エデンの来訪者   作:火取閃光

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第42話

 モンスター化したジャンとの戦いの火蓋が切られた。最初に動き出したのはジャンの方だった。

 

 その目からは僅かにあった理性すら飲み込まれてしまったのか、通常のモンスターの様に雄叫びを上げながら鋭い爪を振り翳した。

 

 それを受け止めたのは鉄の盾を持つアルスだったが、その表情は苦しそうに表情を歪めた。

 

 数日前から襲撃して来たモンスター達と比べても明らかに数段上のパワーとスピードだった。

 

 人間だった時のジャンは吟遊詩人としてある程度は戦闘が可能だったが、それでも前衛を務めるなんて以ての外な程度の実力だった。

 

 少なくともこの辺りのモンスター達と殴り合う事は出来ない程度のパワーしかない筈だったが、今はアルスでさえ受け止めるのに苦労する程のパワーを有していたのだった。

 

 その光景を見てアレン達も表情が歪んだ。ジャンを止める為には手加減が出来ずある程度ダメージを与えなくてはならないと悟ったからだ。

 

 この戦闘はジャンの救出がメインであるが、救出する為に彼を傷付けては本末転倒である。

 

 更に言えばこの場所は神の祭壇となっており、不用意に戦闘で破損してしまわないよう慎重に進める必要があるとなれば、接近戦かつ速攻で打ち倒す必要が出て来たのだった。

 

「ジャンさんっ……! 頼む、目を覚ましてくれっ……!!」

 

「ジャンさん、頑張ってっ……!!」

 

 応援する声とは裏腹にジャンの肉体へと減り込む攻撃にアレン達の心は痛かった。

 

 ユバール族秘伝の退魔の踊りを行うライラのお陰もあって、少しずつではあるが理性を取り戻しつつあるジャン。

 

 しかし、戦う相手や場所をなるべく傷付けずに打倒すると言う状況は想像以上に難しく、キーファやアレン、アルスやガボ達の体には細かい傷が次第に増えていった。

 

 そして、遂にモンスター化したジャンは大きく体を退け反らせる事に成功する。

 

 彼の体からは黒い光は少しずつ抜けて行って、次第に元の人間の姿へと戻して行ったのだった。

 

「ハァー、ハァー。体が、動く……。天罰は、去ったのか……?」

 

 モンスター化したジャンをかなり攻撃したが、その割には元に戻った彼は傷が少なかった。

 

 だけど、それでもかなり痛めた体を激しく震わせ、息を荒くしているだけで無事なのが分かるとキーファは安堵から膝が崩れ落ちた。

 

「……キーファ!? 酷い怪我っ……! 痛むわよね……?」

 

「大丈夫、大丈夫。これくらい、慣れっこさ。傷が多いけど、どれも大した傷じゃないから。そうだろ、アレン?」

 

「あぁ、勿論さ」

 

「戦い難かったけど何とかなったね……」

 

「でも、オイラ疲れたぞー!!」

 

「ちょっと、アンタ達……。傷を癒すから、こっち来なさい」

 

「ジャンを助けてくれてありがとう、みんな!」

 

「皆さん、お疲れ様でした。ジャン、気分はどうだ? ジャン……?」

 

 ジャンの救出が成功して和気藹々の空気になっていたが、ダーツが彼に近付くとジャンは自身への怒りに震える声を上げた。

 

「……俺の、所為だ。全て、俺のっ……!!」

 

「違うのよ、ジャン! 私だって……」

 

「違う、違うんだ! ライラ!! 俺は、俺の為だけに無理を言って儀式をやろうとしたんだ!!

 

 君の心が、最初から俺に向いていない事が分かっていたから……。一族の宿命を果たせば、もしかしたら君に愛して貰えるかもと思って……」

 

「ジャン……。私は自分の気持ちを偽って宿命から逃れられないと諦める事で、自分の心を守ろうとしていた……。

 

 ごめんなさい、ジャン……。貴方をそこまで追い込んでしまって……。それでも、私は貴方の気持ちに応えられないわ。本当に、ごめんなさい……」

 

「……ライラ、ごめんな。本当に、ごめん、な……」

 

 ライラの想いを聞いたジャンはその言葉を噛み締める様に涙を流すと崩れ落ちる様に地面へと倒れ込んだ。

 

 やはりモンスター化していた時のダメージに加えて、解除後に受けた精神的なショックも相まって限界を迎えた様だった。こうして、神の復活を願うユバール族の儀式は終わったのだった。

 

 アレン達はダーツと共に洞窟へと足を運び、湖の水で神の祭壇を再度封じる為に大地の鈴を奥の祭壇から取り外した。

 

 儀式で使われた大地のトゥーラと清き衣は族長の手に預けられ大切に保管した後、ユバールの民達と共に5日掛けて旅をし休息地へと戻ったのだった。

 

 その間もモンスター化から解除されたジャンは、様々なショックと後遺症から肉体と精神に強い負担が掛かり酷い高熱で目を覚ます事はなかった。

 

 その間、彼には悪いが他のユバール族は儀式に関する事で自分達を守ってくれたアレン達へ細やかながら宴を行ったのだった。

 

 そして、夜更けとなった。

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