血の運命が廻り巡る。
その人生は、愛する妻を助ける為に暴君と繋がる魔物達へ抗う青年の人生だった。
その人生は、酒浸りの父共に暮らす貧しい少年時代を味わった人生だった。
その人生は、全てを失った少年が強くなり王へなり愛する妻と娘を得たが、魔物達によってまた奪われ娘を犬にされる人生だった。
その人生は、慌てん坊の青年が幼馴染と結婚して出産間近に蹴られた馬の名前と同名を息子にオルテガに名付けてそのまま死んだ人生だった。
そして、血の運命は加速し出した。
アリアハンの勇者オルテガは自身の子供に魔王討伐の使命を託して、その子供は後にロトの勇者と呼ばれた。
更に、血の運命は加速しながら廻り巡る。
ロトの勇者の末裔達によってイマジンを打ち倒し、更にその子供達によって蘇ったゾーマを倒した。
キーファの血の運命がリバースする。
大魔王や魔神が現れて世界は危機に陥るがその度に勇者と呼ばれる存在が現れて世界に光を齎す。
聖戦士達との出会いと冒険の日々。
同じ勇者の血を継ぐ者として戦い、破壊神を破壊した勇者が人々から恐怖の対象に見られる事もあった。
出会って、別れて、また出会う。このプラスの人生が、血の運命こそが彼の宿命でもあった。
リバースした運命と共に血の記憶が逆流して懐かしい女性が目に映った。その女性は死んだ母だ。
そして、彼は父王バーンズ視点でもう一度母の死に目に合い無事に試練を乗り越えた。
しかし、彼は静かに泣いていた。声を殺す様に、我慢する子供の様に泣いていた。
「無事に試練を乗り越えた様だが……。まさかロトの勇者の、アロス達の祖先だったとはな……」
「何故、ですかっ……!? なんで、こんなっ……!? 母の死をもう一度っ……! それも今度は父の視点でっ……!!」
「……それは、すまなかったとは思っている。それも君の宿命を自覚させるには必要な事だった」
「これがっ……! 俺の宿命だと、言うのですかっ……!? こんな、こんなのがっ……!!」
自分は選ばれた者と純粋に思えれば楽になれただろうが、キーファは自身の子孫が辿る過酷な運命にそうは思えなかった。
「……君には大きな選択を迫られる時が来るだろう。しかし、どちらを選んでも気にするな」
「っ!? それは、どう言うっ……!?」
「君の宿命は変わらない。既に私と言う、ベゼルと言う存在が君の子孫と共に大魔王を討ち取った未来は確定している。
だから、君がどう言う選択を選んだとしても回り道を挟むか、最短距離で進むかの違いに他ならない」
「っ!?」
その残酷な運命にキーファは拳で地面を殴り付けた。何度も何度も殴り付けて血塗れの拳をベゼルはそっと治療した。
「君には酷な話だ。皆の試験が終わるまでゆっくりと考えなさい」
「……分かりました。ただ、今は考えが纏まりません。だから、剣を振らせて下さい」
「良いだろう。相手が欲しければグレンでも、私でも相手になろう。その都度呼んでくれ」
「っ!? 感謝します」
グシャグシャに泣いた涙を乱暴に拭うとキーファは剣を持ち出して試練の部屋を出た。
その表情を見た大賢者カダル事ベゼルは少しため息をこぼす。それは、自身の無力さから来るモノだった。
大賢者を継いで人を超えた存在になったのに何もしてあげられなかった。何の為の力や知識なんだとグッと奥歯を噛んだ。
「ん? そろそろ、アルスやアレン達も試練の終盤に入ったか」
そして、ベゼルは蜃気楼の塔へ意識を集中すると彼等の元へ向かったのだった。
場面は変わり、試練の部屋へ入ったばかりのアレンは困惑した。
部屋の中なのに見渡す限りの大草原に雲一つ存在しない青空、吹き荒れる突風に懐かしさを感じた。
「……ここを、俺は知っている。見たことはない風景けど俺はここを知っている?」
恐らく失った記憶が本能を呼びかけている。その証拠に心に熱いモノを感じ目からは自然と涙が溢れた。
そして、昂る気持ちを落ち着かせると目の前の空から1体の魔物が降りてくる。
それは、正しく化け物だ。全体的に緑をベースにした鳥人間型に近い見た目だろうか?
