風を感じている。まだ、上手くは動かす事が出来ない。まるで生まれたばかりの赤子の様だ。
元々あった筈なのに、動かすのにすごい神経を使う事がとてももどかしく感じていた。
ただ、その分とても楽しい。あの心象世界の様に自由に空を飛ぶ事すら出来てはいないが、痒い所に手が届くみたいな感覚で不思議だった。
「アレン!! 休んでいるとこ、すまんがちょっと相手になってくれないか!?」
「うおっ!? びっくりしたっ……!? 急に大声出すなよ?」
「っ!? ご、ごめんっ……!? お、俺っ……!!」
「……その様子だと、さっきの試練でなんかあったな?」
「……ごめん。それについては……」
「別に良いよ、話さなくても」
「うぇっ……!?」
「うぇっ!? ってなんだよ……。今までで初めて聞いたぜ?」
「ばっ……!? 俺だって真剣にっ……!?」
「見れば分かる。一体何年幼馴染やっていると思うんだ?」
「……すまん」
「謝るな。仲間でも、友達でも、家族でも、全部を曝け出す事はしなくて良いと思うんだ。人は少なくとも1つや2つ、3つや8つ……」
「お、おいおいっ!? そこは4つだろ!? それに多すぎだろ!?」
「まぁ、何にせよ、だ。キーファ、話せない事や話したくない事は無理して開示しなくて良いと思うんだ」
「……お前も、そう言うのあるのか?」
「あぁ、勿論。とびっきり言えないやつがある……」
「それは、俺達でもか……??」
「お前達、だからこそ、だな……。きっと嫌われるのが、拒絶されるのか怖いんだろうな……」
「俺達は、別にっ……!?」
「そうだろうな。お前達は絶対に受け入れてくれる。俺もそう信じている。だからこそなのさ……」
「っ!? そうか……」
「失望したか?」
「いや、逆だ。むしろ、なんか、お前ってもっとこう、俺達とは何か違うヒトなんだと思っていたけど……。案外人間臭いんだな……」
「どう言う意味だよ……。まぁ、そんな感じだ……」
「そうか……。無理して言わなくても良いんだな……」
「そう言う事だ。考えは纏ったか?」
「……そんなに分かりやすかったか??」
「まるで迷子で泣きたい子供が他人に聞けなくて困っている顔だったぜ。ウケる」
「ぐっ……!? ひ、ひでぇ……!? 10年近く一緒にいて悩んでいる親友に対してその言い方はねぇだろ!?
俺、仮にも一国の王太子だぜ!? その言い分は不敬である!! アレン、エスタード島に帰ったら覚悟しておけよ!!」
「さぁて、とんずらするかな……」
「まてまて!? 冗談だって!? そんな事になったらリーサや親父から怒鳴られるから!?」
「くっくっく、冗談だ。ほら、剣を構えろ。本当はそれをしに来たんだろ?」
「っ!? おう! 俺のモヤモヤをお前にぶつける!!」
「おう! 安心してぶつけて来い!!」
そして、俺達は剣と剣、想いと思いをぶつけ合う。
なまじ、ここには回復のエキスパートと激しく暴れても怒られない空間があるがおかげで、お互いに制限などなく全身全霊で相手を打倒しようと本気で戦った。
魔法も闘気剣も全部使った。何なら新しく覚えた風も全開放しているのにキーファは打ち合う度に適応して手強くなっていく。
一体、どんな試練を超えて来たんだ?
