「ウワァァァーーッ!? 紫の雨がー!? あっ……??」
「死にたく無いよー!? たすけ……えっ?」
「キャァーーッ!? 神様たす……あれ? 雨が……??」
「雨が、止んでる……??」
「どういう事だ……??」
「何が、一体……??」
天使の涙を使われて石化状態が解けたグリンフレークの街人達は、晴れやかな青空を見て困惑していた。
確かに、自分達に降り注いだ紫色の雨は最近噂に聞く死を齎す石化の雨であると聞いていた。
実際に紫色の雨を浴びて行く内に徐々に自身の感覚が失われていき、体の至る所が石に変貌していったのは憶えていた。
そんな状況をうまく飲み込めないグリンフレークの街人達へ俺達は屋上から出て行き状況説明をした。
「……なるほど。正直、未だに自身に起きた事すら信じがたいですが……。どうやら彼等の言う通りの様ですね……」
この街の大地主であり街長の様な立場のボルックが代表して俺達の話を聞いて彼等を宥めた。
彼もまた己に起きた事に動揺を隠せないが、街を守る為に奮起して事の顛末を聞いたのだった。
「そう言う訳なので、紫色の雨を降らせていた魔物アメフラシは俺達が討伐しました。
しかし、その為にボルックさんのお自宅へ勝手に侵入して申し訳ございませんでした」
「あ、あぁ、いや……。君達が助けてくれなければ我々は今頃死んでいたのだろう。感謝こそしても責める事はあり得ない。頭を上げて欲しい」
どんな理由があれ人の家に勝手に忍び込むのは本来なら許されない行為だ。
だから、アレンはこの面子の代表として前に出て大地主のボルックへ先に頭を下げた。これによって街人達へのボルックの面子は保たれたのだった。
このままいけば、グリンフレークの街人達を守れなかった無能な大地主と言う不名誉な称号をボルックは背負わされる事になる。
対して、ポッと出た俺達はグリンフレークの街人達にとって命の恩人や街の危機を救った英雄と持て囃される可能性が高い。
そうなった時にこのままではボルックの面子は潰れたままとなってしまう。それは、今後のグリンフレークの運営に支障が出てしまう。
それを分かっているから、彼も先に頭を下げてくれたアレン達に感謝こそしても責める気にはならなかったのだ。
「ちょっと、誰か来てーーっ!! ぺぺがっ……!?」
若い女性の悲鳴が聞こえて周囲は騒然としたが、今度はボルックが一喝して黙らせてからハーブ園の方へと一緒に行った。
「なっ……!? テメェッ! ぺぺっ!! 俺のリンダに何してやがるっ……!?」
「イワンよ、少し黙れっ……! リンダよ、何があった? それに、ぺぺは……一体、どう言う状況なんだ?」
「ボルックさん……。ぺぺが、ぺぺが、起きないんですっ……!? まるで体は石の様に硬く固まっていてっ……!?」
「なんだとっ……!? お客人達、申し訳ないがぺぺを安全な場所へと運びたい」
「分かりました! キーファ、アルス、手伝ってくれ」
「おう!」
「うん!」
そして、リンダと言う女性に覆い重なる様な姿勢で固まるぺぺを俺達は彼の家まで運んだ。
彼女が言うには、紫色の雨が降った時にぺぺと言う男性が自身を雨から守ろうとしてくれたらしい。
ぺぺと言う男性を知るグリンフレーク街人達はそれに少し驚きながらも、彼の男気溢れる行動に感心していた。
しかし、その中で唯一、納得せずに怒りを抑えられないと言わんばかりの態度をする男性がいた。それがボルックの息子であり、リンダの婚約者でもあるイワンだった。
「リンダ! 何故、ぺぺと一緒にいた!? お前は俺の婚約者の筈だ!! まさかっ……!?」
「ちょっと、こんな時にっ……!?」
「そうだぞ、イワン!! それも我々の命を救ってくれた恩人に感謝もせずに、お前と言う奴はっ……!!」
「で、でもっ……!?」
「少し頭を冷やして来いっ……!!」
「っ!? チッ……!!」
父であるボルックに叱られて不貞腐れたイワンは、まるで怒りと猜疑心を隠そうともせずに家を出る際に扉を強く叩き付ける様に締めたのだ。
「何だよ、アレ……」
「感じ悪いわ……」
「お客人、私の馬鹿息子がご不快な思いをさせて申し訳ない……」
「ボルックさん、差し支えなければ彼等の関係を聞いても?」
俺やキーファ、マリベル達はイワンの行動や言動に対して大体は何となく予想は出来たが、その辺りが少し鈍いアルスやガボ達に説明の意味を込めて彼に質問した。
ボルックはその質問に少し渋りながらも、諦めた様にため息をついて彼等の関係性の説明をしたのだ。
彼が言うにはぺぺとリンダ、イワンは昼ドラを彷彿させるようなドロドロの三角関係であった。
リンダは彼女の死んだ両親がボルックに残した借金を帳消しにする代わりに息子イワンの婚約者にしたそうだ。
彼女の死んだ両親は商人であったが、グリンフレークを発展させようとボルックから10万Gの融資を受けたが大失敗したらしい。
彼女が幼い頃にはその借金を何とか返そうと文字通り死に者狂いで働いたらしいが、母親は本当に過労死してしまい父親も魔物に襲われて死んで借金だけが残ったらしい。
