【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】   作:埴輪庭

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第五話【奥多摩調査基地】

 

 ◆

 

 奥多摩町は都心から2時間程度の距離にありながら、大自然と共生している緑豊かな町として知られている。

 

 いや、知られていた。

 

 それはダンジョン発生以前の認識であり、現在では大きく様相が変わっている。

 

『六道建設』をはじめとする多くの企業が開発を進めた結果、現在では東京都心に勝るとも劣らない活気を見せている。

 

 その理由はダンジョンだ。

 

 奥多摩には昭和初期から中期にかけて多くの鉱山が開かれていたが、現在それらの鉱山跡はダンジョンと化している。

 

 企業各社は奥多摩町にダンジョン攻略のための前線基地を築き、子飼いの探索者たちを住まわせ、多くの利益を得ているのだ。

 

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「世話になっているからあまり大きな声で言いたくないんだけど、そろそろ都内に戻りたいわね」

 

 深緑色の塗装が施された中型のSUVの助手席で、二階堂沙耶がそう言った。

 

 窓を開けているため風が入り込み、沙耶の髪をなびかせている。

 

 口元に入りかけた数本の髪の毛を指で払い、沙耶は再び口を開いた。

 

「海鈴、そろそろ機嫌なおしたら? 上が無茶振りしてくるのなんて毎度のことでしょ」

 

 バックミラーに映り込む日野海鈴の顔は、分かりやすくむくれていた。

 

 海鈴は繊細で、融通が利かない部分がある。

 

 事前に決まった予定が、理由はどうあれ変更されることに強いストレスを感じるのだ。

 

 ──子供ねぇ

 

 沙耶は内心でそう思ったが、子供扱いすれば今よりさらに機嫌が悪くなるだろう。

 

 見た目こそ10代前半の少女といった風情の海鈴だが、実年齢は20代半ば。

 

 バイオ手術によって現在の容姿を維持していた。

 

 趣味嗜好でそうしているわけではなく、そうしなければならない理由があるのだ。

 

 ちなみに後部座席で海鈴の隣に座る片倉は、腕を組み目を瞑っている。

 

「僕らがこっちで働くようになって1年ですからねえ」

 

 運転席の小堺が言った。

 

「それにしてもどうして変更になったのかしら」

 

 本来なら北部森林地帯の探索をする予定だった。

 

『奥多摩調査基地』は旧奥多摩町をそのまま探索前線基地に置き換えた広大な面積を誇るが、それよりさらに広大な山林に囲まれている。

 

 そして『六道建設』はその山林をいくつかのエリアに区分けして管理しているが、エリア内のダンジョン領域の存在をすべて把握しているわけではない。

 

 だから探索者たちを送り込み、日々森林地帯の調査を進めている。

 

 四人も今日は北部森林地帯に新たな領域ができていないかを調べる予定だったのだ。

 

「あくまでも噂ですけど」

 

 そう前置いて小堺は口を開いた。

 

「今向かっている水川鉱山跡で複数の探索チームが採掘層を探索しているのはご存じですよね」

 

 沙耶は「ええ」と頷いた。

 

 ダンジョン発生以前、水川鉱山は石灰石の産出地として有名だったが、現在ではダンジョンと化してしまっている。

 

 鉱山に一歩足を踏み入れれば現世からダンジョンへと "位相がずれ"、文字通りの別世界を体験できるだろう。

 

 基本的にダンジョン領域の環境は、ダンジョンと化す以前の環境に準拠するため、元鉱山のダンジョンとなれば内部に張り巡らされた隧道や坑道などのせいで、迷宮然としたダンジョンとなることがほとんどだ。

 

 旧水川鉱山ダンジョンもその例に漏れず、地の底深く伸びる大迷宮と化していた。

 

『六道建設』は現在もこのダンジョンの探索を進めており、ダンジョン由来の鉱石やモンスターの素材から莫大な利益を得ている。

 

「今回、どうも探索チームの一つが未帰還となって、予定されていた鉱石の納入ノルマが達成できないかもしれない……みたいな話を聞いたんですよ」

 

 小堺がそんなことを言った。

 

「ああ、それで穴埋めっていうわけね」

 

 軽くため息をつきながら、沙耶がぼやいた。

 

「きっとそれだけじゃないよねー」

 

 海鈴の言葉に、小堺が苦笑しながら頷いた。

 

「僕が言うのも僭越ですけど、ここ最近、僕らのチームはかなり良い数字を出していますからね。日野さんの仰る通り、僕も何か追加の業務があるような気がしています」

 

「おじちゃんはNOと言えない大人だからなー」

 

 海鈴のチクチク言葉に、小堺は苦笑を返すのが精いっぱいだった。

 

 

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