Key,boardman   作:rocket

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バンドミーティング

 

 

 

「……うぅ…………?」 

 

あれ?ここどこ?私、どうしたんだろう

 

「ひとりっ!」

 

考えが整理できないうちに、私は身体を抱き締められた。ゆうちゃんだ

 

「ゆうちゃん……?」

「ひとり、体は大丈夫?どこも痛くない?」

 

ゆうちゃんの辛そうな声。なにがあったんだっけ

 

そうだ、私、学校で知らない陽キャの人のオーラを浴びすぎて、浄化しちゃったんだ。おそらくあのまま気を失って、今ゆうちゃんに介抱されてるんだろうな。

 

「守れなくてごめんねひとり……頼りないお兄ちゃんでごめん……」

 

ゆうちゃんは何度も謝りながら私を抱き締めている。やっぱりゆうちゃんは優しい。ゆうちゃんはいつも私を心配してくれる。

 でもそんな優しいゆうちゃんをいつまでも不安にさせたくはない。私はゆうちゃんの背中に腕を回して抱き締め返した。

 

「謝らないでゆうちゃん……ゆうちゃんは何も悪くないから……」

「ひとり……」

 

ゆうちゃんの温もりは安心する。私は腕に力を入れてゆうちゃんに密着した。お互いの体温を感じて安心し合えるように。

 

「へへ……ゆうちゃんあったかい……」

「よかった……ひとり……」

 

 

 

「あたし達は一体なにを見せられているの?」

「虹夏、それは野暮ってもの」

「いやこのままじゃバンド活動の話し合いできないんだけど!?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 陽の化身喜多さんの襲来により散りぢりになったひとりをなんとかかき集め、放課後になるとそれを持って下北沢へと足を運んでやってきた。

 ライブハウス「スターリー」、ここへ来るのは二度目だ。ひとりだったものを手に持って店に入った時は何事かと伊地知さんに突っ込まれたが、事情を話しひとりが回復するまでバンドの話し合いは待ってもらった。「ぼっちちゃん本当に人間なの……?」と疑惑の目を向けられたが、すみませんそれは兄である僕ですら断定できないんです。

 

「それじゃ気を取り直して、今後のバンド活動のミーティングやっていくよー!」

 

リーダーである伊地知さんの進行によって結束バンドの活動の取り決めが始まった

 

「これはバンドメンバー同士の親睦会も兼ねてるからね、お互いを知るために積極的にコミュニケーションを取るように!」

「ア゛ッ!! ヴアァァァァァァァ!!!!」

「ちょ、ぼっちちゃんどうしたの!?」

「すみませんひとりには拒否反応を示すワードがあるんです」

「それじゃ話進められないんだけど!?また起きるまで待つの嫌だから今だけでも我慢してよー!」

 

 

 

 

「話を広げるのは私も苦手。だからこういうものを用意した」

 

そう言って山田さんが出したのは、バラエティー番組で使われていそうな『◯◯な話』という文面が書かれたサイコロだった。なるほど、こういう話す内容の指定があれば自分の中で切り出す選択をしなくとも会話を広げられる……その『バンジージャンプ』は何ですか?それが出たらこのビルから飛び降りろとでも言うんですか?

 

「ほいっ、なにっがでーるかな、なにっがでーるかなっ♪ 『学校の話』〜!」

「あっ、そういえば二人とも同じ学校……」

「そう、下高!」

「二人とも下北沢から近いところを選んだ」

「そういえば伊地知さんと山田さんは幼馴染って言ってましたね」

「あっ、呼び方は虹夏とリョウでいいよ!せっかく同じバンドメンバーになったんだからさ、これから仲良くしていきたいし」

「あ、はい。それじゃお言葉に甘えて、虹夏さんリョウさん、改めてよろしくお願いします」

「わ、わわ私もよろしくお願いします……っ」

「ん、よろしく」

「はいよろしくー。この調子で親睦を深めていこう!今度はそっちの学校の話だよ!」

 

「ひとり、僕だけじゃなくてひとりもできるだけ話に入るようにね」

「わ、わかった……」

 

