それに答えて、ギレンは一年戦争の戦争指導の拙劣さの理由と、真の戦争目的を語り出した……。
ほう、今更この私に何の用だ? シャア・アズナブル……いや、お前はキャスバル・ダイクンだったのか。そうか、お互い、この
……なるほど、お前もネオ・ジオンの指導者として地球人を粛清しようとしたか。今更だな。そして失敗したと。お前は失敗しても良いと思っていたのだろう? 分かるとも、私はニュータイプではないが、その程度は読めるよ。
それで、何が聞きたい、このギレン・ザビに?
キシリアだと? あれほど愚か者だとは思っていなかった。それだけだ。私を殺すのは構わん。むしろ、
だが、タイミングが最悪だった。まだ決戦の勝利が確定していない、あの時点で総司令官たる私を殺すなど愚策中の愚策。私を殺すなら連邦軍を完全に殲滅した、その瞬間であるべきだったのだ。その程度のことは分かっているだろうと思ったからこそ「冗談はよせ」と諫めたのだがな。
私は連邦軍を殲滅すると同時に、私の熱狂的なシンパもすり潰そうとしていた。デラーズは有能だが視野が狭い。あの男に似て、親衛隊は皆こり固まった者どもばかりだったからな。決戦兵力として温存していたのは、最後の激戦の中で勝利の決め手とすると同時に、そこで全滅させるつもりだったからだ。
その後の「長期平和」のためには、あのとき侵攻してきていた連邦軍の全軍を文字通りの意味で全滅させる必要があった。それと同時に、我がジオン軍も簡単に再起できないくらいに疲弊させておく必要があった。特に私の「優性人類生存説」を熱心に信奉するような者どもはな。そうでなければ形を変えて戦争が続く。実際にデラーズが口火を切り、ジャミトフ・ハイマンとやらや、ハマーン・カーンや、お前がやったようにな。これからも続くだろうよ。
残るのはキシリアの手勢、それだけになるはずだった。そうすれば、多少思慮の足りないヤツであっても地球圏を独裁支配して私の後始末くらいはできると思っていたのだが、つくづく兄の心を知らぬヤツだ。
「
大量虐殺者は平和な時代の指導者にはなれんよ。他ならぬお前自身とて、そう考えたからこそ、アクシズを地球に落とすと同時に戦死する心積もりだったのだろうが。
お前とて、最終的に望んだことは、私と同じだったのだろう?
そう「人類の永遠の繁栄」と「当面の平和」だ。
地球連邦政府の愚かしい絶対民主主義では、それは望むべくもない。まあ、それはザビ家の独裁であっても同じことだがな。キシリアなら十年程度独裁できれば上等だろうよ。ヤツの腹心マ・クベがその程度の資源は送っていたことではあるしな。そこから先は誰か有能な者が人類を導けばよいのだ。パプテマス・シロッコとか言ったか? あるいはハマーンでもよい。何なら、お前であってもよかったのだぞ、シャア。
だが、そのための環境は整えておかねばならなかった。それが私の成したことだ。私しか成せなかったことだ。
父上では駄目だった。方便で公王制を敷きながら強権発動を
お前も、もう分かっているのだろう? あの戦争指導の拙劣さは、
ただスペースノイドの自治権を獲得するだけなら、戦争など不要。あと十年も待てば、地球無しでコロニー経済圏を確立することは不可能ではなかった。強力な指導者無き地球連邦政府の方から戦争や弾圧などできぬよ。
また、本当にスペースノイドの自立が目的なら、一週間戦争で他のサイドの住民を虐殺したりなぞするはずもない。
ブリティッシュ作戦にしても拙速すぎた。ルウム駐留艦隊や他の連邦残存艦隊を先に叩きつぶしておけば、コロニー減速作業に従事するザクを、即ち熟練パイロットを失うことなど無かった。実際にお前が名を上げたルウム戦役では叩きつぶせたのだ。そちらを先にすれば、もっと我がジオン軍の損耗を減らすことはできた。
そうだ。私は意図的に我が軍を損耗させた。いずれ戦争が膠着状態となり、最初は熱狂していた我がジオン国民すらも戦争を厭うように仕向けるためにな。
私は神ではない。全てを思うとおりにできたわけではない。だが、あの戦争について言えば、あらかたは私の計画通りに進めることができた。最後の最後でキシリアの愚かさを見誤ってしまったのは、所詮は私も人だということだろうよ。そのキシリア自身に最後に言われたように、
負けるつもりなど無かったが、私が中途に斃れキシリアも死んでザビ家が全滅しても、講和によって我が国の独立が成るようにはしておいた。そのための根回しはダルシアにさせておいたのでな。
何より、私が成したかったことは、既にルウムの前に終わっていたのだからな。
そうだ。私は人類の半分を殺したかったのだ……
お前も幼い頃に聞いたことがあるはずだぞ、父上が我ら兄弟やお前たちダイクン兄妹に語ったスペースノイドの歴史を。
「人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、既に半世紀が過ぎていた。地球の周りの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして、死んでいった……」と。
そう「人類が増えすぎた」のだ。地球の生態系では維持し切れないほどに。地球の環境汚染が止まらなかったのは、全人類がスペースコロニーに移民しなかったからか?