ハーピィの様な女性型の見た目をしていた。本来なら醜い筈なのにアレンの心は違う事を感じていた。
「母、さん……? いや、そんな……馬鹿な、事は無いか。貴方が試練の主人ですね?」
自然と言葉に出た母と言う言葉にアレンは動揺を隠せない。すぐに頭を振り試練を問い正した。
問われた魔物は反応せずジッとアレンを見詰めた。そして、彼女は背を向けてこの突風が吹き荒れる中を進んで行った。
「追いかけて見ろ、って事かな……?? 取り敢えず行ってみるか」
吹き荒れる突風の中をアレンは歩き出すがその歩みは段々と遅くなる。
風は進むに連れて強く激しくなり、まるでアレンを拒絶するかの様にその暴風が斬撃と共に押し出そうとしてくる。
しかし、目の前の魔物はそんな事なんて知らないと言わんばかりに悠々自適に大空を羽ばたく。
「まるで、この世界の一部の様だ……!!」
体の至る所を風の斬撃が襲い血塗れのアレンは自身を回復しながらその羽ばたきに羨望と嫉妬の眼差しを向けた。
何故なら、この暴風は自身を傷付けるが知っている懐かしい風だ。
アレンを拒絶しているのに心を包み込む様な暖かな風だった。
だから、自然と涙が溢れた。
斬撃の痛みで泣いている訳ではない。この風に受け入れて貰えない事に悲しさを感じた。
あの魔物の様にこの大空を羽ばたけない事が、自由に風に乗る翼の無い自分がもどかしくて苦しかった。
自分にもあんな風に羽ばたく翼が欲しい。俺もこの風を乗りこなして大空を駆け巡りたい。
そんな気持ちになったアレンは傷付く体を癒す事を止めて風を受け止めた。
斬撃の暴威が彼を襲う。左腕が千切れ飛んだがそんな事はどうでも良かった。
「俺も、この世界の一部になれば貴方の様に、この空を自由に羽ばたけるのかな……??」
そして、目の前の魔物が羽ばたきを止める。そして、アレンは再び彼女を見ると今度は違って見えた。
「貴方は俺だ。俺は貴方だ。やっと分かった……。受け入れる事と馴れ合いは違う。俺達は元から互いに1つだったんだな……」
そう理解すると拒絶した暴風が次第にアレンの体を癒し始めた。千切れた左腕も自然と風が運び元通りにくっつく。
体の癒えたアレンは次第に空を飛ぶ。確信があってやった訳では無い。何と無く今なら飛べる気がした。
そして、精霊としての俺が笑うと挑発する様に空を羽ばたく。それを人としての俺が追い掛ける様に羽ばたいた。
「あぁ……。世界ってこんなにも広かったのか……」
自由に羽ばたける空をアレンは楽しんだ。そして、目一杯羽ばたいた後に意識を失う。
気が付くとそこは何も無い殺風景な部屋の中だった。まるで夢でも見ていたのかと思うがしっかりと俺の中に風を感じた。
「どうやら成功した様だな」
「っ!? ベゼルさんっ!?」
「驚かせてすまないが、気分はどうだ?」
「えぇ、最高の気分です。アレは俺自身でした。そんな事、最初から分かっていた筈なのに最後の方まで気が付けませんでした」
「それが分かれば上出来だ。そろそろ全員、試練を終える。一足先に休んでいなさい」
そして、アレンはベゼルの案内で広場に着くとそのまま地面に寝そべった。
ただ、今は風を感じたい。その気持ちで一杯だったからだ。