【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】   作:埴輪庭

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第六十二話【戦利品】

 ◆

 

「明かりが見える!」

 

 AKEBIが明るい声で言った。

 

「やっとですか、真っ暗だと神経使うから疲れちゃいました」

 

 アリサがうんざりした様子で言う。

 

 そうして三人は暗いトンネルを抜けた。

 

 トンネルの先は作業現場のような場所だ。

 

 土砂は一塊となり、こんもりと山を成している。

 

 近くにはプレハブ小屋があり、錆びた農具などが無造作に放りだされていた。

 

「如何にも廃村って感じですね」

 

 アリサが小さく呟く。

 

 拳銃のグリップを握ったまま、視線をあちこちに走らせている。

 

 落ち着いてはいるが、どこか神経質に周囲を警戒している様だ。

 

「あの小屋なにかあったりしないかな?」

 

「確認してみましょう。全然戦利品も手に入れてないし、酷い目と怖い目に遭いっぱなしっていうんじゃ探索者を名乗れませんよ」

 

 二人が話すのを横耳に聞いていた片倉としても、折角ダンジョンに来たのだからという想いはあった。

 

 確かに片倉は "山" を越える為に各地のダンジョンへ挑戦しつづけているが、探索者稼業について一切興味を失ったわけではない。

 

 元はと言えばそういうトレジャーハント的な事をしたかったから探索者になったのだ。

 

「調べてみるか。少し下がっててくれ、中に何かいるかもしれないからな……」

 

 こういった小部屋にモンスターが潜んでいる事もある。

 

 それも結構な確率だったりするのだ。

 

 その辺りはまるでゲームのようだと言った探索者もいる。

 

 実際、ダンジョンのギミックや罠といったものはゲームを連想させるものも少なくなく、そういった事情からダンジョンが自然発生的に顕れたものではなくて何者か──あるいは何かの意思によって "作成" されたのだと言う者も少なくない。

 

 ・

 ・

 ・

 

 ──が。

 

「ただの……物置だな」

 

 今回はモンスターとの遭遇はなかった。

 

 プレハブ小屋の中は埃とカビの匂いで充満してはいるが、特に危険な生物が潜んでいる様子はない。

 

「工具、農具……うーん、私じゃちょっと価値がよくわからないけど……」

 

 AKEBIが小さく呟く。

 

 棚には農具らしきものや、工事用のジャッキやノコギリといったものが雑多に積まれている。

 

「ノコギリは触れないほうがいいな。あとはそこのハンマーも」

 

 片倉が指差して注意する。

 

 錆だらけのノコギリに、同じく錆だらけのハンマーだ。

 

 ぱっと見ではそこまで危険な代物には思えない。

 

 だが片倉の様に何度となくダンジョンを探索した者には何となく物品の悪意のようなものが分かるのだ。

 

 ダンジョン産の道具は有用なものが多いが、非常にタチの悪いものも同じくらいだけある。

 

 例えば触れた瞬間に "何が何でもそれを人間の頭に振り下ろしたくなる" 金槌だとか、服用すれば眼球がかたつむりに変化してしまう薬だとか、目をあわせたら異空間に閉じ込められる鏡だとか。

 

 逆に、一口服用するだけで骨と皮だけの末期がんの患者がフルマラソンを走れるくらいまで回復する栄養剤だとか、和紙より薄いにも関わらず対物ライフルの直撃でも破損しない布だとかもある。

 

 いずれにせよ大量生産が出来ない謎の代物であるため、どこの国でも供給源はダンジョンしか存在しない。

 

 アリサは「はい、わかりました」と丁寧に応え、手袋をはめて手近な道具を観察する。

 

 油圧ジャッキ、チェーンソー、錆びたペンチ、何の液体か分からない瓶……

 

 そのどれもが埃をかぶっているガラクタにしかみえない。

 

「アリサ、あれどう? 青いスコップ!」

 

 AKEBIがアリサに声をかけ、小さい子供用の青いスコップを指差した。

 

 アリサは目を細めマジマジと見るが、みたところそこまで危なそうには見えない。

 

「片倉さん、すみません。ちょっと見てもらっていいですか?」

 

「ああ。ん……これは、まあ……問題があるようには見えないな」

 

 片倉が拳でスコップを軽く叩くと、鈴鳴りの様な高く透明感のある音が響いた。

 

「やっぱり普通の金属じゃないな。ダンジョンの干渉を受けてる。素材はわからん。金属なのは確かだが、なにせダンジョンから手に入る素材なんて、毎日数百種類もデータベースが更新されているくらいだしなぁ」

 

「スコップっていうくらいだから、掘ったらなにかわかるかも!」

 

 そういってAKEBIはスコップを持ってプレハブ小屋の外に出てしまった。

 

