ユバール族のエスタード島移住が決定した事を祝ってビバ=グレイプの果汁酒が進んでいく。
族長達だけではなくユバール族の守り手達は自分達よりも年若いアレン達の冒険について質問して、それに答えていると自然と肩を組む位には仲良くなっていた。
しかし、この中で1人浮かない顔をしている者がいた。それは大地の精霊の紋章を持ち今代の踊り手となったアイラである。
彼女は本来なら宴の前に族長達を説得してアレン達の旅に同行しながら、神の復活に必要不可欠な大地のトゥーラの弾き手を探したかった。
だけど、族長達からアレン達の旅は世界を救う旅であり弾き手を探す旅では無いと一蹴されて、彼女自身も焦っていたとは言え自分勝手が過ぎたと族長の正論に落ち込んでいたのだった。
大地のトゥーラの弾き手を探すのはアレン達の旅路が終わってからも遅く無いと言う族長達の言い分は正しいと思った。
それでも、彼女は今出来る事を全力でやってあの時やっておけば良かった等と後悔しない様にしたいが、現状どうすれば良いのか分からなくて悶々とした気持ちで一杯だった。
丁度そんな時だった。アイラの表情を見てバーンズ王に怒鳴られた時のキーファと重なって見えて、何と無く気持ちを察したアレンがユバール族の民達へ話し始めたのだった。
「そう言えばアイラさんは踊り手の割には格好や風格が戦士のそれだと思うのですが……?」
「あぁ、そうだな!」
「アイラはお転婆だから踊り手でありながら、私達と同じ守り手でもあるんだ!」
「まぁ、尤も剣の腕じゃ俺達中じゃ誰よりも強いから守り手の立場としては少し困るけどな!」
「なるほど……。それは凄いですね」
「あぁ! アイラはユバール族が誇る最強の戦士であり最高の踊り手なんだ!!」
「ふむ……。それに加えて大地の精霊の紋章を持つなら是非俺達の旅路に加わって欲しい所ですね」
アレンの何気ない会話に談笑していたユバール族の民達は一瞬にして静まり返って、族長は彼の発言の意図は何か質問したのだった。
「アレン殿、それはどう言う意味ですかな?」
「言葉通りです。俺達の旅路はとても危険です。普通の踊り手だけではなく神の復活に必要な踊り手なら尚更連れて行こうとは思いません。
しかし、大地の精霊の紋章を生まれながらに持ち、自身で戦える術を持っているなら話は違います。
先程、海の見える丘でアイラさんと話した時に聞きました。彼女の踊りと釣り合う大地のトゥーラの弾き手が居ないと……」
「確かに、その通りですな……。我々も過去に伝説の弾き手の血筋を探して来ましたが、結局見つける事は叶いませんでした……」
「そうですね……。それについて貴方達の苦労をどうこう言うつもりはありません。
しかし、それがもしもアイラさんが俺達の旅路に同行する事で見つかる可能性が高いとなればどうですか?」
ユバール族達が必死に探した結果、大地のトゥーラの弾き手だったジャンやその血筋が今まで見つからなかった。その事実は変えられない。
しかし、アレン達とアイラがこれから一緒に旅をする事で過去が影響された結果、自ずと見つかるのでは無いかと言う指摘に族長達は目を丸くして驚きを隠せなかった。
「まさかっ……!?」
「正直言えば大地のトゥーラの弾き手が居ない事は俺達としても予想外でありました。
しかし、同時に神の祭壇が眠る湖があった場所が復活していない理由が何なのか分かった様な気がしました。
運命と言う言葉で片付けて良い話ではありませんが、大地の精霊の紋章を持つアイラさんと一緒に旅をする中で、トゥーラの弾き手や神の祭壇が見つかるのでは無いかと思いました」
「それは……」
「いや、しかし……」
「ただ、これはあくまでも俺個人の考えであり、根拠とかは無い直感なので本当は別の要因があるのかも知れません。
もしかしたら俺が持つ風の紋章やアルスが持つ水の紋章が、彼女の大地の紋章と惹かれ合っただけの可能性もあると思います。
しかし、ただの偶然や気の所為だと簡単に片付けるには、あまりにも彼女との出会いは必然だったと思えて仕方ないのです」
「た、確かに……」
「そう言われると……」
「出会うべくして、出会った様に思えるな……」
アレンの言葉を聞いた族長達も妙な納得感があり、逆にアイラの加入を止める理由がグラグラと揺らいでいた。
そして、アレンはマリベルやアルス、ガボ達と視線を合わせると彼女達もアレンと似た結論に至っていたのかアイラの加入に賛同する様に頷いたのだった。
「アイラさん」
「っ!? は、はいっ!」
「無理に、とは言いません。俺達の旅路はとても危険極まりないモノです。それこそ、絶対に守るなんて言えないくらいには危ないです。
それでも、俺達は貴女に仲間になって一緒に旅をして欲しいと思っています。だから、貴女の考えを聞かせて下さい。
仮に断ったとしてもユバール族の移住の件について話を反故にするとかはしないです。アイラさんの気持ちや意思を聞きたいです」
アレンの優しくも少し怖いと思える視線を浴びたアイラだったが、千載一遇のチャンスが舞い降りた事で自身の気持ちを全て吐き出したのだった。
「……っ!! 私はっ……! 私も、貴方達の旅に同行して大地のトゥーラの弾き手を探したい!
私も貴方達と出会った事がただの偶然には思えなかったわ! それこそ何か運命の様な物を感じた!
それに私自身が持つ大地の紋章や磨いて来た技の数々は、神の復活と世界を救う為あったのでは無いかと思ったわ」
アイラの熱意と本心を受け取ったアレンは笑みを溢しつつも回答は控えて族長に視線を向けた。
族長は彼女の考えを聞いてしばらくの間、瞼を閉じて考え込んだ後にアイラへ視線を向けた。
その表情はアイラに対する慈愛と誇らしい気持ちで一杯で、祖父が孫娘に向ける様な優しい表情だった。
「……あい、分かった。アイラよ、お主の好きにしなさい」
「族長様っ……!?」
「だが、絶対に死なずに無事に帰って来なさい。お主が帰る場所くらいは我々が守ってみせるのだからな」
「っ!? ありがとうございます!!」
族長の言葉を聞いてアイラは小さくガッツポーズを取って喜んだ。アレン達はこの結果を聞いて改めて彼女に体を向けた。
「うん。そう言う訳なのでこれからよろしく、アイラさん」
「アイラで良いわ。1人だけさん付けは疎外感はあるし……」
「それじゃ、俺達の事も呼び捨てで構わない。敬われる事は嬉しいしこそばゆいけど、そう言う扱いはちょっと苦手なんだ……」
「ふふっ。えぇ、分かったわ。これからよろしくね、みんな!!」
恥ずかしさと苦さを合わせた様な笑みを浮かべるアレン達を見たアイラも自然と笑みが溢れた。
同胞の新たな門出と聖戦士の誕生にユバール族はテンションが最高潮に上がり、その日の夜は馬鹿騒ぎをしたのだった。