Key,boardman   作:rocket

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「へー、後藤くんバンド入ったのか。すげーじゃん」

「うん、いろいろと偶然が重なってね」

 

スターリーでのライブステージを終えた次の日の学校、友人たちに昨日の出来事を伝え、事の経緯を話していた。

 

「すごいですね後藤くん!次はいつライブするんですか!?」

「ごめん、それはまだ決まってないから分からないんだ」

「次やる時は絶対チケット買って観に行きますね!グッズあるなら10万までなら出せます!」

「結成したばかりだからグッズも無いんだ。あと気持ちは嬉しいけどお金はもっと大切にして」

「後藤くんのためならお金は惜しみませんよ僕は!なので付き合ってください!」

「ありがとう、そしてすみません付き合うのは無理です」

「ライブハウスでも力がいる時はあるだろ?もし必要なら呼んでくれ!この筋肉はそのためにあるからな!」

「ありがとう、その時は頼らせてもらうね」

 

個性的ながらも気の良い友人達はこれからの活動を応援してくれた。オーチューブで頑張ってくださいというコメントはよく貰うが、こうやって人から直に言葉で伝えられると嬉しさは段違いだ。これから頑張ろうという自信が湧いてくる。

 

「そういやさ、知ってる?5組のほうで1年女子の可愛い子ランキングとか作ってる奴らがいるって」

「え、なにそれ」

 

そういうのあまり好きじゃないな。他人を勝手に格付けて値踏みしてるみたいで

 

「5組ってちょっとチャラい奴が多くてさ、その集まりでやってたらしいんだけど、なんか後藤くんが上位にいる的なことを聞いたんだよ」

「え……どういうこと?」

「いや、俺も5組の友達から又聞きしただけなんだけど、『1組の後藤って子』って言ってたらしい」

 

ウソでしょ?女子限定のランキングじゃないのそれ?1組の後藤って僕しかいないぞ?なんで僕がその話題に上がるんだ?

 

「ちょっと待って、僕男なんだけど、」

「うーん、その通りなんだけど、正直俺はその勘違いしても仕方ないと思うんだよな」

「え?」

「今だから言うけど、俺も入学式の日に隣りの席にいた後藤くんのこと話しかけるまで完全に女子だと思ってたんだわ」

「え……そうだったの?ちゃんと男子の制服も着てたよ?」

「そうなんだけど、それでも疑わなかったわ。『なんで女子が男子の制服着てるんだ?なんか事情があるのか?』って」

 

そうだったのか……あの日話しかけてきて後藤優一ですと自己紹介した時に一瞬目を丸くしていたのはなんだったのかと思ったが、きっとその時に男子だったと理解したんだろうな

 

「後藤くんは可愛いですからね!5組も見る目ありますね!」

 

見る目あったらそもそも男子をそのランキングに入れてないと思うんですが

 

ん?それならひとりはどうなんだ?ひとりは僕と違って正真正銘の女子だ、当然そのランキング対象になる。僕が外見でランクインしているなら似た顔をしているひとりにも何か言及されていてもおかしくない。容姿の格付けとは気分の良いものではないが、少し気になってきた

 

「ちなみに2組の後藤については何か言ってなかった?」

「妹さんのことか?いや、全然聞いてない」

 

なん……だと……いや分からなくもない

 ひとりは贔屓目だとしても顔立ちはかなり可愛いと思うが、長い前髪と普段からずっと俯いているせいで顔はよく見えない。そして家族以外の他人と目を合わせることもないためまともに顔を向き合わせることもかなわない。これでは外から顔立ちを観察しようにも判断できないだろう。その結果話題にも上がらないというわけだ。悲しいことに

 その反面チャラいグループがひとりにちょっかいかけることは無さそうで安心している自分もいる。あのひとりがそんな人種に関わればたちまち爆散してひとりだったものが辺り一面に塗れることになりそうだ

 

