【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】   作:埴輪庭

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第五十二話【S駅の怪④】

 ◆

 

 探索者たちは三人組のチームのようだった。

 

 男性が二人、女性が一人。

 

 こういった小規模のチームには、ダンジョン攻略にはほどほどの利点がある。

 

 少人数ゆえ連携を取りやすい反面、大勢の敵や想定外の事態に弱い面も否めない。

 

 まあ基本的な探索者の編成としては珍しくないスタンダードな構成だ。

 

 一人は目つきの悪い青年で、一目で不穏な雰囲気を漂わせていた。

 

 まるで歓楽街から迷い込んだかのような茶髪に、わざとらしく立たせた前髪。

 

 肌に張り付くようなボディスーツの胸元は、見せびらかすように開かれている。

 

 ラインストーンをちりばめた装飾は、この異世界の駅ホームで妙に浮ついて見えた。

 

 目つきの悪い青年から数歩後ろで控えめに立つのは、黒髪の内気な青年だ。

 

 眼鏡越しの視線は常に下を向いている。

 

 ボディスーツすら最もシンプルな仕様を選んでいるらしく、とにかく目立ちたくないようだ。

 

 色彩も地味で、戦闘時に機能を発揮する追加装備なども見られない。

 

 肩には少しかすれた汚れが付着しているが、このダンジョンでついた汚れかどうかまでは片倉には判断できなかった。

 

 そして女。

 

 金髪の派手な女だった。

 

 黒地のボディスーツに施された蛍光ピンクのラインは、まるでネオンのように目を引く。

 

 濃いグロスの唇は魅力的だとか蠱惑的だとか、そういう言葉ではなく "性的" という言葉が似あう。

 

 体をつかって有力な探索者に取り入る者は珍しくはない。まあ探索者を見た目で判断する事は愚の骨頂ではあるが……。

 

 そんな異色の三人の内、目つきの悪い青年が薄笑いを浮かべながら近づいてきた。

 

 ──探りと威圧。あとは単純な興味。ただし俺に対しての興味じゃないな

 

 片倉は何となくその青年の心の色を読むが、敵意はないと判断して近づいてくるのを制止したりはしなかった。

 

「なあ、どっから来たの?」

 

 その馴れ馴れしい口調に、アリサとAKEBIは眉を顰める。

 

「東京だ」

 

 片倉が淡々と答えると、青年は一転して荒々しい声を上げた。

 

「うっせぇ! おめーに聞いてねえよ!」

 

 まるで湯沸かし器みたいなやつだな、と言うのが片倉の感想だ。

 

 青年はAKEBIとアリサを交互に見ながら、「君らわざわざ東京から来たんだ? あー、そっか、協会の子?」

 

 まるで値踏みするような、舐めるような視線の舌が二人には鬱陶しい事この上ない。

 

 もう一人の内気そうな青年は終始俯いたままだった。

 

 若い女のほうは目つきの悪い青年の肩に手をかけ、片倉たちを見ている。

 

 視線は何となく楽しそうですらあった。

 

 まるで、ひと騒動起こってくれないかと期待しているかのように、軽く笑みを浮かべているのだ。

 

 ・

 ・

 ・

 

 ──なに、こいつ

 

 AKEBIの目じりがぴくりと痙攣する。

 

 苛立った時のAKEBIの癖だった。

 

 ちらと片倉を見るが、片倉は青年を見ているようで見ていない。

 

 ──片倉さんってたまにこういう目をしてるんだよね

 

 ぼうっとしているのとはまた違う。

 

 頭の中を透かし見るような視線。

 

 片倉と話すようになって気付いた事だ。

 

 ──もしかして、片倉さんって読心系のPSI能力者だったりして……。いや、でも背筋のぞわぞわがないしそれはないか……

 

 もし片倉が "そう" だったなら、私の気持ちも? と思うと、AKEBIはどうにも恥ずかしい気持ちになってしまう。

 

 ──『AKEBI……お前の気持ちは、実は最初から分かっていた』ってかんじで、そんな事言われちゃったりして! それで、それでそれで! 私は顔真っ赤にして下を向いて何も答えられなくって……でもでも……

 

 AKEBIが妄想に浸ってると、不意に肩を掴まれる感覚がした。

 

 ──え!? 片倉さん!? まさか本当に!? 

