【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】   作:埴輪庭

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第四十三話【城戸 晃という男②】 

 ◆

 

「なぜお前を助けたかって、正直言って自分でもよく分からねえんだよな。同じ探索者だからってのはあるかもしれねえが、別に助ける義務はないし義理もねえ」

 

 城戸の言葉に片倉は頷いた。

 

 そう、探索者が探索者を助ける義務はない。

 

 というより、助け合いというものが非推奨ですらある。

 

 なぜならそれは探索者にとってのチャンスを奪う事になるからだ。

 

 試練、死闘、死線。

 

 こういったものを乗り越えれば乗り越えるほど探索者は強くなる。

 

 強くなるだけではない。

 

 ()()()ことが出来るのだ。

 

 人は皆、多かれ少なかれ外見や内面にコンプレックスを抱いている。

 

 ダンジョンの干渉は、そういったものを根本から変える事が出来る。

 

 外見などは手術や薬品投与ではなく、細胞の一つ一つから作り変えてくれる。

 

 内面も同じだ。

 

 気弱な事をコンプレックスとしている者がいれば強気な者へと変わる事が出来るし、寡黙な者は雄弁になる。

 

 男勝りだと思われ続けてコンプレックスを抱く女は、淑女のような性格に、あるいはその逆も可能だ。

 

 ダンジョンは人の夢を汲んでくれるのだ。

 

 だから探索者になろうとする者は絶える事がない。

 

 たとえどれだけ屍が積まれようとも、"自分自身の理想"という姿が見える限り人はその屍を見ない振りをする。

 

 勿論、そういった自己変容の願望がない者だっている。

 

 単純に金目的だったり、スリルを求める者だったり。

 

 命を懸けた闘争の場でしか生き甲斐を感じられないバトル・ジャンキーのような者もなくはない。

 

 そういった望みもダンジョンは叶えてくれる。

 

 ともかく、ダンジョンという場所、探索者という職業は、己の人生を賭すだけの価値があるという事は間違いない。

 

「まあ、言ってみたら何となくなんだよな、何となく」

 

 城戸はそう言って片倉を見た。

 

 ──何となく、か

 

 城戸は嘘はついていないだろうと言う事が、片倉には感覚として分かる。

 

 しかし、言っていない事があるとも感じていた。

 

「まあ気まぐれだ。恩に着せるつもりはねぇよ。ところで単独探索はどうだった? 群れて探索するより随分と随分と違うだろう?」

 

 片倉は頷いた。まず何より、モンスターの強度が違った。

 

 飼いならされたペットと闘犬ぐらい違う。

 

「俺も最初はしんどかった。というより何度も死にかけた。当時俺が知る限り、そんなモンスターはいなかったんだけどな──頭が3つセントバーナードを想像してみろ。ただしそれぞれの頭には目が4つずつある。そんな薄気味悪い化け物が俺の腕をうまそうに食ってやがるんだ。真ん中の頭と左の頭が俺の腕を奪い合ってやがるんだ。逃げようにも逃げられない。犬野郎が両の脚で俺を動けないようにしてやがった」

 

「城戸さんはどうやって生き残ったんですか」

 

 片倉が尋ねると、城戸はニヤリと笑う。

 

「俺は残った手を右の頭の口に突っ込んでやった。そいつだけご馳走にありつけなかったんだからな、施しだよ。だがタダでくれてやるほど俺は寛容じゃあない。どうせ殺されるんならと思って、口の中を滅茶苦茶にしてやった。爪を立てて、舌を引きちぎってよ……そしたら助かった」

 

「頭が残り二つもあるのに?」

 

「ああ、その頭が残りの頭も操ってたんだろうな。本体ってやつだ。俺が右の頭をグチャグチャにしてやると、残

りの頭がまるで気が違ったみたいにお互いに喰い合って、くたばっちまった。都合がいいだろ? でもその時俺は思ったね。俺が主人公なんだってよ」

 

 ・

 ・

 ・

 

 そう、俺が主人公なんだと城戸は思う。

 

 でなければ、あんな状況で生き残れる筈はない。

 

 それに男も女も大人も子供も、()()()()で見るほど醜かった自分がこれほど美しく、そして強く変容(かわ)る事もない──そう城戸は思っている。

 

 ◆

 

 

 数日後、片倉は無事に退院した。

 

 培養された腕も問題なく体に馴染んでいる。

 

 感覚も、力加減も以前と遜色なかった。

 

 そうして自宅に戻った片倉がほっと一息ついていると、端末が振動した。

 

 画面には「城戸晃」という表示が点滅している。

 

 通話要求だ。

 

 片倉が通話ボタンを押すと、すぐに城戸の声が響いた。

 

「おい、片倉! 腕の具合はどうだ?」

 

「ええ、おかげさまで。すっかり回復しました」

 

「そうか、ならいい! 明日付き合えよ! どうせ退院したばかりですぐ探索に行くつもりはないんだろ?」

 

 城戸の軽快な声に、片倉は少しだけ苦笑いを浮かべた。

 

 城戸の傲岸不遜な態度には既に慣れっこになっている。

 

「どういったご用件ですか?」

 

「ん? いや、何だ。お前の退院祝いだよ。昼飯でもどうだ? 今回は俺が奢ってやるからよ。探索者トークでもしようじゃねえか」

 

 城戸の誘いに片倉は一瞬迷ったものの、最終的には「分かりました」と答えた。

 

 退院したばかりの体だが既に体調は完璧で、ボーリングの球でサッカーが出来るくらいには良い。

 

「決まりだな。じゃあ明日12時に渋谷だ。ハチ公でいいな」

 

「人が多すぎて、いえ、何でもありません」

 

 片倉は城戸の派手な赤髪を思い出す。

 

 ──あの髪ならどこに居てもすぐ分かるだろう

 

 ◆

 

 そして当日。

 

 片倉は腕時計を確認し、きっかり5分前に渋谷のハチ公前に到着した。

 

 見渡せば、混雑の中でもすぐに視線を引く城戸の姿がある。

 

 意外だった。

 

 城戸という男はどちらかと言えば待つより待たせる方だというのは言を俟たない。

 

 鮮やかな赤髪が日の光に反射し、それはそれで目立つのは勿論なのだが──

 

 ──やっぱり、なにか雰囲気があるな

 

 生命力というか精気というか、そういうものが周囲の者とは明らかに違う。

 

 精神の内側から迸る様な生命力というか、凄みがある。

 

 城戸は二人組の若い女性と楽しげに談笑していた。

 

 城戸の軽妙な笑い声が、周囲のざわめきの中に響く。

 

 片倉は一瞬ためらいながらも、声をかけることにした。

 

「城戸さん、待たせてすみません」

 

 その声に城戸はすぐ反応し、笑顔を崩さぬまま女性たちとの会話を途切れさせた。

 

 まるで女たちの事を突然忘れてしまったかのような唐突さだった。

 

「よう、時間ぴったりだな。A型だろお前」

 

 片倉は答えず、「彼女たちは?」と聞いた。

 

 女たちは少し拗ねたような視線を片倉に投げかけ、城戸の背中を惜しむように見つめている。

 

 だが城戸は肩をすくめ、「行くか」と片倉の肩を叩き、何事もなかったかのようにその場を離れ始めた。




別作「東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした 」

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