ぶつかり合う気持ちや思いを通じて親友の想いが何となくだけど伝わってくる。多分、俺とは違う何かを背負ったんだと思った。
そして、同時にいつか来る別れが彼の宿命に大きく関与しているんだと思うと何も出来ない俺も彼と同じ様にもどかしくなる。
そうして、ぶつかり合う2人は互いに剣が折れても、拳で殴り合っても続き、最終的には同仕打ちで気絶していた様だ。
「全く……。アンタら馬鹿じゃないの?」
「2人とも、喧嘩は良くないぞ!」
「まぁ、まぁ……キーファもアレンも考えなしにやっていた訳じゃないんだからさ……」
「それはっ……!? ふぅ……そうね……」
「確かに! 2人とも凄かった!!」
「ガウッ!!」
3人とは試練を終えてグレンと共に広間に出てみれば、キーファとアレンのぶつかり合いを見学する羽目になった。
しかし、その時の彼らの動きは試練の前と後とでは天と地ほどの実力差があった。
自分達も試練を終えて大きく成長できたと実感している。それでも、あの2人は別格だと焦りを覚えるほどに、戦う毎に実力を伸ばしあっていたのだ。
まるで互いが互いにこんなもんじゃ無いだろ? と言わんばかりに限界を伸ばし合い、その姿はまるで子供のそれだった。
それから、俺達の修行は加速的に始まった。この蜃気楼の塔は色々と便利過ぎる。まさか、ダンジョンを模した試練場もあるなんて思ってもみなかった。
「ゾンビ斬り! うぉぉぉーー! 高まれ、俺の闘気よ! グランドクロス!!」
「真空波!! 風よ! 吹き飛ばせ! バギムーチョ!!」
互いに背を向けてダンジョンのモンスター目掛けて技を放ち合う。
新しく両手に剣を持ち双剣スタイルで戦うキーファのゾンビ斬りとグランドクロス。
手のひらに風の闘気を圧縮して撃つ全体に向けた鎌形を放つ真空波とそれさえも利用して風を開放して初めて行えるバギ系最上位の新呪文として確立したバギムーチョ。
キーファは元々、グランエスタード流騎士剣術と踊りを混ぜた変則的な斬撃を行っていたが、左手に盾を構えるよりも剣を持った方がより変則的な動きのキレが増して強くなっていた。
ここでの生活も数ヶ月が経過した。毎日、試練のダンジョンへ行って技を試したり、作ったりしながら戦う日々にとても充実感を得ていた。
結局、俺の転生した秘密は大賢者ベゼル様にはお見通しだったらしい。同じく輪廻の枠から外れたモノ同士何か感じるモノがあったそうだ。
彼が言うには、俺はベゼルとは違った経緯で輪廻の枠から外れているから大賢者の様に継承による不老ではなく、何度も魂と記憶が擦り切れるまで更に輪廻転生をする人生になる事は確からしい。
まぁ、だからと言って特に何か変わった訳でも、記憶を取り戻したわけでも無い。
ただ、ベゼルとしては他の者とは違って何が足りていないのか? どう言う訓練や試練を与えれば良いのか? の塩梅が分からないらしい。だから、俺だけは自分で試練を選んで行っていた。
「ふぅ……これでこの試練も終えたな」
「ずっと戦い続きだったしな。これで、蜃気楼の外では数日ってヤバすぎるだろ」
「あっ! そういや、そうだった!?」
「だけど、楽しかったな」
「あぁ! おっと、そう言えばこれ、借りっぱなしだったな」
試練の間から出たキーファはそう言うと左手を持つ奇跡の剣をアレンに返還した。
これは未来の剣王が行った試練場で試しにやってみたら変化したアレンの武器だった。
「いや、俺は別に拳だけでも……」
「俺が気が済まないんだ。もう1つは旅をしていく内に俺自身で手に入れる。俺にはこの、光の剣があるしな」
キーファは自分が試練で手に入れた光の剣をそっと撫でる。アレンの奇跡の剣を返した後は代用として鋼の剣を装備した。
「これにてお前達の試練は終わりだ。みんな、良くやってくれた。私から見ても全員、相応の強さを得ていると思う」
ベゼルの発言に何だか色々と思い出して来た。目頭が熱くなって来る。どうやら俺だけじゃ無いらしい。
「おいおい……こんな事で泣いてどうする。それよりも、お前達には呼び名があった方が良いな。
そうだな……うん、聖戦士。やっぱりこれがしっくり来る。これからお前達は聖戦士と名乗りなさい」
「っ!? それはっ……」
「私や戦友達が呼ばれていた異名だ。それをお前達に託す。この世界の未来を頼むぞ」
聖戦士。その名前の重さを聞いて全員が強く頷いた。それを見てベゼルは安堵した様に笑った。
「きっともう私とは会う事は無いだろう。石板を開放していけば、グレンとは度々会うとは思うが愛弟子を頼んだぞ」
グレンは少し前に元の時代に戻って旅をしているそうだ。少しでも魔王軍を撹乱して俺達が封印を解き易くする為に動くそうだ。
「分かってます。ベゼルさん、色々とありがとうございました!!」
俺達は大賢者ベゼルへお礼をした後に蜃気楼の塔を出る。そうすると塔は次第に何も無かった様に薄らとして行き消えたのだった。