エデンの来訪者   作:火取閃光

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第54話

 この世界に於ける死者の魂は直ぐに成仏して天上世界へ向かうと言うわけでは無い。

 

 蘇生(ザオ)系呪文がある様に死んでから1週間近くは肉体に縛られる形で現世に漂い続ける。それは病死や老衰だったとしても同じだと考えられている。

 

 アレンの様な所謂僧侶と言う職業に付いている者達はその魂を現世に留まる要因となっている肉体から解き放つ事で、現世に留まり続ける事による肉体と魂のモンスター化を阻止する役割があったのだった。

 

 砂漠の先代族長ザラシュトロはまだ死んでから1週間は経っていないし、村にいた神官の老人と共に彼の魂を肉体から解き放った。

 

 そして、本来なら成仏する筈だった先代族長には1つだけ未練があった。それがティラノスの復活であり、大地の精霊の御業によって一時的な生き返しを果たしたのだった。

 

 ハディートの問い掛けに答えたティラノスを見て、ザラシュトロの妻だった女性が涙を流しながら彼の頭を抱きしめた。

 

 彼女からしても最愛の夫と別の姿とは言えまた会えた事に嬉しくて涙が止められずにいて、ティラノスもそんな妻の涙を優しく舐めとったのだった。

 

「……っ!! 神よ! 大地の精霊よ!! 俺は今回、初めて貴方達に感謝を捧げる!! 

 

 また道半ばに死した父にまた会えた事を! そして、この奇跡を運んでくれたアレン達と出会えた事を!

 

 我が偉大なる父ザラシュトロであり古の聖竜ティラノスよ! 俺達を魔王像の元まで連れて行ってくれ!!」

 

 奇跡を前に感動を隠せないハディートはティラノスに向けて声を上げると彼もまた頼もしそうに声を上げて背を向けた。

 

 そして、ハディートを含むアレン達はティラノスに乗り込み魔王像にいる砂漠の民達の救出とモンスターの親玉を倒しに向かったのだった。

 

 激流とも呼べるナイラをティラノスの背に乗って進み、アレン達は魔王像がある陸地まで到着した。

 

 しかし、案の定と言うべきかこの土地の穢れた空気は砂漠とは比較にならない程で、精霊の紋章を持つアレンとアルスだけでは無くマリベル達も自然と表情を強張らせた。

 

 また、精霊の奇跡によって一時的な復活をしたティラノスはこの穢れた土地には上陸する事は出来ないらしく、この場で待ってもらう事にして彼等は魔王像へ突入した。

 

 やはりこの地域は砂漠と比べてもモンスターの強さが桁違いに強くなっていた。

 

 大賢者ベゼルの元で修行した聖戦士達ならいざ知らず、多少武具を強化したハディートには少しキツそうだったがなんとか到着する。

 

 魔王像の出入り口と思われる場所には、砂漠の女王フェデルに使えていた巫女の1人が傷だらけで倒れていた。

 

 マリベルが回復呪文(ベホイミ)を掛けながらハディートは彼女を介抱しつつ何があったのかと事情を聞く。

 

 意識を取り戻した巫女は何故、ハディート達がここにいるのか疑問に思いつつも微かな希望を持って答えた。

 

 魔王像の建造はほとんど終わりに近付き、巫女である自分を含めて強制労働を強いられた民達も祈りを捧げられている状況だった。

 

 自分達が魔王像へ祈りを捧げなければ女王フェデルが死んでしまう。しかし、祈りを捧げる度にモンスター達が強化されるので、女王の指示で何とか完成を遅らせる様に民達へ伝えに行く途中に襲われたそうだ。

 

 巫女が話し終えたその時、決意を固めたハディートが先走って魔王像へと走った。

 

 アルスの静止を促す声も届かず魔王像内部を駆ける彼をマリベルが呆れていると空から巫女を追って来たキメラの群れがアレン達を襲った。

 

 どうやら魔王像による強化は外にいるモンスター達とは比べ物にならない程らしく、キメラにしては大分強かったがそれでもアレン達の敵ではなかった。

 

「グッ、グオォォォ……!?」

 

「ナ、何者ダ、貴様ラ……!?」

 

 驚愕したまま消滅するキメラの群れに目を丸くして驚く巫女にアレンは、ここにいるモンスターの討滅と魔王像の阻止をする目的を伝えた。

 

 巫女は誰もどうする事が出来なかったモンスター達を倒したアレン達を見てそれが真実だと悟ったのか、彼等の真意を汲み取り他の民達へ祈りを止める様に向かってくれたのだった。

 

 魔王像に入ったアレン達はハディートを探すついでにモンスター達を討滅しながら探索を進めた。

 

 やはりと言うべきか先程のキメラ同様に祈りによる強化が入っている所為か若干手強かったが、その分こちらを侮ってくれたので魔力を温存する事が出来たのだった。

 

 アレン達は魔王像の探索を進めつつ上へと向かう。すると先走ったハディートが誰かと話している声が聞こえたのだった。

 

「そ、そんな……!? それでは、私が今までやって来た事は、無駄だったのですか……!? 

 

 もう、疲れました……。民の命さえ助かれば、いつの日か砂漠から魔物達を退けられると……。

 

 卑しい魔物達に媚び諂う毎日……。それでも、と思っていましたが、何の意味も無かったのですね……。

 

 大地の精霊に仕える私は自ら命を断つ事は叶いませぬ。若き砂漠の民よ、この身を哀れと思わばどうか一思いに……!」

 

「……砂漠を闇に包み込んでいる魔物の宝石はこの上にあるのだろう?」

 

「っ!? そんな怪我で、一体何処に行くつもりですか……!?」

 

「まだ村やこの像の中には女王を信じている砂漠の民達がいる。さっきの話は誰にも言わん。安心しろ。

 

 女王が自分達を見捨てて1人死のうとした事はな……。それに俺も数日前までは女王と似た様な心境だったからな」

 

 吐き捨てた様にして走り出すハディートを女王は止められず、その傷だらけでも力強くい背中をただ見つめていた。

 

 そして、溢れ返った感情を吐き出した女王に少し間を開けたアレン達は落ち着いた頃合いにフェデルと話して目的を伝えた。

 

 大地の精霊に仕えている巫女としての潜在能力の高さ故に、アレンとアルスが紋章を持つ聖人である事に気が付いた彼女は覚悟を決めた様に表情を引き締めた。

 

 彼女の年齢はキーファと同い年くらいだったが、今のフェデルは女王としての風格や貫禄を身に纏っていた。

 

 そして、魔王像内部に居る他の巫女達を集めて自分達も抗うと言った彼女と別れたアレン達はハディートが居る上の階へと向かったのだった。

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