大賢者ベゼルと蜃気楼の塔での修行から数ヶ月が経過した。かなりの間、過去改変の冒険を中止していたが今日から本格的に再開するつもりだった。
本当はもっと早く再開する予定だった。短くても数週間、長くても2ヶ月行かないくらいの休養期間を予定ていたが、4〜5ヶ月も冒険を中止してしまった。
その理由はバーンズ王とリーサ王女、それに大臣からの珍しいお願いからであった。これは命令ではなく、彼等からどうしても叶えてほしいと言われたお願いだった。
だから、俺達にはそれを無碍に断る事は出来なかった。これには、恐らくキーファの背負った別れる運命が関係していると俺は薄々気が付き、キーファ自身も同乗する様に頼み込んだ。
彼等からしてみれば、次の冒険で最愛の家族が過去に残るかもしれない選択をする可能性が高いのだ。是が非でも後悔が無い様に思い出を残したいと思っていたからだ。
その間、俺達と言えばそれぞれが別々に過ごした。アルスとマリベルは家族と共にゆっくりと過ごして、俺とガボ達は俺が関われなかった過去異変へ繋がる旅の扉を使い試しに馬車を使ってみた。
勿論だけど、馬車の移動は可能であり馬車自体もバーンズ王達の計らいで用意してくれた頑丈なモノだった。
馬車の大きさはそこそこ大きいモノだ。馬が一頭のモノだが、色々とモノが置けたり、大人2人か3人程度なら横になれるほど広くて使いやすいモノで手入れもしやすい最新式のモノだった。
バーンズ王達から良いモノを得られたと思いながら旅行気分で旅をして、道中遭遇した珍しい薬草や香草、鉱物やそれらの失われた加工技術を記録して現代に持ち帰ったりした。
こう言う事は割と前から行っていたけど、今回の異変では珍しく色々と収穫があって楽しかった。集めた情報達は鍛治の親方たちを通じて共有して装備のアップデートなどもこの期間に行った。
また、ダイアラックに関しては現在では仮設住宅などの開拓が済んで、グランエスタード王国駐屯地として運用が開始された。
基本的には兵士長達が使う遠征訓練先ではあるが、魔法師長やフィル神父達の様な呪文使いも修練先として使われていた。
魔法の修練は瞑想による最大魔力の増加と魔力操作が主になるが、実際に魔法を使う事でその呪文の理解力や習熟速度が上昇する。
今までは呪文を気兼ねなくぶっ放せる場所が限られていたので、兵士に比べて門戸が狭かった。
だけど、封印された世界の復活やダイアラックの開拓により今後も調査をすると考えたら、遠距離攻撃が出来る魔法使いや傷を癒す僧侶の存在が不足していた。
その為、バーンズ王達は急遽適正のある若者に限定して門戸を開く事を決定した事で、少しずつ魔法使いや僧侶の見習い達が増えたのだった。
更に調査兵団が増えても移動する船や操船出来る船乗りが居ないと始まらないと言う事で、マリベルの父アミッドが造船を支援してアルスの父ボルカノが操船術の指導に乗り出したのだった。
彼等は毎年行われるアミッド漁で大自然を相手にして来た海の男だ。誰よりも海については理解している。
その為、船乗り見習いも順調に増えておりそれに伴い漁獲量も一気に増えて、今までは食べる分だけだったがアミッドの発案でフィッシュベルの特産品を開拓する事を決める事態に発展した。
そして、アミッドを主導にフォロッド王国を始めとする復活した大陸に住む人々と商いを増やした現在のエスタード島では好景気となっていたのだった。
「ごめんな、俺達の為にこんなに時間を空けさせて……」
「ううん! 僕は気にしてないよ。久しぶりに父さん達と過ごせて楽しかったし」
「私もよ。でも、パパったら今日から私が冒険を再開するって言ったら寂しいとか言って来て困ったわ。
今もそう言う風に思って貰えて嬉しくはあるんだけどね。でも、アタシはこれでも一人前の賢者なのよ? あんなに心配しなくても良いのに……」
「まぁ、それが親心ってやつなんだろうな……。フィル神父達もそうだけど、あの人達にとっては俺はいつまでも子供なんだよ」
「そう言うモノなのなのね……」
「それよりさ! 馬車の使い勝手はどうだった!?」
「結構、俺の好みに改造したけど、不評だったら戻したり改造し直すから言えよ? 我ながら中々、良い感じには出来たとは思う」
「オイラも使ったけど良かったぞ! みんなも使うと良いぞ!!」
「ガウッ!!」
「そう言う事なら早速行こうぜ! 冒険の再開だ!!」
キーファの音頭に全員が賛成して石板を台座に填めていく。今回の赤い石板は結構な数を使って、台座もそこに記されている島もかなり大きい。長期間の冒険が予想されていた。
そして、旅の扉が開かれるが案の定と言うかやっぱり空が変な色をしていて暗い雰囲気が漂っている。
そう言う時は馬車に改造して取り付けた四方を明るく照らすランタンで光源を作り出す。本来の馬車には前方1箇所にしか装備されていなかったが、改造して4箇所に取り付ける事で充分な灯りを確保した。
まぁ、その分魔物も引き寄せられるデメリットもあるにはあるが、暗い夜道による奇襲は避けられるのでメリットの方が勝っていた。
それに加えて今まではマリベルやアルス達が松明を持っていたが、これによって両手が塞がらなくて良い事も利点である。彼等も試練を超えた事でかなりパワーアップしているから尚のこと利点であった。
旅の扉から道なりに進んでいく。毎度の事だが最初はどこへ辿り着くのか見当も付かないが、経験上ではあるが先人達が作った馬車道を辿れば街や村に辿り着くことが多い。
「ゲゲッ!? なんでお前達は石化していない!?」
馬車道を進む事半日足らずでそれなりに大きな街に辿り着いたが、誰も彼もが石化していた。これは、ダイアラックの時と同じだ。
なので大地主の様な家の屋上から天使の涙を降り注ごうと思い、屋上に登ると石化の原因と思われる魔物と出くわしてしまい戦闘が始まったが試練を超えた俺達の敵では無く割とあっさり倒してしまった。
「グケェァッ……!? だ、だがっ……! 残念だったなっ……! オレを倒しても、石化が治る訳ではないっ……!! ザマァみがっ……!? クソがっ……」
石化の原因と思われる魔物アメフラシは俺達を嘲笑うかの様にして消えていったが、俺達の手にもつ天使の涙を見て驚愕して悔しそうにしながら消えていった。
「天使の涙で石化を解除しよう」
「だな! 今ならまだ間に合う筈だぜ!」
「ダイアラックの二の舞は絶対にさせてたまるか」
アルスが天使の涙を使った。キラキラとした涙が深く暗い空へ舞い上がり、そして慈愛の雨の様に石化した人々へ降り注いて石化を解除したのだった。