神が眠るとされる祭壇へ到着したのは日が暮れるかどうかの頃だった。どうやらアルス達は既に湖の水を引いて祭壇を復活させたらしい。
アレン達は先に到着して古文書の再確認をしている族長達へ到着の知らせを伝えたのだった。
「お待たせしました、族長様」
「おぉ、ダーツ達よ。無事に来られた様だな」
「えぇ、アルス殿達が先んじて周囲のモンスター達を討伐してくれたお陰で何事も無く体を休めました。守り手を復帰致します」
「それはそれは……。アレン殿とキーファ殿、2人の護衛を感謝致しますぞ」
「俺達は何もしていませんよ」
「それよりもアルス達は何処にいるんですか?」
「おぉ! 彼等からつい先程、ジャンと一緒に祭壇内にある2つの神器達を確認しに参ったですぞ」
「そうでしたか……! それじゃ、ライラ」
「えぇ! 行きましょう、キーファ」
キーファは地面が泥濘んで足が取られない様にする為にライラの手を取り、彼女も彼の気遣いに感謝しながら祭壇内へと足を運んだのだった。
その後、祭壇内では距離が近過ぎる2人へジャンが嫉妬をぶつけたりした。
しかし、ライラ達は彼が何をそんなに焦燥感に駆られているのか分からず首を傾げる一悶着があったが、神器達は無事に本物と判断されたのだった。
ただ、ここで1つトラブルが起きていた。それは、古文書に記された神が復活する為の条件であるトゥーラが金色に輝いていないのだった。
族長達ユバール族の者達が穴が空く程に何度も確認したが間違いは無く、トゥーラが輝かないと言う事はまだ神が復活する時ではない事を意味しているのではないかと不安が広がっていた。
「それじゃ、いつだったら復活の時なんですかっ……!?」
「これ、ジャン!」
「落ち着きなさい、ジャン!!」
「俺は落ち着いています! ユバール族の皆んなに問いたい!! 今日行わなかったら復活の時はいつなのだろうか!?
祭壇の近くで休息している時に起きたモンスターの大襲撃から今日この日まで、アルス達が居なければ俺達ユバール族は死んで神の復活が阻止されていた!
彼等との出会いは正に運命と言うべき出来事だっただろう! きっとこれは神の御心あっての思し召しだと俺は思った!
だからこそ、今日やらなくしていつやるのだろうか!? やってみないと分からないと俺は思う! 俺は間違っているか!?」
ジャンの熱弁に対して族長達は言葉が出て来ず、不安に思っていたユバール族の民は熱を帯びていった。
「だから、俺は今! 復活の儀を執り行いたい!! ライラ、踊ってくれ!!」
「っ!? うん、分かったわ!!」
ジャンの決意に満ちた表情を見てライラははっと息を呑み込み、清き衣を身に纏うとそれに釣られて他の楽師達も儀式を始めたのだった。
復活の儀式が始まるとそれまでの空気が一変した。神聖な空気を漂わせた2人の演奏は会心の出来栄えだった。
普段から高い実力で演奏をするアレンとキーファでさえ、思わず魅了されてしまったその儀式が終わりを迎えた。
古文書の通りなら儀式が終了した時点で神の祭壇に何かしらの反応がある筈だったが、演奏を終えても何も起こりはしなかった。
「やはり、失敗だったか……」
「そう、ですね……」
言葉にならないくらいに悔しがるジャン達を見ながら、ユバール族長やベレッタ達は静かに呟いた時、それは突然起こった。
《愚かなり、人の子よ》
儀式の失敗で不安や動揺が起こっている中、頭の中に響き渡る不快な声に周囲は騒然とした。
《封印を冒す者に天罰を与えん》
言っている意味は分かるが、何のことだが分からないとばかりに混乱が広がっている。
それと同じくして、ジャンが持つ神器・大地のトゥーラが黒く悍ましい光を撒き散らしながら彼を飲み込もうとしていた。
「ジャンさん、ダメだ! それから手を離せ!!」
「分かって、いるっ……!? クソッ! ダメだッ……!? 大地のトゥーラから、手を離せないんだっ……!!」
必死になってトゥーラから手を離そうとするジャンだったが、抵抗虚しく黒い光は彼の叫びと共に全てを染め上げた。
「なっ……!?」
「ジャンッ……!?」
「うそ、だろっ……!?」
黒い光から出てきたのは
「グッ……ガッ……。オロカナル、ヒトノコヨ……」
あまりの出来事にショックを隠しきれなかったライラは呆然と立ち尽くしていた。
だが、それは仕方ない事である。この場にいる全員が予想すらしなかった出来事に情報処理が追い付いていなかった。
「天ノ怒リヲ……ソノ身ニ、ウケヨッ……!!」
「何故……!? どうして、なのっ……! ジャン……!!」
「グウオオオォーーッ!!」
突如としてライラに襲い掛かるモンスター化したジャン。絶体絶命の危機にライラは悲鳴を上げて身を守る。
誰もがライラの命が失われたと思ったその時だった。2人の間にキーファが飛び込んでジャンの攻撃を剣で受け止めたのだった。
「っ!? キーファッ!!」
「どうしちまったんだよ、ジャンさんっ……!
キーファがジャンの攻撃を弾いた瞬間、アレンがジャン目掛けて回し蹴りを放って強制的に距離を空けた。
「すまん、キーファ! ライラさんは無事か!?」
「当たり前だ!」
普段から冷静沈着で慌てない様に心掛けているアレンですら、キーファが反応してから若干遅れてしまった。それ程の事態だった。
アレンが動き出した事でマリベル達も戦闘に意識を切り替えて、モンスター化したジャンと対峙する。
「グッ……ガガッ……!? オ、レハ……!? ライラ……。止めて、くれっ……。誰か、助けてっ……!!」
ジャンの理性とモンスター化した肉体の本能の狭間で彼は必死に体の制御を取ろうとする。
しかし、そう簡単にはいかないらしくボロボロと流れ落ちる涙と共に悲痛な叫びが響き渡った。
「っ!? お前等も聞いたなっ……!!」
「勿論っ……!! 行くぞ、みんな!!」
「早く何とかしなきゃね!!」
「絶対に助けるぞー!!」
「ジャンさん! もう少しの辛抱だからね!!」
「私達も、今のジャンは放っておかないわっ!!」
「ライラの守りは私が務める! 皆さんはジャンを止めて下され!」
娘のライラの側に駆け寄ったユバール族の守り手であり父でもあるダーツに彼女の護衛を任せながら、アレン達はジャンの救出に動き出したのだった。