「でもさすがにもう後藤くんが男ってことは知られてると思うぞ。入学から結構経ってるし」

「だよね、それならいいんだけど」

「可愛い男子ランキングがあれば後藤くんは間違いなく一位ですよ!」

「うん、褒め言葉として受け取っておくよ」

「マッスル男子ランキングがあれば俺が一位だな!」

「そうだね、それはそう」

 

しかし可愛い女子のランキングとは、なんかアニメや漫画でそんなことをしているシーンがあった気がするが、まさか現実でそんなことを本当にやっていることがあるとは。

 

「いろんな人がいるもんだなぁ……」

 

この友人たちを始め誰かと出会うたびに多様な人間がいると、自分の見聞を広げてくれる。昨日出会った伊地知さんと山田さんもそうだ。そういえば今日は放課後にスターリーで今後の話し合いをしようとお呼ばれされているが、どんな話をすればいいだろうか

 

そんなことをしみじみと考えていると

 

「はじめまして!君が後藤くんね!」

 

突然目の前に赤い髪をした見知らぬ女子が前のめりになって現れた。いや近っ、近い!なにこの距離感!?空間を削りとる能力とかお持ちですか!?

 

「わぁ〜聞いた通りすっごい可愛い!ほんとに女の子みたい!」

 

な、なんだこの陽の気を纏う女子は!?こんな人今まで接したことないぞ!?あとその後ろに見えるキターンって文字なに!?

 眩しい!アカン、これじゃ目が死ぬぅ!普段陰の塊みたいな存在と過ごしてるせいか慣れない陽の光に身を焼かれそう!誰か助けて!

 

「こら喜多、アンタちょっと落ち着け」

「あ痛いっ」

 

僕に迫っていた陽の化身の後ろから緑髪のショートカットの女子が頭にチョップを落とした。

 た、助かった…あのまま陽の気に晒されて続けていたらきっと僕は正常ではいられなかっただろう。ありがとう、緑の人

 

「ごめんごめん、うちら5組のモンなんだ。このアホが暴走しちゃって迷惑かけたね」

「ちょっとさっつー!今の結構痛かったんだけど!?」

「うちは初対面の人に失礼なアホを止めただけだし」

 

この陽の化身と緑の恩人の女子二人の勢いに僕ら男子はポカンとするだけだ。というか今5組と言ったか?さっき丁度そこの話をしていたのだが、もしかしてそれに関係あるのだろうか

 

「あの……何か用ですか?」

 

「あ、ごめんなさい!私は5組の喜多でこっちは佐々木次子っていうの!5組で話題になっててね、1組のほうにすごい可愛い男子がいるって!」

「こうして近くで見るとすごいね。マジで女子にしか見えん」

 

やっぱりか。そして5組に1組の後藤は実は男子という情報は届いているようで安心した。

 

「ねっ、もっとよく見せて?」

 

そう言うと陽の化身……喜多さんは僕の頬を両手で挟んで自分の方に向ける。

ちょ、これ初対面の人にやること!?いくら僕が女顔だからっていきなり異性の顔触る!?距離感バグってるとしか思えないんだけど、これが本当の陽キャなのか!?

 

「かわいい〜!!髪も長いしきれー!!」

 

キターンという謎の音と共に目を輝かせて僕を観察する喜多さん。公衆の面前でそう褒めちぎられるとさすがに恥ずかしい。それに男としてそんな褒め方をされても喜んでいいのかも分からない。我が友ちょっと助けてくれない?

 

一人は…関わると面倒だと言いたげな顔で目を逸らす。ひどい!入学して初めて声掛けてくれて優しい人だと思ったのに!

二人目は…褒めちぎる喜多さんの言葉にうんうん、そうだろうそうだろうと相槌打っている。君は後方の何面なの?