ひとりは僕がいるから話す必要がなければ出来る限り黙っていようとする。一言も発さず全部僕が喋ることになるからこうして促しておかないといけない

 

「僕らは兄妹で秀華高校に通ってます」

「秀華高ってことは二人とも家この辺なの?」

「あっ、いや家は県外で片道2時間です……」

「2時間!?なんで!?」

「高校は誰も過去の自分を知らない所にしたくて……」

「過去になにがあったかは気になるけど聞かないことにするね……ゆうちゃんは?」

「学力や進路での理由は無いです。ただ、ひとりがこうなんでほっとけないから一緒の高校にしました」

「へぇ〜妹想いだねぇ〜」

「ゆう、もしかしてシスコン?」

「ちょっとリョウ!なんてこと言うの!」

「妹を心配することをそう言うのであれば、僕は間違いなくシスコンですね」

「おおう……綺麗にカウンターするとは……」

 

子供の頃から今に至るまでお互いべったりな関係だ。実際そう言ってからかってきた同級生は今までもいたし、今さらそれを否定する気もない。

 

「ゆうは店長と気が合うかもね」

「店長?」

「私のお姉ちゃんだよ。今日は用事で居ないけど、そのうち会えるからその時紹介するね」

 

シスコンで気が合うと言うのなら、虹夏さんのお姉さんは虹夏さん想いのシスコンなのか……スターリーの店長さんに会うのがちょっと楽しみになったな

 

「ゆうちゃんはシスコン……へへ……」

 

嬉しそうなのはいいけどシスコンって決して良い意味じゃないからね。もしひとりがコミュ症じゃなく普通の子だったらこうなっては……いや、それはあまり想像できないな。

 

 

 

 

 

「なにっがでーるかな、『好きな音楽の話』〜。あたしはメロコアとジャパニーズパンクかな?」

 

虹夏さんはハードコアな曲が好きなのか。下北沢のライブハウスのドラマーという肩書きと明るい性格の虹夏さんによく似合っているな。

 

「私はテクノ歌謡とかサウジアラビアのヒットチャートを「絶対嘘!」ほんとだもん」

 

テクノ歌謡か……一応昔のヒット曲も興味あるものはあらかた弾いたが、リョウさんとは何年代の曲まで話が通じるだろうか。そしてサウジアラビアの曲なんて一つも分かりません

 

「僕は強いて言えばピアノバラードが好きですが、基本的に雑食です。動画サイトに上げられてるアニメ、ゲーム、ボカロなんかで気に入った楽曲があればよく耳コピして弾いたりしてます」

「耳コピできるんだ!すごいね!ぼっちちゃんは?」

「あっ、私は青春コンプレックスを刺激しない歌ならなんでも……」

「せ、青春コンプレックスってなに……?」

「夏、海、花火みたいな青春をイメージする歌詩はひとりはあまり好きじゃないんです。」

「だいぶ徹底してるね!?」

「あ、でもゆうちゃんと一緒ならちょっとは平気です……」

「……昨日から思ってたけどぼっちちゃんもゆうちゃんと同じで大概……」

「ブラコン」

 

虹夏さんが言い淀んだ部分をリョウさんがボソッと呟く。ひとりの僕に対する考えはブラコンなんてかわいい言葉で片付けてもいいのだろうか?むしろ依存というほうが合う気がする

 

「でも歌わなければひとりも何でも弾けるんですよ?」

「そうなの?」

「あっはい……ここ数年の売れ筋バンドの曲は全部弾けます……」

「……本当?」

 

疑われるのも仕方ない。昨日のライブの演奏は本当に酷いものだった。あれを見て信じられるというほうが無理な話だろう。

 

「信じられないかもしれませんが、本当です。これでもネットにカバー曲を上げてるんですよ」

「へぇー、意外と積極的に活動してるんだね」

「僕もひとりも演奏は好きですから」

「カバー曲を上げてるといえば気になってる人がいるんだよね」

「どんな人ですか?」

「ギターの演奏がめちゃくちゃ上手い人がいるの、ギターヒーローっていうんだけど」

「!!」

「私ギターヒーローさんが動画上げるの楽しみにしてるんだ。ああいう人と一緒に演奏してみたいよ」

 

