ぺぺの渾身の一撃にリンダへ抱きついていたアレンは衝撃を背後へ流す様にバックステップして回避する。
「リンダ、もう大丈夫だっ……!!」
「っ!? ぺぺっ……!!」
リンダは咄嗟に自身を隠そうとするぺぺの行動に感動して、彼の背後にそっと寄り添う。
「君は……。どう言うつもりだ?」
アレンはぺぺに対して表情を消して、静かにそれでいて冷たく彼の体当たりについて問い掛けた。
「街やみんな、俺を助けてくれた貴方にこんな事をして申し訳ないと思っている。
でも、リンダは貴方との結婚を嫌がっているっ! 目に涙を浮かべている彼女を見捨てる事は俺には出来ないっ!!」
「君には関係ないだろ? 君と彼女はそこにいるボルックさんの息子であるイワンさんの様な婚約者関係ではないのだろう?
昨日、リンダから君についても少し聞いた。君とは"ただの"幼馴染関係の筈だ。
リンダへ好意や嫌悪も告げる事をしなかった、ただの幼馴染関係なのだろう?
そんな君が今、この場にしゃしゃり出て囚われの姫を救う王子様のつもりなのかい?
ハッキリ言って恩を仇で返された気分で不愉快だよ。君は一体何様のつもりでこの場を見出したのかい?」
正直言えばぺぺがアレンに立ち向かいこの場に出て来た事で、当初の予定は概ね達成していると言っても過言では無い。
しかし、アレンはそれでも執拗にぺぺを責め立てる様に問い掛けた。その意図は、彼の口からリンダへの思いを打ち明けさせる必要があると思っていたからだ。
「俺は確かに、貴方の言う通りリンダとは幼馴染関係だった……。貴方のその言葉を否定はしない。
現にさっきまでそれを押し殺す事で家族や旦那様、リンダを傷付けないと自分の思いを言葉にしてこなかったし出来なかった臆病者さ……」
「それじゃ、なんで出て来たのかな? 私がその気なら君を殺す事も出来た。その危険性を考慮しなかったのかい?」
「あぁ……。正直、自分でも分からない。でも、確かな事は分かる。俺はリンダが好きだ。
世界で1番彼女を愛している。だから、そんな彼女を悲しませる貴方が許せなかった。
何よりも自分勝手に彼女の幸せを願った振りをして、彼女の気持ちに気付かない振りをして誰よりも彼女を悲しませた俺自身に怒りを覚えたんだっ……!!」
怒りと悲しみで涙しながら興奮を隠せないぺぺの言動を聞いて、グリンフレークの街人達も涙しながら無言の圧力でアレン達を睨んだ。
そんなぺぺの言動をイワンはハッとした表情で見つめ、そんな彼の側で慰めていたメイドのカヤは期待と不安の入り混じった表情でじっと見守った。
「なるほどね……。君の事情は理解した。だけど、言い方が悪いがリンダの所有権は私にある。
君達も見ていた通りだから分かるだろ? さっき、ボルックさんからリンダの借金を肩代わりしたのは他でも無い私だ。
この婚約が無効となればさっき支払ったお金をボルックさんから返金して貰う必要がある。
その上で、ボルックさんに改めて賠償を求める。理由は言わなくても分かると思うが君の行動はかなり不愉快だ。
ハッキリ言って気分が良いとは言えない。少なくともリンダの人権を買った経緯はこの街を救った褒美からだ。
借金を踏み倒す訳でもなく、寧ろ残りの借金を返済しただけではなくこの街に利益を生むように追加で金額を納めた事は理解しているかい?」
「それは……」
「そうだね……。ボルックさんに求める賠償は街の救済を含めて10万Gが妥当だと思う。それを支払えないなら実力行使も厭わないつもりだ」
10万G。その金額を聞いて街人達は恐れ慄く。今のグリンフレークなら決して払えない金額では無い上、街を救済した英雄へ不義理を働いた賠償としては寧ろ安い金額だ。
リンダの両親の時とは違い今は稼ぎ頭のぺぺも居る。ぺぺの作るハーブにはそれ以上の価値がある事を知っているからだ。
しかし、それを分かったのに何故恐れ慄いたのかと言うとそれは、先程アレン達が言った旅の目的である魔王討伐の内容だった。
街人達が石化して死に掛けたのは魔王軍が静かに人類滅亡を企てた結果である。
そして、それが意味する事はアレン達の気分次第ではグリンフレークは魔王軍によって再度滅ぼされる事もあるし、何よりも今度はアレン達が助けてくれない可能性が高いのだ。
その上でいくらぺぺのハーブが高値で取引されていても、購入者が居なくなって売れなければ意味が無い。だからこそ、アレンの脅迫に恐怖を覚えたのだった。
「まぁ、支払える訳がないよね。それが出来るだけの財力があれば始めっからリンダの借金を返済していただろうし……」
「……」
「だから、私から提案しよう。リンダを賭けて決闘を申し込む」
「っ!? えっ……!?」
アレンの思い掛けない提案にぺぺや街人達が呆気に取られる。
「勿論だけど殺しはしない。その上、私と君では戦力差があり過ぎるから普通にやれば結果は火を見るよりも明らかだ。
だから、君にハンデをやろう。私は逃げも隠れもしないし、決闘が始まったらこの場から一歩も動かない。
君が私を一歩でも動かすか、一撃与えるだけで君の勝利としよう。君が勝てば賠償金の話は無しだ。ただ、私が勝てばリンダは私のモノだ」
「ちょ、ちょっと待てよっ……! その話、俺も受けるっ……!!」
「っ!? イワン様っ!? 何をっ……!?」
「止めないでくれ、カヤ! リンダは元より俺の婚約者だ! ぺぺなんかに渡してやるもんかっ!!」
「……良いだろう。ボルックさん、決闘の立ち合いをお願いする」
「……分かった。これより、決闘を……ん?」
中々カオスな状況に頭を痛めたボルックが決闘の合図を宣言する瞬間、灰色の雲が次第に集まりポツポツと少しずつ雨が降り始める。