エデンの来訪者   作:火取閃光

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第32話

 泣き崩れるイワンと彼の側で落ち着かせようとするメイド。

 

 その少し離れた所で驚き固まっている様に装うリンダと何が起きているのか理解出来ないぺぺ等がいて周囲は驚きと困惑を隠さなかった。

 

 街人達はアレンの提案について反論はなかった。確かにリンダの両親が借金をした10万Gからすれば1万G足りない金額だ。

 

 しかし、借金をしたリンダの両親や叔父、彼女自身が返済した4.5万Gが既に返済し終えているので実質3.5万Gプラスなっており、同時に街人達はリンダに対してとても同情を抱いていたからだ。

 

 彼女が彼女が生まれて間もない時に借金が出来て、物心ついてすぐの頃に借金をした両親が亡くなって、あまつさえその借金を背負う羽目になったのだ。理不尽極まり無い事だろう。

 

 それだけではなく彼女が幼い頃からその借金を返済するべく、とても頑張っていた様子も彼等は見て来た事も1つの要因だ。

 

 だから、その借金を全額返済した上で利益もあるなら、イワンの様に自分達が文句を言う立場では無いと思ったのだった。

 

 そして、それはぺぺも同様だった。借金を抱えたリンダの為に献身を重ねて来た彼だったから、例え困惑する状況でも無理矢理納得して彼女の幸せを願っていた。

 

「……確かに、9万Gを受け取りました。しかし、良いのですか?」

 

「何がですか?」

 

「言い方が悪いのですが、所詮リンダは田舎の街娘です。これ程の大金を即決出来る英雄殿であれば貴族にも夢では無いと思うのですが……」

 

「確かに、ボルックさんの仰る通りです。ですが、我々にも事情があるのです」

 

 アレンがそう言うとマリベルが前に出て、事前に伝えておいた俺達の事情を簡潔に掻い摘んで街人達に伝わる様に説明した。

 

 その説明とは簡単に言えば世界は魔王に支配されている事とその支配から人々を救う為に旅している事だ。

 

 困惑する街人達だったが、それを無視してマリベルに続く様に真剣な眼差しのアルスが先日起きた石化の原因について説明する。アルスの真剣な時の表情は凄い説得力があった。

 

 彼自身が普段とても穏やかで、子供っぽい表情で歓迎会を楽しんでいた事を見られていたから尚のこと虚言の類では無い事が分かったのだった。

 

 それに加えて、自分達が死に掛けた原因が魔王軍による暗躍であると知れば彼等も気が気では無いだろう。マリベル達の説明を受けた彼等は俺達の雰囲気に呑まれていたのだった。

 

「いや、ちょっと待てよ……」

 

「うん? 君は?」

 

「あっ、いや……。自分は庭師でハーブ園の管理を任せられているぺぺと申します。先日は助けて頂きありがとうございました」

 

「あぁ、君か……。その後の体調は大丈夫だったかい?」

 

「え、えぇ……。特に問題はございません」

 

「それよりも、何か疑問があったのかい? 良ければ答えるよ?」

 

「……それなら、質問があります。そんな危険な旅に、その、リンダを連れて行くのでしょうか……?」

 

「……勿論だ。我々の旅はいつ死んでもおかしく無い危険な旅だ。それなら、せめて死ぬ前くらいに好意を寄せた女性と過ごしたいと思うのはおかしいかな?」

 

「っ!? それ、はっ……!?」

 

 アレンの言葉にはぺぺも覚えがあった。それは石化の雨が降り注いだ時に心の片隅に彼女へ抱いた感情だったからだ。

 

「彼女を一目見た時に私の心はリンダ嬢に奪われてしまった。初めてだったよ、こんな気持ちになったのは……。

 

 本当だったら叶わない恋なのかも知れないが、昨日偶然にも彼女の叔父君と彼女の話を聞いてしまってね……。

 

 ボルックさんのご厚意に付け込む形になってしまいとても卑怯な手段になってしまったけど、私はリンダ嬢を妻に娶りたいと言う衝動を抑えられなかったんだ」

 

「っ……!?」

 

 ぺぺはアレンの言葉に耳を傾けて唇を噛んだ。堪えたのだった。その気持ちは誰よりも理解出来るからだ。まるで自分の心を見透かされている気分でぺぺはとても悔しかった。

 

 アレンの言葉は正にぺぺがリンダを思う気持ちそのものだ。だから、その思いを言葉に出来ない自身がもどかしくて、同時に自由な立場にいて発言するアレンへ嫉妬を抱いたのだった。

 

「リンダ嬢、いや、リンダよ……。今日から君は私の妻だ。危険な旅に連れて行く事になるが君は必ず私が守る。だから、私を愛して欲しい。共に幸せになろう」

 

 そう言うとアレンはわざとぺぺとイワンへ見せ付ける様に熱くリンダを抱擁する。

 

 そして、少し抵抗を見せる彼女の頬に触れてうっとりした表情で接吻をしようとゆっくりと顔を近付けた。

 

「恥ずかしがって、可愛い奴め」

 

「……いやぁ。助けて、ぺぺ」

 

「っ!? リンダッ……! 俺、はっ……!!」

 

 薄らと涙で潤ませた瞳と共に微かで今にも消えそうなリンダの悲鳴を聞いたぺぺは、今にも気が気では無い程に怒りと葛藤でどうにかなりそうだった。

 

 そんな時だった。ぺぺの父と弟が彼の背中をそっと叩いた。

 

「ぺぺよ、自分の気持ちに正直になりなさい」

 

「兄ちゃん、どんな事になってもオイラ達はずっと兄ちゃんの味方だべ」

 

「っ!? リンダをっ……! リンダを離せーーっ!!」

 

 込み上げる思い。2人の家族の気持ちが伝わりぺぺはアレンに向かって体当たりをしたのだった。

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