エデンの来訪者   作:火取閃光

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気分転換に書いてみました。


第38話

 族長達と談笑しているアレン達を見て老婆は困惑し、若い男女は困惑気味な視線を向けた。

 

「おやおや、これは一体何の騒ぎだい?」

 

「ホッホッホ。ベレッタよ、久しぶりの旅人に加えて精霊様の祝福を受けた者達が来てくれたのじゃ」

 

「ご紹介に預かりました。風の精霊の祝福を受けたアレンです」

 

「僕は水の精霊の祝福を受けたアルスです」

 

 腕を捲り精霊のアザを見せるアルスとは違い、背中にあるアレンは少しだけ風を開放する。

 

 突如、精霊の気配が強くなったアレンを見てベレッタ達は驚きを隠す事が出来ずにいた。

 

「まぁ! よく来てくれたね! 私はベレッタ。よろしくね」

 

「ダーツだ。ユバール族の守り手をしている。よろしく頼む」

 

「俺はジャンだ。会えて光栄だ」

 

「私はライラと言います。私も大地の精霊様から祝福を受けていますの。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしく!」

 

「それにしても、これで四大精霊の聖痕持ち全員に会えたね」

 

「だな!」

 

「まぁ! 火の精霊様の祝福を受けた方をご存知なのですか!?」

 

「その辺も含めて俺の仲間達とも話そう」

 

 こうしてアレン達はライラ達ユバールの一族からの歓迎の宴により交流を深める事にした。

 

 ライラとジャンはユバール族の踊り手と弾き手に選ばれる試験を行っていたらしく、新たな踊り手と弾き手の誕生に一族は歓喜の声を上げたのだった。

 

 ユバール族の踊りと音楽を聞きながら、一族の命の水とも呼べるビバ=グレイプの果汁酒を片手に旅の冒険譚を語ったのだった。

 

 ビバ=グレイプとは葡萄の一種である果物を発酵して作った果汁酒で、この品種ほとんどの地域で容易に栽培が可能とされている果物だ。

 

 そして、これは世界各地を放浪する一族に代々伝わる古い果物でありユバール族に欠かせない果物として愛されていた。

 

 そんな宴会の中で語り手を務めているのは吟遊詩人も極めたキーファである。流石は妹姫リーサを楽しませる兄貴だ。

 

 その語り口にはユバール族も思わず手を止めて聞き惚れるレベルの実力であり、語りが終わるや否や拍手喝采だった。

 

「いや〜、大変素晴らしい冒険譚でしたな……」

 

「いえいえ、ユバール族の踊りと音楽も凄まじい限りです」

 

「確かにな! 俺も踊りや音楽の先生から免許皆伝貰ったけど正直圧倒されっぱなしだったぜ!」

 

「えっ!? キーファも踊れるの!?」

 

「本当か……? 君は見たところ戦士や武闘家だろう?」

 

「本当だって! みんな、信じていないな!?」

 

「それじゃ、キーファ。ダンスの実力を見て貰おうか」

 

「よしきたっ! 激しく情熱的なヤツを頼むぜ!」

 

 そして、急遽始まるリサイタル。ユバール族にあるトゥーラを借りて弾き役アレン、踊り役はキーファが務める事になった。

 

 下手な事は出来ないプレッシャーを感じる。流石は音と踊りで神の復活を願う一族だ。

 

 しかし、アレンもキーファと同様に吟遊詩人は極めていて、リーサやバーンズ王など王侯貴族の前で何度もやってきた仲である。

 

 お互いに視線が交差する。度肝を抜いてやろうと言うキーファの意思を感じながらアレンはトゥーラを弾き始めた。

 

 初めて聞く異国の音楽とキレがある情熱的なダンスを前にユバール族は目を見開いてはうっとりとした表情で魅了された。

 

 トゥーラとはユバール族伝統の特殊な楽器である。元々は封印された神を復活される為に作られた代物である。

 

 当然ながら世界中を旅してきたユバール族だが、一族以外でトゥーラを知っている人々は居なかった。

 

 それが、一族とは関係の無い異国の旅人達が独自のリズムと高い技術を基に紡ぎ出した音と踊り。

 

 最初は動揺と困惑を隠し切れなかったが次第にそんな事はどうでも良いとばかりに高揚感で胸を高鳴らしたのだった。

 

 特に同じトゥーラ弾きのジャンはアレンの音楽に衝撃を受けたのか耳を澄ませて、踊り子のライラは自身と同じ技量を持つキーファの繊細でありながら力強い踊りに胸が高鳴っていた。

 

 そして、曲とダンスが終わったと同時にユバール族から大歓声が上がった。非常に満足の行く演奏にアレンとキーファはお互いの拳を突き合わせて喜びを露わにしたのだった。

 

