エデンの来訪者   作:火取閃光

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第44話

 ジャンがユバール族の休息地から見えなくなる程の時間が過ぎた。辛く悲しい別れに少しだけ胸を痛めるアレンにキーファは意を決した様に声を掛けた。

 

「アレン、悪い……。少し、話がしたい」

 

「……あぁ、分かった。場所を変えようか」

 

「助かる……。それとアルス、聞いていたんだろ?」

 

「っ!? う、うん……。ごめん……」

 

「いいや、構わないさ……。俺達が気が付いたんだ。疲労困憊で寝ているマリベルや宴で腹一杯に食べて爆睡しているガボは兎も角として、お前が気が付かない訳がないさ。だから、気にすんな」

 

「うん……。ありがとう……」

 

 キーファが無理に作った様な笑みを浮かべるとアルスも自分に気遣っての行動だと悟り深くは追求しなかった。

 

 マリベルが疲労困憊になっていたのは、儀式が始まる前の旅の途中からずっとユバール族に呪文の伝授をしていたからだ。

 

 ユバール族は少し歪で守り手のダーツや退魔の調べを弾けるジャン、多少自衛が可能なライラと若い男衆が少し戦えるだけだった。

 

 戦力で言えば守り手のダーツに一極集中した構造となっており、今回の様にダーツが倒れてしまうと一気に崩れてしまう感じだった。

 

 だから、マリベルは族長へ提案して今まで守られるだけだった女子供達に呪文を教える事にしたのだった。

 

 これはアレン達と一緒に過去世界のグリンフレークの街人達へ教えた経験を元にやらないよりもマシと言う事で提案した事だった。

 

 この世界の呪文は対応する魔法陣を描き、本人の適正によって使える呪文を契約する事で覚える事が可能となる。

 

 ただ、呪文の契約はあくまでもそのとっかかりを得ただけであり、戦闘で使えるレベルに至る為にはそれ相応の修行が必要だった。

 

 呪文の契約には主に3パターン存在しており、メラやギラなどの攻撃魔法を得意とする魔法使い型、ホイミやスカラなど回復補助魔法を得意とする僧侶型、それら両方を得意とする賢者型に分かれていた。

 

 呪文を初めて契約する大抵の場合は魔法使い型か僧侶型のどちらか一方に適正が寄っており、修練を重ねる毎にもう片方の適正も少し上がっていくモノだった。

 

 だから、マリベルは旅の休憩中にアルス達が周囲を警戒している時に呪文の伝授やその制御方法、修練の仕方など事細かく教えながら戦闘にも参加していたので、その疲労から爆睡していたのだった。

 

「それじゃ、西にある海辺が見える丘まで移動したい。出来ればお前達だけにしか話したくないからさ……」

 

「分かった。ただ、俺達3人が急に居なくなったら騒ぎになるかもしれないから置き手紙だけはしたい」

 

「うん、それが良いね……」

 

「そうだな……」

 

 アレン達は静かに自身の寝床に寝付けが悪いからと言う理由で少し出る旨の置き手紙を残して海が一望出来る丘まで歩みを進めた。

 

「おぉ〜! 海がよく見える。何だか俺達の生まれ育ったエスタード島の景色みたいだとは思わないか?」

 

「いいや、エスタード島の夜景の方がもっと綺麗だ」

 

「あはは! 確かに!」

 

「あぁ、そうだな……。それは確かにそうだな!」

 

 夜の星空に照らされる様に光る海面を眺めながらアレン達は笑った。僅か半月も離れていないのに何だが故郷が懐かしく思えていた。

 

「なぁ、アレンにアルス……。俺さ、ここまでお前達と旅して来て気が付いたら事があるんだ。

 

 俺達の冒険は奪われた世界を取り戻す旅で、その果てには世界を奪った魔王オルゴ・デミーラときっと戦うんじゃ無いかと思っている……」

 

「そう、だな……」

 

「うん……」

 

「そして、その時こそお前達(・・・)には魔王と対峙した神の力ってのが必要になると思うんだ……」

 

「キーファ……」

 

「そう、だね……」

 

「俺さ、結構考えていたんだよ。この世に神を復活させるにはユバール族の力が必要なんだ。

 

 でもさ、そんな大切な役目をユバール族に……ライラさんだけに背負わせるのはおかしいと思うんだ……。

 

 いいや、これは言い訳だな……。俺はその重みをライラさんだけに背負わせたく無い。自分を押し殺して苦しむ彼女の側に立ってライラさんを助けてやりたい」

 

「それって、つまり……」

 

「……」

 

 いつかは来るだろうと思っていた別れの時が来てしまった。覚悟はしていたつもりだった。

 

 記憶喪失になってでも微かに残る異世界転生者としての前世の記憶から、キーファが過去世界に残る選択をする時が来ると分かっていてもアレンの心は引き裂かれた様な痛みを感じていた。

 

「あぁ、そうだ。俺はライラさんが好きだ。心から愛している。ジャンさんに言われて、自分の本当の気持ちに気がついてしまった……」

 

「……」

 

「リーサちゃん達は良いのか……?」

 

「……いいや、きっと泣かせてしまうと思う。だけど、それでも、俺はっ……!!」

 

「……分かったよ」

 

 きっとキーファも心を痛めている。誰もが傷つかない選択はあるのかもしれない。

 

 しかし、それでも彼はこの選択を手に取ったのだと理解してアレンは断腸の思いでその気持ちを尊重した。

 

 だけど、その時にアレンの胸ぐらをアルスが掴み込み怒鳴り込む勢いで説得を試みた。

 

「っ!? アレン!? 本当に、良いのっ!? 僕は、僕はっ……! キーファとずっと一緒に居たい! それはアレンも同じでしょ!!」

 

「……アルス。確かにお前の言う通りだよ……。俺も出来るならずっと一緒に居たいと思っている」

 

「それなら、どうしてっ……!?」

 

「だからこそ、だ! 親友(キーファ)だって、気持ちは同じだっ……! だから、俺は、おれ、は……! 

 

 キーファの気持ちを尊重したい! その選択が間違いでは無いって、おめでとうって祝福したいんだ……!!」

 

 心が張り裂けそうな気持ちを理解しているからこそ、アレンはキーファの選択や決意を祝福したかったのだった。ずっと兄弟の様に思っていた親友の気持ちを尊重したかったからだ。

 

「……アレン、ありがとうな。それにアルスも、ありがとうな。お前達に打ち明けられて良かったと思うぜ。

 

 明日、族長とダーツさんに守り手の打診をしてみる。今日はこんな夜遅くまで本当にありがとうな。それじゃ、帰るとするか」

 

 気持ちを切り替えて少しだけ晴れやかな表情のキーファを追う様にしてアレン達はユバール族の休息地へと帰って行ったのだった。




ようやくダイの大冒険らしい設定が書けた……。
本当は初期から大地斬とか使おうと思ったけど、なんかしっくり来ないと思って書けなかったので、タグを外そうかと思いましたが何とかなりました
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