人間性の両立は難しいんだ」

 

「でもある時」

 

 早見は片倉に近づいてきて、顔を寄せながら言った。

 

「少しアプローチを変えてみようとおもったんだ。小難しい方法がだめなら、いっそ原始的な手段を取っても面白いんじゃないかとね。つまり、生殖さ」

 

 そう言って早見は白衣をその場に脱ぎ捨て、シャツ、肌着と次々に床に落としていく。

 

 そうして露わになった彼女の肌は、科学者としての冷徹な印象とは対照的に、驚くほど滑らかで整った曲線を描いていた。

 

 長い黒髪が背中に流れ、艶やかな肌を引き立てている。

 

 胸から腰へと続くラインは洗練された美しさを湛え、まるで彫刻のように完璧だった。

 

 下草は薄く、男なら誰でもむしゃぶりつきたくなるような淫靡さと、少女の様な無垢さを同時に感じさせる。

 

「私の体、悪くはないだろう? 勿論生身だよ、これは。シリコンでもなんでもない。それでね、話を戻すけれど、君には実験台になってもらいたいなと思っているんだ。君の種を使って孕み、その子に私の理想を写す。その上で、その子を()()()のさ」

 

 どう思う? と言いながら、早見は片倉にその唇を触れさせた。

 

 ぬらりとした舌が片倉の唇をなぞり、口内へと侵入する。

 

 完璧なプロポーションの全裸の女にこんな事をされれば、普通の男なら少なからず反応してしまうだろう。

 

 しかし片倉の目は冷え切っている。

 

 片倉自身の性欲が著しく鈍化しているからというのもそうだが、なにより()()()のだ。

 

 美女然とした早見の()()ではなく、内側が。

 

 見よ、腐敗した肉が人の形状を取り、その隙間には無数の小さな黒い虫が絡み合うように詰まっているではないか。

 

 肉は爛れ、血混じりの黄色い膿がどろりと滴っている。

 

 絶世の美女にも見える早見はしかし、片倉の心眼にはただの醜悪な肉の塊にしか見えなかった。

 

 醜いだけではない。

 

 こちらに対し、強い害意を抱いている── "敵" である。

 

 そして片倉の絶対零度の視線を受けた早見は、その目に()()が居るのを視た。

 

 眼鏡をかけた黒髪の女だ。

 

 容姿は特別優れているとは言えない、良くも悪くもないどこにでも居そうな女。

 

 しかし、そんな女が何かをしている。

 

 早見にはそう感じられた。

 

 ──この男、何を飼っている? 

 

 今この場に実在している女ではない事は明白だった。

 

 しかし、香水がかおる様にその女の気配は片倉の()()から発されている。

 

 それが早見が片倉の精神に干渉することを()()をしているのだ。

 

 ◆

 

「邪魔、だね。それ」

 

 早見は忌々しそうに呟き、片倉を睨みつけた。

 

 しかしそれだけだ。

 

 片倉に張り付くように気配を漂わせる()()を引き剥がす方法が思いつかない。

 

「仕方ない。惜しいけれど君の子を孕むのは諦めよう。その目を見る限り、私を抱く事は難しそうだし。精神干渉も試しているのだけどどうも上手くいかなくてね。──だから、()()()に使うとしよう」

 

 早見の気配が変わるのと、片倉がPSI能力による束縛を破るのはほぼ同時であった。

 

 ──片倉さん

 

 片倉の頭の中に瑞樹の声が響く。

 

 精神に干渉するPSI能力を破るには、腕力ではなく精神力を以て抗する必要がある。

 

 ただ、実際の所はこれが中々難しい。

 

 その束縛の根源を見極めねばならないからだ。

 

 単純に動いてほしくないという意思が込められた能力を破るのなら、その意思がどこから出ているのかを汲まねばならない。

 

 それは害意なのか、それとも違うのか。

 

 例えるならば火事。

 

 火を消すにせよ、それが普通火災なのか油火災なのか、はたまた電気火災、金属火災、ガス火災の類なのかでそれぞれ消火方法が変わる。

 

 PSI能力もそれと同じで、意思の根源を見極めば抗する事は出来ない。

 

 とはいえ、PSI能力者ならばその辺は肌感覚ならぬ精神感覚で何となく分かるのだが、片倉には元来PSI能力の素養がない。

 

 だが破った──それは突如として片倉がPSI能力の素養に目覚めたからではなく、外付けの何かが存在するからだ。

 

 澪を取り戻すという目的を達成するために、片倉はより高みに立って手を伸ばさなくてはならない──片倉自身もそれを強く想い、だからダンジョンはそれに応えた。

 

 ダンジョンは片倉が屍を積み()重ねれば重ねるほどに、 "力" を得るという固有の特性──恩恵を与えたのだ。

 

 ・

 ・

 ・

 

「なに?」

 

 早見が一瞬ぽかんとした様子で、眼前に迫る束ねられた五本の指の先──槍の様に鋭い貫手が自身の顔面を貫こうとしているのを見た。

 

 

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