 そして、その夜はどんちゃん騒ぎだった。ジャンは珍しくライラから離れてアレンへ、ライラはキーファの側へ向かいそれぞれのジャンルについて興味津々だった。

 

「なぁ! アレンと言ったか? さっきのトゥーラの演奏見事だった」

 

「ありがとう。でも、さっき聞こえたジャンさんの演奏に比べればまだまだ未熟も良い所だったと気が付かされたよ」

 

「あぁ、ありがとう。それが俺の誇りだからな。例え異国の旅人と言えどトゥーラの腕で負けるわけにはいかないからな!」

 

「それよりも、キーファ達は何処でトゥーラや踊りを覚えたの?」

 

「俺達の故郷エスタード島って場所では弦楽器の1つとしてトゥーラがあったんだ。

 

 手入れもそうだけど制作や演奏に癖があるトゥーラだけど、音楽や踊りを教えてくれた先生が偶々好きだったから習う機会があったんだよ」

 

「そうなの!?」

 

「エスタード島か……。聞いた事がない島だな……」

 

「まぁ、小国とはいえ大陸から離れた島国だからね……」

 

「なるほど……。世界中を旅するユバール族とは言え、流石にそんな場所は旅しないな……」

 

「でも、それならキーファ達はなんでこんな所まで旅をしているの?」

 

「確かに! ライラの言う通りだ」

 

「それは、魔王を倒すべく旅をしているからだよ」

 

 そして、キーファは先程語った冒険譚の詳細についてジャンとライラに説明した。

 

 未来から過去へタイムトラベルしている事は彼等の混乱を招くので伏せた上で、これまでの旅路を語ると彼等は真剣な表情で全てを飲み込んだ。

 

「そうか……。本当に凄まじい旅路だ……」

 

「えぇ、そうね……」

 

 少しだけ宴会にそぐわ無い程暗くなってしまった話題を切り替える様にジャンはアレンと2人で再度トゥーラについて語り合い、ライラはキーファと2人話していた。

 

 話題が弾む中でライラはキーファに対して親近感が湧いていた。会ったばかりのキーファに対してもっと知りたいと言う気持ちが溢れていた。

 

 そして、それはキーファも同様だった。ライラを初めて見た時になんだか放って置けないと思えて仕方なくついつい話し込んでしまっていた。

 

「でも、旅をするキッカケは本当にしょうもない事でさ……。何者でもない俺が何かになりたいって言う子供っぽい思いから始まったんだ」

 

「まぁ!? そうなの?」

 

「あぁ、そうさ。でも、アレン達を誘って旅していく中で自分の運命? みたいなモノに気がついて。そこから、旅していく内にここまで来たんだ……」

 

「キーファは、その運命を……?」

 

「受け入れているつもり、かな……? 魔王を倒す事が俺の運命だと思うんだ。だけど、まだ旅の途中でさ……。

 

 目的はハッキリしているのにどうすれば倒せるのか分からない位に漠然とし過ぎているから、やっぱり怖いとは思っている。そう言うライラも……?」

 

「……うん、怖いとは思う。私達も封印された神様を復活させるって言う目的はハッキリしているけど、それが叶わなかったらって思うと怖いとは思っちゃう……。

 

 仕方がないって思っていても、やっぱりね……。一族や使命が大切なのは分かるけど、時折全てを投げ捨てて逃げたいって思ってしまうの……」

 

「その気持ち、分かる気がする……。俺も受け入れたつもりだけどさ、心の何処かでこの重みを投げ捨てたいって思う時があるから……」

 

「そうなんだ……」

 

「あぁ、そうさ……。ハハッ、こんな暗い話をするつもりじゃなかったんだ。ごめん……」

 

「ううん……。私も、少しだけ気が楽になれたから……」

 

 ビバ=グレイプの酒精にあてられたのか、それとも同じ苦しみを理解するキーファへ同族意識を感じていたのかライラは一族に打ち明けなかった心の内を話して顔を赤くしていた。

 

 彼女にはトゥーラの弾き手であるジャンと婚約関係となっているが、それは一族が決めた関係でありジャンに対しては恋愛感情は持っていなかった。

 

 恋とは無縁だと諦めていた時に出会ったキーファを見て高鳴る胸を抑える様に、照れる気持ちを勘違いだと思い込む様にしてビバ=グレイプを飲み込んだ。

 

 そして、そんなライラを横目にしたキーファもまた家族や仲間達にしか言えなかった心の内を曝け出して、急に恥ずかしくなってしまい照れ隠しをする様にお酒を煽ったのだった。

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