スペースコロニーというリサイクル性の高い環境を作ったとはいえ、やはり水や空気は足りなかったのだ。だからこそスペースノイドは「搾取」された。
地球の住民が搾取したのではない。彼らは地球に住んでいたが故に「搾取されなかった」だけなのだ。
その不公平とスペースノイドの不満を見抜きながら、あえて現実から目を背けさせた天才的思想家が居た。そうだ、お前の父親、ジオン・ダイクンだ。彼は「人類が増えすぎた」ことを意図的に無視し、人類すべてが宇宙に上がれば問題は解決するとすり替え、宇宙移民が人類の革新につながると唱えた。
ただの欺瞞だ。息子であるお前は死ぬまで騙され続けていたようだがな。いや、失敗してもよいと思っていたということは、騙され続けた
詰まるところ、彼のやろうとしたことは「スペースノイドのガス抜き」でしかなかった。それが「政治家」ジオン・ダイクンの限界だった。彼は偉大なる思想家ではあったが、国家の指導者としては理想家過ぎた。民衆の不満を「夢と理想」で誤魔化そうとして、誤魔化しきれなくなって死んだ。
我らザビ家はお前の父親を殺してなどおらんよ。彼は自分の唱えた理想に押し潰されて死んだのだ。その理想をかなえろとプレッシャーをかけてくる民衆の圧力に耐えられずに、心も体も病んで、自滅したのだ。
それを見ていた父上は方便として公王制を敷き、強硬路線をとるように
その父上から実権を奪い、独裁制を敷き、実際に戦争ができるところまで持っていたのが私だ。政治家として、人類存続のために必要な手段をとるために。
地球連邦の絶対民主主義では
だからこそ、私は「優性人類生存説」を唱えたのだ。自己正当化の根拠を与えることで、大量虐殺の命令に従う狂信者どもを作り出すために。
彼らは、よく働いた。正気では従えるはずもない毒ガスや核、大規模質量兵器による大虐殺を忠実に実行した。その罪を負うべきは、私だ。このギレン・ザビなのだ。
そして
これで聞きたかったことの答えになったか、シャア?
言っただろう「今更」と。お前は地球にアクシズなど落とす必要も無かったのだ。だがまあ、
ジオンの息子が、ジオニズムを完遂しようとして失敗した。これで地球から全人類を宇宙に上げるという思想は終わる。もう、ここから先の戦争や紛争の大きな原因にはなるまい。
そういう意味では、お前も自分の成すべきことはできたのかもしれんな、シャア……いや、キャスバル・ダイクンよ。
ハーメルンのガンダム二次創作でギレンが再評価されている話をいくつか読んで「負けも視野に入れての戦争指導」については有り得るかなと思ったのですが、一週間戦争からブリティッシュ作戦にかけての大量虐殺については書いている作品が見当たらなかったので、それについてギレンの視点から書いてみたくなりまして、投稿してみました。
ハーメルンでの二次創作は初になりますので、おかしい点などあるかと思いますが、よろしくお願いいたします。