ユバール休息地でのモンスター大群の襲撃を受けた次の日、族長が神の祭壇が眠るとされる湖へ向かう決断をした。
昨日起きたモンスターの襲撃が偶然のモノではないと悟り、一族の安全の為に移動する事を決めたのだった。
しかし、移動にあたり1つ問題があった。それがユバール族の守り手であったダーツが戦線離脱してしまった事だ。
やはりと言うべきか昨日の今日では全快する事が出来ず、護衛どころか一族大移動も難しいコンディションだった。
「申し訳ございません、族長様……」
「無理するでない、ダーツよ。お主は良くやっておる」
「しかし……。その所為で娘が……」
「たった1人の家族がこう言う状態なんです。父が心配で側に居たいと思うのは至極当然ですよ」
「そうだのう……。時にアレン殿達よ、またお頼みしたい事があります……」
「皆さんの護衛とダーツさん達の護衛ですね? 勿論です」
「ご理解がお早く助かります……」
「それじゃ、ライラとダーツさんの2人は俺とアレンが護衛します」
「アルスとマリベルは左右前方へ向けて、ガボ達は後方から遊撃をしながらジャンさんの指示に従い護衛してくれ」
「うん、分かった」
「まぁ、妥当な判断ね」
「ガボッ! 頑張るぞー!!」
「ガウッ!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれっ……!?」
「どうしたのだ、ジャンよ?」
「やっぱり、俺もライラを護衛する! 彼女の婚約者としてライラを守り、一族の皆んなはアレン達に任せたい!!」
「ジャンよ、我儘を言うでない!! それに誰がお前以外に退魔の調べを奏でられるのだ!」
「し、しかしっ……!」
「それに、本来ならこれは我々ユバール族の問題。我等自身で解決しなければならない試練。
それを彼等のご厚意に甘えて守り手であるダーツの代わりに護衛をして貰っておるのだ」
「……っ! 申し訳、ございません……」
「お前の心配も分かっておる。だが、時は一刻を争う事態なのだ。分かってくれ」
「……はい」
「ジャンさん、2人の事は俺達に任せてくれないか?」
「必ず無事に神の祭壇が眠る湖まで守ってみせます」
「……必ず守ってくれよ! よろしくお願いします!!」
何かを飲み込む様にして決意を固めたジャンが了承した事をキッカケにユバール族は、神の祭壇の湖へ向けて大移動を開始したのだった。
本来ならこの大移動はある程度時間を掛けて行うモノであるが、昨日の襲撃を考えて少し足早に向かった。
案の定と言うべきか、神の祭壇が眠る湖へ向かうにつれて昨日の様に大群とも呼べるモンスターがユバールの行く手を阻んだ。
しかし、昨年の乱戦とは違い今回は護衛対象が纏まった防衛戦である。周囲の被害を考えて戦っていたアルス達は先日とは違い制限が外れた様にモンスター達を殲滅したのだった。
アルス達の人智を超えた圧倒的な力の前にユバール族は恐怖よりも高揚感に満ちていた。
このモンスターの大群は明らかに神の復活を阻止するべく自分達へ攻撃している。
それは、昨日の襲撃でも理解はしていたが、それを打倒するアルス達がまるで神の使いの様に思えて、一族の悲願が成就する瞬間が近付く事に高揚感を感じていたのだった。
そして、あらかた殲滅し切ったアルス達は何度か休憩を挟みながら、本来5日掛ける道のりを3日掛からずに到着したのだった。
場面は変わりキーファ達であるがアルス達が出発した次の日、本調子の4割位まで回復したダーツの申告により休息地からの出発を決めた。
やはりユバール族の守り手として、これ以上休息する事に気持ち罪悪感があるとの事で移動した。
「何から何まで本当にすまないな……」
アレン達が持って来た荷馬車の御者台にダーツとライラを乗せて、アレン達はその左右に挟み込む様にして護衛しながら歩いていた。
「気にしないで下さいよ、ダーツさん」
「そうですよ。俺もダーツさんの立場だったら無理にでも行こうとしますので気持ちは分かりますし!」
「まぁ、お前の場合は本当にそう言う所あるよな……。しかも、ダーツさんみたいな遠慮とかねぇもんな……」
「俺からの信頼だっつうの! お前等がいれば俺が多少無理してもカバーしてくれるだろ? だから、遠慮なく出来るんだよ」
「ふふっ。2人は本当に仲が良いのね」
「アレン達とは10年来の幼馴染なんだ。特にコイツとは剣の腕だけじゃなく他の事でも切磋琢磨した仲なんだ」
「もうそんなに経つのか……。本当に色々合ったな……」
「なにジジ臭え事を言ってんだよ。だけど、まぁ……。本当に色々合ったな……」
「なるほど……。2人の強さの秘訣はそう言う所にあったのだな……」
アルス達が先んじて殲滅したので、4人での移動中はモンスターの襲撃がほとんどなかった。あっても数体だったのでアレンの呪文で一撃だった。
そこからの移動中は他愛もない話題をしながら、ゆっくりとアルス達が待つ神の祭壇が眠る湖へ向かった。
エスタード島に残す父や妹達の事を初めとして、旅を通して見聞きした食べ物や観光地の光景、子供の頃に読み聞かせられた物語や好き嫌いなど一杯話したのだった。
途中、調子を戻しつつあったダーツがリハビリにキーファ達と訓練を行い親交を深めたりしていた。
この時間はライラにとってとても貴重な時間だったと感じた。ユバール族の踊り手としてじゃなくて、1人のライラとして一時的に使命を忘れられた日々だった。
それはキーファも同様だった。久しぶりにこんなに穏やかに笑えたと心の底からそう思えたのだった。
別にアレン達が重荷であったとは言わない。むしろ彼等の存在は掛け替えの無い支えである事は間違いなかった。
ただ、ライラと言う1人の少女との何気ない会話に心が軽くなった様な嬉しさを感じていたのだった。
そして、アルス達が大体5日後になりアレン達は神の祭壇が眠る湖へと到着したのだった。