Key,boardman   作:rocket

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双子の妹、後藤ひとり

 人見知りの子供と聞けばどのようなイメージを思い浮かべるだろうか。

 人に話しかけられない子、友達の輪に入れない子、教室に馴染めない子、言い方は違えど共通する境遇は「ひとりぼっち」であることだ。

 普通ならそういう子であっても何らかのきっかけがあれば子供ならではの警戒心の無さでいつの間にか横の繋がりを築いていくものだと思う。少なくとも自分はそうだった。

 

 でも妹は違った。

 

 自己主張ができない、「この指とまれ」に止まれない、他人と接するのを極端に怖がる、度が付くほどの引っ込み思案な女の子、「後藤ひとり」。双子の妹の名前だ。

 

 幼稚園の頃は友達が上げた「この指」に止まれずおろおろと迷っているひとりを僕が手を引いてやってようやく遊びに入れていた。そうしてやらなければ一人黙々とお絵描きをしたり、木の裏でアリやダンゴムシを観察し続けるなど遊ぶというより時間を潰しているというような過ごし方をしてしまう。本人が楽しいならそれでよかったのだが、明らかに寂しがっているのが分かる妹を放ってはおけなかった。そのせいか、幼稚園ではまるで元から一つの生き物だったかのようにずっと僕の後ろにぴったりとくっつくようになった。

 

 小学校に上がると双子の兄弟姉妹にありがちな違うクラス分けになり、兄と離れて過ごすことを理解した時の妹の絶望した顔は未だに記憶に新しい。

 

 進級してもその人見知りは治ることはなく、放課後になると真っ先に僕の教室に来てぴったりと引っ付き、今まで得られなかった何かを補給するかのように離れずそのまま下校していた。それだけで僕が側にいないひとりがどのように過ごしているのかは想像に難くなかった。

 

 普段の学校生活はおろか学校行事でもクラスメイトと行動することはなく、遠足では先生とお弁当を食べ、演劇ではいつも前に出ない木や石の役目だった。

 

 内向的な性格からか普段の思考もどんどんマイナスになり、僕に抱き着きながら

 

「お母さんのおなかにかえりたい…」

 

とまで言った時は子供心ながらも引いた。哀れな妹をそれでも突き放しては駄目だと思い、ひとりがいなくなったら僕が寂しいと伝えたら

 

「ゆうちゃんもいっしょにかえろ…?」

 

とまさかの道連れ心中を提案してきた時はさすがに返答に困った。母さんが「それはちょっとできないかな~。重かったし」と言って事は収まったけど。いや問題そこ?

 

 

 体育も苦手だったため、運動会の徒競走やリレーではチームの足を引っ張ることを極度に恐れ、妹になりすまして代わりに出てやることもしょっちゅうだった。

 

 双子であるため顔は瓜二つなほどよく似ており、初対面の大人からは「見分けがつかない」とよく言われたものだ。僕も妹もそれを理解しており、リレーで先に走った後、人混みに紛れて色の違う鉢巻きを交換し、後順の妹のふりをして順位に影響しない程度に抑えて走った。当時はバレなかったと思っていたが、両親と一部の先生には多分バレてた。だってひとりとんでもなく運動音痴だもん。あれ再現したら間違いなく最下位になるもん。

 

 そんなひとりに両親も危機感を覚えたのか、小学四年生に上がる時には学校に兄妹で同じクラスにするよう懇願し、学校もそれを受け入れた。

 

 それからは卒業するまで授業中以外はひとりは常に僕の側を離れることはなかった。僕は季節の変わり目にはよく体調を崩し、学校を休むことがあったが案の定ひとりも学校に行きたがらず、看病するという名目で決まって一緒に学校を休んだ。

 僕がひとりの面倒を見られるようになったのはいいが、同時にひとりの居場所になってしまったことで自立する機会を見失ってしまったのではないかと思う。

 

 この「ひとりちゃん係」のせいで僕の学校生活に支障が出るのでないかと思われるかもしれないが、実際はそうでもなかった。ひとりの面倒を見ながら僕もそれなりに楽しく過ごしていたのだから

 

 小学5年生の時にテレビで有名なピアニストがピアノを弾いているのを見た。鍵盤から奏でられる音と踊るような指を見て、僕はその美しさの虜になった。

 