三人目は…僕が見ていることに気づくと腕まくりをして見事な上腕二頭筋を見せつけて満足げに笑っている。その筋肉で今の僕を助ける気はないってことだね、そういうことだよね。

結局喜多さんが満足するまで我慢するしかないってことか。僕のメンタル保つかな。

 

ん……?この人指先の皮が硬いな……ひとりの指みたいだ。この人もギターを弾くのだろうか?

 

「でも勿体無いわね。これで女の子だったら似合いそうな服とかメイクいっぱい思い付くのに」

 

それ前に母さんにも似たようなこと言われたことあるな。ひとりがそういうの嫌がるし僕が女の子だったらいろいろできたのにって。

 

「いるよ、女の後藤」

 

喜多さんにされるがままになっていると、横から佐々木さんが声をかけた。

 

「え?どういうことさっつー」

「双子の妹、いんだよね?」

「え?あ、はい確かにいますが……」

「え……もしかしてこの学校に!?」

「2組にいるって聞いた。ここ来る時にチラッと見たけど、同じ髪色の女子いたから多分それ。ピンクのジャージ着てたから分かりやすいと思うよ」

 

それを聞くと喜多さんはみるみるうちに意気揚々とした顔になって陽のオーラを出し、キターンという文字を背負って駆け足で教室を出て行った。よかった、僕のメンタルが保たなくなる前に解放してくれて。

 喜多さんはどこかへ行ってしまったようだ、佐々木さんの言葉を聞いた喜多さんはおそらくひとりの所に行ったのだろう。そう、ひとりのもとへ……

 

 

ん?

 

おい

 

ちょっと待て!!!!!

 

「ひとり!!!」

 

僕は急いで席を立ち、消えた喜多さんの後を追った。

ヤバい、喜多さんは間違いなくひとりに興味を抱いて見に行ったんだ。

僕でも身を焦がされそうになったあの陽の気を生粋の陰キャのひとりがまともに受けてただで済むはずがない!最悪命にも関わるかもしれない!!

 

どうか無事でいてくれひとり!!

 

 

 

「あ、あら?妹さん?後藤さん?ど、どうしちゃったの?」

 

間に合わなかった

 

ひとりは死んだ。一部は溶け落ち、一部は崩れ、大部分は無へと消え、その全体はもはや人の姿を成していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

な、なんだろう……この落ち着かない気配……いや落ち着かないのはいつものことだけど、壁の向こうになにか自分とは相容れないものがいる気がする……

ゆうちゃんのいる1組から?1組で何をしているんだろう……ゆうちゃんは大丈夫かな、心配だなぁ……

今日は放課後に結束バンドみんなとの話し合いがあるからスターリーに行かなきゃいけないし、あんまり学校でメンタル削ることはしたくないなぁ……

こういう時は腕の中で寝たふりして時間が過ぎるのを待つ、ぼっちの得意技でやり過ごそう。あ、そういえば昨日初めてのあだ名貰ったんだ。ぼっち、ぼっちちゃん……うへへ……

 

「あなたが後藤さんね!!」

 

!?!?!?

 

「後藤くんと双子の兄妹なのよね!すごーい!ほんとにそっくり!!」

 

だ、だれ!?知らない人!?

 

「ぁ……ぅ……っ……!?」

 

だ、ダメだ……学校でゆうちゃん以外の人と喋ることがなかったせいで声が出ない……

 

「髪の色も目の色も同じなのね!さすが双子だわ!」

 

ていうかこの人距離が近い!良い匂い!なによりこの人……

 

陽キャだ!

 

さっきから感じてた気配はこの人の陽のオーラだったんだ!私には明るすぎる!助けてゆうちゃん!私みたいな陰キャにはキツいよぉ!このまま陽の気に照らされ続けたら私どうなっちゃうか分からな

「ねっ、もっとお顔よく見せて?」

 

あっ

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆうちゃんへ

先立つ不出来な妹でごめんなさい

来世でもゆうちゃんと一緒に生まれたいです

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