【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】   作:埴輪庭

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第七十四話【龍華寺①】

 ◆

 

 基地と呼ぶにはやや簡素だが、越前探索者連盟が準備したベースキャンプは、山肌を切り開いた平地に立っている。

 

 大きめのテントが何張りも設営され、周辺には装備や資材のコンテナが所狭しと並べられていた。

 

 人数は総勢で二十数名ほどになるという話だった。

 

 実際、あちこちに探索者らしき姿があり、それぞれが談笑したり、装備の調整を行ったりしている。

 

 こうした大人数での攻略は、片倉にとっては久しぶりの光景だ。

 

「ここが現場か……」

 

 片倉はテント群を眺めながら、薄く息をついた。

 

 重苦しい雲が福井の山間を覆い、時折湿った風が吹き抜ける。

 

 遠くには杉林の端が見え、その奥に鬱蒼とした木立と古びた屋根瓦の影が映っていた。

 

 あれが龍華寺だ、と地元のスタッフが案内していた。

 

 隣を歩く薫子は、静かにその廃寺を見つめている。

 

 何か探っているのだろうか? ──PSI能力者独特の鋭い気配を感じさせるが、特に緊張を表に出す様子はない。

 

「大きい寺ですね」

 

 軽く雑談のように片倉が言う。

 

 薫子はうなずく。

 

「バブル期にやたらと資金を注ぎ込んで建てられたそうです。今は誰も手入れしていませんが、ダンジョン化してしまったのでそれも不要でしょう」

 

 二人は越前連盟のメンバーに案内されながらメインテントへ向かう。

 

 テントの中は指揮所になっていた。

 

 地図やホワイトボードが並び、何人もの探索者が情報を共有している。

 

 年配の男性が一人、片倉たちを見つけて手を上げた。

 

 連盟の会長・山田耕造だ。

 

「よく来たな。協会の城戸は到着済みだ。あんたらも簡単に説明を受けてくれ」

 

 山田はそう言って、テーブル上の地図を軽く叩く。

 

 そこには龍華寺周辺の地形図と、寺院内部の見取り図らしきものが並べられていた。

 

「探索者協会の面々はそちらにいる。いま下見をした連中が戻ってきたばかりでな。想定よりも中が厄介らしい」

 

 会長の語気は淡々としているが、眉間に深い皺が寄っている。

 

 どうやらかなりタフなダンジョンらしい。

 

 片倉が地図を見ると、龍華寺本堂や庫裏、回廊、納骨堂、そしてバブル期に追加されたという巨大な大仏殿が書き込まれている。

 

 さらに、その先には不可解な空間が続いているというレポートがメモとして貼り付けられていた。

 

「仏像型のモンスターが相当な強さだって話ですね。規模からして、一種類二種類じゃないみたいですが」

 

 薫子が言葉を継ぐ。

 

 山田は深く頷いた。

 

「そうだ。童子型や如来型、明王型といった三種のモンスターが確認されているが……とにかく動きが予測できん。何人ものベテランが大怪我をして戻ってきたよ」

 

「素材をできるだけ無傷で採取したいというのが、今回の目的でもありますね」

 

 片倉は協会と連盟の依頼内容を思い返す。

 

 破壊するだけなら火力を集中すればいいが、そうすると肝心の木材や金属部分が損傷して価値が下がる。

 

 指揮所の中央では、手早く組み立てられたプロジェクターが映像を映していた。

 

 下見班がヘルメットカメラで撮影したらしく、薄暗い回廊に並ぶ無数の仏像が映し出されている。

 

 金箔のように煌めくその姿は、荒廃した寺院の空気と相まって不気味なほど神々しい。

 

 画面の中、探索者が近づこうとすると仏像がゆっくり顔を向ける。

 

 文字どおり木製の顔が、きしむような音を立てて動くのだ。

 

 その瞬間、画面が揺れ、周囲にはかすかな悲鳴が響いた。

 

 続きを撮影したはずだが、そこから先はノイズまみれの映像に変わってしまう。

 

「これが如来型という報告だ。サイズは中型で、一体一体はそこまで巨大じゃない。だが、近づくと急激に動き出す。しかも統制が取れているようでな……こっちの弱点を察するかのように、複数で囲む戦法をとる」

 

 山田が嘆息する。

 

「童子型に前衛を任せ、明王型が後衛を務めるなんて動きもあるらしい」

 

 片倉は思わず唸った。

 

「モンスターの連携ですか」

 

 薫子も地図の端を指でなぞりながら言う。

 

「うまくやらないと、こちらの動きが丸ごと封じられる可能性がありますね」

 

 すると、背後から声がかかった。

 

「らしい、じゃなくて実際にそうだったな」

 

 振り返ると、そこには城戸が立っていた。

 

「城戸さん。もう現地を見に行ったんですか?」

 

 片倉が訊ねると、城戸はうなずきつつテーブルの上の地図を睨む。

 

「ああ。越前探索者連盟の先遣隊と一緒に外回りを少し見てきた。寺の外周はまだ安全だが、本堂のそばに近づくと空気が変わる。いやな圧迫感だ」

 

 そう言いながら、城戸はちらりと薫子へ視線を走らせる。

 

 その視線には一瞬、探るような光が宿っていた。

 

 だがすぐに城戸は目を逸らし、再び地図へ注意を戻す。

 

「どうやら寺の周囲には小規模な伽藍や石仏が点在している。そこにも童子型が潜んでる可能性が高い。いきなり本堂へ突っ込むのは危険だろう。まずは周囲から順に掃討して、通り道を確保するのが定石だ」

 

 城戸の言葉に山田が深く頷く。

 

「うむ。越前探索者連盟としてもそこは同意する。下手に一気突入して被害が出れば、採取どころじゃなくなる」

 

「そうですね。大規模な探索だと連携がうまくいかないときのリスクが大きい」

 

 薫子が指揮所の大きなホワイトボードに視線を移す。

 

 そこには名前と役割が書かれたシフト表が貼られており、戦闘班、採集班、支援班などに分類されている。

 

 片倉はそのリストを眺め、改めて思う。

 

 これほどの大人数が動くのは珍しい。

 

 企業探索者や協会のメンバー、そして地元勢のベテランたち。

 

 一方で、この大所帯ゆえの混乱も起きうるだろう。

 

 特に企業勢同士の利害対立が表面化すれば、内部の足並みが乱れる恐れがある。

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