 小さい頃に使っていたおもちゃの鍵盤を引っ張り出し、ドラマやアニメで気に入った曲があればそれを聞いたままに弾いて再現するという作業に指が痛くなるまでひたすら没頭した。その耳コピした曲を妹達に聞かせるととても喜んでくれたし、両親もすごいと褒めてくれたのでさらにのめり込みは加速した。

 

 両親がそこまで打ち込むのならと、誕生日にはちゃんとした教本とそれなりに値が張る電子キーボードを買ってもらった。小学校終盤はそのキーボードに指を走らせていた記憶だけでほぼ埋まっていた。

 

 父さんからパソコンを借り、動画サイトで閲覧できるアニメや映画の主題歌、ゲームのサウンドトラック、個人のオリジナル曲、耳コピ音源、VOCALOIDなど、気になった曲は難易度に関係なくなんでも弾いた。

 

 小学生の多感な時期に双子の兄妹が常にべったりで放課後は誰とも遊ばずすぐに帰る様子はクラスメイトには奇異なものに見えていたかもしれない。数少ないながらも仲良くしてくれていた友達はだんだん離れていったが、キーボードを弾ける楽しさに比べればさしたるものではなかった。

 

 

 中学に上がるとさすがにキーボードだけ弾いているなんてことはできなくなり、勉強が難しくなったこともあって弾きたい欲求も自制して交友関係の構築を優先し、それなりに友達を作ることができた。

 

 クラス配置は小学校の時と同じようにはならず、ひとりとは別のクラスになった。哀れな妹は緑色の液体を吐いてぶっ倒れ、入学初日から保健室デビューという良くない目立ち方をしてしまった。それだけが理由じゃないと思うけど、ひとりは中学生になっても相変わらず友達は作れなかった。

 

 僕らは中学になっても他人から見ればほとんど区別がつかないほど似ており、僕の友達がひとりを僕と間違えて声をかけた結果、コミュ症の妹はテンパって目の前で液状に軟化、もしくは爆発四散することが何度かあった。

 

 そんなある意味ロックとも言える生態をしたコミュ症ぼっちのひとりにも、変わろうとする転機はあった。

 

───中学校に入学してからしばらく経った頃だった

夜、いつものように自分の部屋で最近気に入った邦楽をキーボードで耳コピしているところに、ひとりが入ってきた。

 

 父さんが昔使っていたというギターを携えて

 

「ゆ、ゆうちゃん、わたし、ギターやるっ…!」

 

 驚いた。

 

 常に後ろ向き思考で自己主張もしない妹がいきなりそんな宣言をしてきたのだから

 

「…理由を聞いてもいい?」

 

「あっ、さっきテレビで…ギタリストの人が、バンドは陰キャでも輝けるって…だから」

 

「へぇ」

 

「いっぱいチヤホヤ…じゃなくて、えっと、ギターで世界平和にしたくてっ…」

 

「大きい目標だね」

 

 多分前半が目的だろうね。この子コミュ症だけど承認欲求は人一倍大きいし

 

「あ、あと…ゆうちゃんと一緒に演奏したいっ…」

 

「僕と?」

 

「ゆうちゃんのキーボード、すっごくかっこよくて、すっごく綺麗だから…私、ゆうちゃんの音楽が好きで…」

 

「……」

 

「私、ギターもバンドもまだなんにも知らないけど、ちゃんと練習するから…だからっ…!」

「ゆうちゃん、私とバンドを…やや、やってくださいっ…」

 

 ……

 

 また急な話だな。

 

 そのギタリストがどんな気持ちで言ったかは知り得ない。でもひとりをここまで突き動かしたんだ。それは相当ひとりの気持ちを揺さぶる言葉だったんだろう。

 

───あの日一人のピアニストに、僕の心を焦がされたように

 

 

 あの怖がりで臆病なひとりが頑張って前に進もうとしている。

 

 その姿を見て、否定するという選択肢は無かった

 

「いいよ」

 

「! ゆうちゃん…」

 

「陰キャの弾くバンドで世界平和、いいね、面白そうだ」

 

「うんっ…ありがとう…!」

 

 きっかけなんてどうでもいい。僕と双子の妹が自分で決めて選んだんだ。あるかも分からない音楽への道に足を踏み入れた。僕「後藤優一」と妹「後藤ひとり」が「ギターヒーロー」になる物語が、始まった。

 

 

 

 

 

 

「E…A…G…?なんで急に英語?」

 

「ギターのことは僕にも分からないよ…」

 

その道は前途多難ではあったが

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