【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】   作:埴輪庭

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第五十六話【トウヤ①】

 ◆

 

 ダンジョンにはある種のテーマがあるという説がある。

 

 例えばここ最近で明らかになったトー横ダンジョンは「邂逅」だ。

 

 あの頃は良かった、あの人にあの人にもう一度逢いたい──そんな想いがトー横ダンジョンでは叶う可能性がある。

 

 まあ命の保証はないのだが。

 

 勿論、そういった「テーマ」が存在せず、ただただ異界が広がり、異形が襲ってくるようなクラシカルなダンジョンも多いが。

 

 ただ傾向としては、新しいダンジョンほど「テーマ」を持つ傾向がある──というのが、昨今行われている調査により明らかになっている。

 

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 不意に聞こえてきた太鼓の音だが、トウヤは努めて無視をした。

 

 片倉が向けてくる目が気になって気になって仕方がないからだ。

 

「おい! 聞いてるのか、てめェ!」

 

 トウヤは今にも片倉に殴りかかろうとしている風に詰め寄る。

 

 そんなトウヤを()()していた片倉が、ややあってから口を開いた。

 

「そうだな、間違ってない。探索者が自分の命を優先するのは当然の事だと俺も思う」

 

 その言葉にAKEBIは傷ついたような目で片倉を見て、そしてアリサはそんなAKEBIに気づかわし気な視線を向けていた。

 

 だが、と片倉は続ける。

 

「それでも俺はなるべく助ける様にしている。さっき、本来なら赤の他人も同然のお前を助けた様に」

 

「……どうして、助けた」

 

 トウヤの問いに、片倉は言った。

 

「簡単な話だ。ダンジョンでは人間なんてすぐ死ぬからな。俺だって、お前だって、油断をすればすぐに死ぬ。厳しい場所なんだ、ダンジョンっていうのは。だから手の届く範囲で助け合った方が良いと思っているだけだ。そうすれば、いつか俺が死にかけているときに、俺が助けた連中が俺を助けてくれるかもしれないだろう? "探索者の仁義" ってやつさ。お前も知っているだろう」

 

 探索者の仁義、それは──

 

 曰く、ダンジョン内では可能な限り互いに助け合うべし。

 

 曰く、見返りを求めよ、ただし求めすぎるべからず。

 

 曰く、一度受けた恩は、決して忘れてはならない。

 

 相互扶助の精神といった所だろうか。

 

 もちろん強制力を持つものではない。

 

 守るか否かは個々の探索者の判断に委ねられている。

 

 綺麗事といってしまえばそれまでだが、人間性を保持する上では重要だとして、協会などは励行を呼びかけていた。

 

 人はただ生き延びるだけの存在ではない。

 

 意味を求め、繋がりを求め、そして、より良くあろうと努める生き物だ。

 

 綺麗事とはそうした人間の根源的な欲求から生まれる理想の姿、あるいは行動指針と言える。

 

 探索者という生き物が、ただ生きるだけ、欲望を満たすためだけに存在すれば、それはもはや人間とは言えない。

 

 そういうモノは化け物と呼ばれるのだ。

 

 トウヤは「綺麗ごとを……」と言いかけ、そして怪訝そうな顔をした。

 

 片倉が一歩下がっている。

 

 俺にビビったのか? などとは流石にトウヤも思わない。

 

 それに、AKEBIとアリサは何かとんでもないものを見ているような顔をしているし、マオに至っては泣きそうな目で頭を振っていた──まるで今見ている光景が嘘だと思いたがっているかのように。

 

 だがマオにどうしたかを尋ねる心の余裕は持てなかった。

 

 なぜなら不意に片倉がこんなことを言い出したからだ。

 

「……まあ、さっきお前を助けた事はそういうわけなんだが、無駄になってしまったみたいだな。 "今" だから言う。お前は遅かれ早かれ、()()なるだろうとは思っていた。弱いくせに傲慢で、横暴で、何よりも肚が座っていない。なぜ探索者になった? 多少才能があったからといって驕ったか? 金をもっと稼ぎたかったのか? だったらこんな何が起こるか分からないダンジョンに来るべきではなかったな。もしくは一人で来るべきだった。あのミキハルという男はダンジョンに殺されたと言うより、お前に殺されたんだ。薄っぺらいお前に。可哀そうにな、薄っぺらい奴に殺されれば、その死も軽くなってしまう」

 

 それはトウヤをこれ以上なく激昂させる言葉だった。

 

「お、ま、え……ッ!!」

 

 片倉の言葉はまるで刃のようにトウヤの心を抉った。

 

 絞り出すような声で、片倉を睨みつける

 

 目は怒りと憎悪で血走り、今にも飛び出しそうなくらいに見開かれている。

 

 拳は固く握りしめられ、ワナワナと小刻みに震えていた。

 

 しかし言い返せない。

 

 弱いくせに傲慢。

 

 横暴で、肚が座っていない。

 

 才能に驕り、金を稼ぎたいだけの薄っぺらい人間。

 

 ミキハルを殺したのは、自分。

 

 片倉の言葉がトウヤの脳内で、何度も何度も繰り返される。

 

 それはまるで呪いの言葉のようにトウヤの心を蝕んでいく。

 

「黙れ……! 黙れ黙れ黙れ黙れ!!」

 

 トウヤは頭を抱えて叫んだ。

 

 怒りと恐怖とそして自己嫌悪が入り混じった、悲痛な叫びだ。

 

 そんなトウヤに、片倉はなおも声を掛ける。

 

「俺が憎いか? だが憎むだけでは足りないよな。殺したいか?」

 

 片倉の煽るような口調に──

 

「殺してやりてえ……いや、殺す!」

 

 トウヤはそう言って、片倉を睨みつけた。

 

 言葉だけではない。

 

 これほどに本気で人を殺したくなった事は、トウヤにとって初めての事だった。

 

 それほどの憎悪と殺意が "トウヤの8つの目" には込められていた。

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