 それを追ってアリサも「行ってきます」と言って出ていくが、片倉としてももしなにかあったら事であるので、結局外に行くことになった。

 

 外ではちょうどAKEBIがかがみ込み、地面にスコップの先端を突き刺している。

 

 ズブリと土に刺さった瞬間、刺し込んだ周囲の土がじわじわと黒ずんでいく。

 

 AKEBIがスコップを引き抜き、「うわ……何これ?」と素っ頓狂な声を上げた。

 

 アリサは少し驚きながらも「黒い土って栄養豊富らしいです。こういうの、研究機関が欲しがるかもしれません」と冷静に分析する。

 

 AKEBIは目を丸くして、「普通のスコップじゃ絶対こんなことにならないよ。これ、売れるかな」とわくわくした様子だ。

 

「片倉さんはいくらくらいで買い取りつくとおもいますか?」とアリサ。

 

 片倉は少し悩んで、「そうだな……50万から100万くらいの間じゃないか?」と当たりをつける。

 

「50万……かぁ。やっぱり散々怖い思いしたし、2、3000万円くらいは稼ぎたいなぁ。出来れば……できれば億行きたい!」

 

 そんな事をいいながら、他には何かないかなといって小屋へ戻っていくAKEBI。

 

 片倉とアリサは一瞬目を合わせ、やや呆れたような様子でついていくのだった。

 

 ◆

 

「……大体こんなところか」

 

 片倉がプレハブ小屋をぐるりと見回して言った。

 

 埃っぽい棚の上や床の隅々まで、三人でかなり念入りに探して幾つかの物品を戦利品として得た。

 

 ノコギリやハンマー、チェーンソーやペンチあたりが片倉的にはアウトなので除外。

 

 リスクが低そうで、かつダンジョン干渉の価値が見込めるものを数点だけ抜き出した格好だ。

 

「まあそれなりにはなりそうだな」

 

 AKEBIは隣でわくわくしたように目を輝かせている。

 

「片倉さんの見立てだと、もしかして何千万円とか……いきます?」

 

 そう訊かれて、片倉はわずかに鼻を鳴らした。

 

「俺が思うに、全部合わせて四千万くらいだな」

 

「四千万……!」

 

 AKEBIは思わず声を上げた。

 

 アリサも軽く息を飲む。

 

「それだけあれば、私たち結構潤いますね。なんとか今回の探索も報われるかもしれません」

 

「大体だよ、ダンジョン産の品の値付けは俺は門外漢だ」

 

「確か国家資格にもなってるんでしたっけ、鑑定士って。まあどのみちここから生還しなければ話になりませんけど」

 

「まあそれでも四千万かぁ……まだ探索する場所もあるから、出るころには億いってるかもね!」

 

 AKEBIはスコップを握りながらしみじみとした声を漏らす。

 

 それから肩に下げたナップザックをぽんと叩く。

 

「いつか私もミリオンプレイヤーになる!」

 

 アリサが笑うように息を吐いた。

 

「装備品も最近高騰してますもんねぇ」

 

 そう言いながらも、表情には少しだけ安堵が混じっているようにも見える。

 

 ずっと厳しい状況が続いていたからだろう。

 

 片倉はあえて何も言わず、黙ったままプレハブ小屋から外へ足を踏み出した。

 

「よし、ここでの用は済んだ。さっさと出発するぞ」

 

 短くそう言うと、AKEBIもアリサも納得したようにうなずく。

 

 そうして歩いていくこと30分ほど。

 

 片倉が右手に見える小さな山林を見た。

 

 アリサが反射的に「どうかしましたか、片倉さん?」と問いかける。

 

 すると片倉はわずかに山の方を顎で示した。

 

 樹々が生い茂り、視界も足元も悪そうだ。

 

「見られてるな。上のほうからだ。余り良い視線じゃない。俺達を鬱陶しく思ってる何かが居そうだ」

 

 片倉が短く説明する。

 

 そして「行くか」と一言。

 

「大丈夫なんですか? 私あんまりいい予感しませんけど……」

 

 AKEBIの言葉に片倉は短く頷いた。

 

「何がいるか分からんが、放置していてよさそうな感じがしない。勘ばかりで悪いんだけどな」

 

 アリサも小さく息を吐き、「わかりました。ベテラン探索者の勘は侮れませんからね」と言って山を見つめる。

 

 ──ただの山にしか見えませんけど……AKEBIも何も感じてないみたいだし

 

 しかし片倉がいうなら良くないモノがあそこにいるのかもしれない。

 

 それにAKEBIの勘は常にきくわけではない。

 

 何事もありませんように、と思うアリサではあるが──

 

 ──そういうお願いって大体裏切られるんですよね

 

 と、先の不穏さを思うと溜息をつかざるを得ないのだった。

 

 

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