借金はまだ7万Gも残っている。当然の事だが幼い彼女がそんな大金を返せるわけもなく、ボルックも苦肉の策としてその決断をしたそうだ。
ボルックとしてはあんな馬鹿息子とは言え、将来は自分からこのグリンフレークを継ぐ可愛い跡取り息子だ。だから、せめて息子が好意を寄せているリンダを婚約者に据える選択をしたそうだ。
しかし、リンダにはぺぺと言う幼馴染が居た。このぺぺはボルックの家が古くから雇っている庭師の生まれで、事ハーブの栽培に関しては自身の目から見ても天才的な人物だった。
事実、彼が育てたハーブのお陰もあってグリンフレークは町規模だったのが、街規模にまで大きくなるほど大きく貢献してくれると評価していた。
そんな彼にリンダは思いを寄せていたことが婚約者に据えてから発覚してしまった。ボルックから説明をされた彼女は赤くなりながらも黙って俯いた。
そして、あの紫色の雨の日にリンダはぺぺに自分の想いを告げようとしたが、結局出来ないまま当の本人は自身を庇い目覚めずに居る。
ぺぺがリンダに好意を抱いて居るかどうかは結局は分からずじまいだが、自分の命を投げ出しても幼馴染の異性を守ろうとした行為には少なくとも彼女への好意がある事は間違いないとボルックは悟っていた。
質問をしたアレンだったが、リンダやぺぺの家族がいる前で言う話では無かったと聞いていて思い申し訳なく謝罪した。それに続く様にキーファ達も謝罪する。
「いや、お客人達が謝る事ではない。私がいけなかったのだ……。せめて借金の回収を、と焦ったばっかりにこの街の未来を背負う若者達へ非道な選択をしてしまったのだ……」
「いえ、ボルックさんが悪い訳じゃありません……。元は両親が出世欲に駆られて杜撰な計画のまま事業を進めてしまった事が原因です。
同じ商人である叔父さんが言ってました……。父達は上手い儲け話があると言われてそれを鵜呑みにしてしまったのだと……。
商人でありながらそんな馬鹿げた話を聞いた結果が今の状況なんです……。ボルックさんは悪くありません……」
「リンダよ……。すまないな……」
リンダにとってはボルックは叔父と同様にまるで父親の様に可愛がってくれた恩人だ。
今でこそぺぺのお陰でグリンフレークが発展したが、もしもあのまま町規模だったとしたらきっとグリンフレークは滅んでいたかもしれない。
その場合、ここに住む街人達の恨み辛みのほとんどが町を壊滅に追い込んだリンダの両親、引いてはその娘であるリンダに降り注いでいた事は明白だった。
「お客人さん! どうか、兄ちゃんを助けてくれねえか!?」
「これ、ポルタ! 旦那様のお客人になんて事をっ……!?」
「だって、これじゃ兄ちゃんが報われないだべ!! 兄ちゃんがリンダさんを好きなのは父ちゃんも知って居るだべ!」
「っ!? それ、本当、なのっ……!?」
あまりにも悔しくて、それでいて歯を食いしばる様に声を殺して泣くポルタの言葉を聞いてリンダは顔を赤くした。
「……本人にはバラされた事は隠して欲しいが、事実だ。ぺぺがハーブ園に心血を注いだのはハーブを誰よりも愛しているからであるが、それと同じくらいにリンダが好きだったからだ」
「っ!? なんとっ……!? 何故、それをもっと早くっ……!!」
「旦那様、お叱りは私が全て受けます。しかし、どうか息子達は許して欲しいのです。ポルタはぺぺに比べたら要領の悪い子ですが口の固い自慢の息子です。
きっと今も兄であるぺぺとの約束を破った事に心を痛めているでしょう。そして、ぺぺは大好きなハーブ栽培を任せて貰える旦那様にとても感謝していました……」
「私に……?」
「そうです。自分にはリンダの借金をどうにかするだけの財力は無いけどハーブ栽培で、せめてリンダがこの街で酷い目に遭わない様に出来るこの子なりの貢献をさせて貰えたのです。
だからこそ、リンダに色々として便宜を図って下さった旦那様へ不義理となる、自身のリンダを想う気持ちとの板挟みになり曖昧な態度を取るしか無かったのでしょう。
この子はポルタよりも要領が良過ぎるあまり、自身を顧みないところがありますのできっと自身を押し殺して居たのでしょう」
「……ぺぺ」
「……そうか。お客人よ、頼みを聞いて頂きたい」
「彼の治療ですね? 勿論、このままにしておくには目覚めが悪いです。しかし、この状態をどうにかする為の手段を俺達は……」
「……そう言えば、この街の近くに未来を見通す不思議な力を持つ占い師の一族が居て、その方達は薬にも詳しいと聞いた事があります」
「あっ! オイラ、その占い師が居る村から来た奴を知って居るだ! 確か、飲み屋で飲んだくれて居た様な……」
ポルタからその人物の特徴を聞いて俺達はぺぺ達の家から出て行った。
「占い師に薬、か……」
「取り敢えずソイツに聞きに行くわよ」
「どの道、僕達には手掛かりないしね……」
「こう言う時にベゼルさんを頼りたいが……」
「もう会えないって言ってたから……」
「今は考えても仕方ない。マリベルの言う通り、聞きに行こう」
そして、俺達はポルタの言うグリンフレークに来て帰れなくなったと嘆きやけ酒をして居る人物へ会いに行ったのだった。