 

 AKEBIがいつでもOKといった風に顔を上げると、そこには──

 

「なあってば、聞いてる?」

 

 と笑いかける青年の姿が。

 

 AKEBIは咄嗟に「触らないでよッ」と跳ね除け、アリサがスッとAKEBIをかばうように前に出て──

 

「ちょっと片倉さん? 少しくらい何か言ってくれてもいいんじゃないですか? 確かに勝手についてきたのは私たちですけど……」

 

 と不満そうに言った。

 

 片倉は『確かに』とおもうが──

 

「AKEBIさんが嫌がるようなら制止しようとおもっていた。だが……」

 

 そこまで言ってジッとAKEBIを見る片倉。

 

「え……えぇ!? ち、違います! 嫌でしたってば! でも、その、色々考える事があって……。でも本当に違うんです! ていうかこんな男ありえませんって! 私の好みじゃないですってば! 本当に! わ、私はもっと、こう、大人っぽい人が、すすす、す、好きっていうか」

 

 AKEBIは頬を染めながら言い訳めいた言葉を口にする。

 

 片倉の前で顔を伏せ時折チラチラと上目遣いに様子を窺う仕草には、どこか子犬のような愛らしさがあった。

 

 アリサは『やってられないです』とばかりに露骨にため息をつき、そっぽを向いて線路向こうに広がる自然を眺めたりなどしている。

 

 片倉はと言えば、AKEBIの言に「ああ、じゃあ嫌は嫌だったんですね。それなら次気付いた時は止めます。すみません」と馬鹿みたいに生真面目な返事を返した

 

 ──それがどうも目つきの悪い青年の癇に障ったらしい。

 

「おいおい、おっさんさぁ。いい年して女二人も引き連れて、良い所見せようってか?」

 

 青年は片倉に詰め寄るように一歩前に出る。

 

 が、片倉は動かない。

 

 目つきの悪い青年は威圧的ではあるが、敵意も無ければ害意もない事が片倉には "分かる" からだ。

 

 だからこの素人臭い威圧に対して──

 

「おっさんじゃない。片倉だ」

 

 と、簡単に自己紹介を返した。

 

 そして。

 

「……まあ、もう33だしな。 君からしたらもうおっさんか。で、君は?」

 

「あぁ?」

 

「名前だよ。一時的にせよ、これからこのダンジョンを探索する仲間になるわけだから、名前くらいは教えてくれ」

 

「は? 仲間? てめえらと俺達が? 眠い事いってんじゃねえぞ!」

 

 青年の怒気にも片倉は動じず、軽く周囲を見渡して──

 

 ここは、と片倉が言った。

 

「臭いんだ。血なまぐさい。このダンジョンはもう俺達を "認識" してるな。そして殺そうとしている。普通のダンジョンはどちらかというと『試練を与えてやる』といった感じなんだが。ここは少し違うな。たまにあるんだよ、そういうダンジョンが」

 

 青年には片倉の淡々とした口調が妙にうすら寒く感じた。

 

「……おっさん、いや、片倉さんよ。あんた、認定はいくつだよ」

 

「乙-1級だよ。で、名前は?」

 

「けっ、そうかよ。まあいいや、俺はトウヤだ。んで、あそこの鈍臭そうなのがミキハル。あっちの女がマオ、俺の女だ」

 

 そうしてトウヤと名乗った青年は、AKEBIとアリサに物問いたげな視線を向ける。

 

 お前達も名乗れと言う事だろう。

 

「むぅ……あたしはAKEBI」

 

「アリサ」

 

 AKEBIとアリサも不本意そうに名乗った。

 

「よし、じゃあ自己紹介も済んだわけだし、さっさと探索しようぜ」

 

 そういってトウヤは背を向けてミキハルとマオの元へ行き、二人に何事かを告げていた。

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