驚いた、こんなところにひとりのことを見てくれる人がいたなんて。承認欲求を満たすばかりじゃなく思わぬ収穫があった。頑張って動画を上げ続けていた甲斐があったというものだ

 

「それって……」

 

ひとりのことだと言おうとしたが、やめた。これはひとりの意志で伝えることだと思うし、何よりひとりが茹であがったように赤くなっている。ここで正体を明かしたらひとりの恥ずかしキャパシティがオーバーして蒸発しかねないから黙っていよう。

 

「その人よくキーボードマンっていうキーボーディストとコラボするんだけどね、この人もすごいの!」

 

なんと、キーボードマンのほうも知っていてくれていたとは。なるほど、ひとりの気持ちが理解できた。これは確かに恥ずかしくなる。

 

「曲もそうなんだけど、指の動きがすごくて、見てて気持ち良いの!夢中になって見ちゃうくらいに!」

 

そこまで見てくれているとは、嬉しいけど顔が熱くなる。兄妹で赤い顔になって不審に思われなければ良いが

 

「二人の関係性は色々言われてるんだけどね。実は姉妹とか、どこかに所属してるバンドメンバーとか」

 

うん、どっちも間違ってはいないよね。性別は非公開で顔は映してないけど長い髪は女だと思うだろうし、僕とひとりは二人でバンド組んでたし

 

「でもどっちも名前は痛いって言ってたよね」

「こらリョウ!余計なこと言わなくていいの!」

 

あ、やっぱりそう思われてるのか。でも自分でもダサいと思ってた時期はあったし仕方ないか。今は気に入ってるからいいけど。

 

「イ、イタインダ……ソウナンダ……」

 

大丈夫だからねひとり。僕は好きだしギターヒーローのファンもきっとその名前を良いと思ってくれてるから

 

 

 

「ねね、サイコロ振るのもいいんだけどさ、二人のこともっと知りたいな!」

「僕らのこと、ですか?」

「うん、男女の双子でこんなにそっくりな兄妹見たことないからさ!ゆうちゃんは髪も長いから初めて見た時は完全に姉妹だと思っちゃった」

「あっ、か、髪留めもお揃いなんです…ね?」

「ええ、ほら」

 

僕は纏めている後ろ髪を前の二人に見せるために横顔にし身体を傾ける。ひとりが僕の髪を前に出し自分のと同じものだと分かるように髪留めを手に乗せて見せた

 

「わあーほんとだ!それじゃあさ、あれできる?漫画とかでよくある双子キャラが鏡写しで反対に髪を留めてるみたいな!」

「ええ、いいですよ」

 

前髪を留めたヘアピンを取り、髪留めを外して後ろ髪を解く。ひとりが頭の右側に付けているものと同じ青と黄色のキューブが付いたヘアゴムを、ひとりとは逆の左側にアップして結びつけた。これでおそらくひとりと鏡写しの全く同じ容姿になっているはずだ

 

「すごーい!ほんとに漫画の双子姉妹みたい!写真撮っていい?」

「いいですよ、ひとり、顔寄せて」

「ほあっ!?……あ、あぇ……」

「ぼっちちゃん笑い方ぎごちないよー」

「……」

 

虹夏さんが僕らにスマホを向けて撮影する傍ら、リョウさんが僕らを見てなにか考えに耽っている。一体どうしたんだろう

 

「……これは使える」

「え?どうしたのリョウ」

「ゆう、今後スターリーにいる間はその髪型でいてほしい」

「え?なんで?」

「実は女子ばかりのバンドに男子が一人混じるのはファンができた時に厄介ごとの種になると思ってた」

 

そこは僕も考えなかったわけではない。今後バンド活動を続けていくのならファン獲得も目標の一つとなる。たとえ結束バンドの曲を気に入ってくれても、中にはいるはずだ。ガールズバンドに男が一人いることを気に入らない人間が

 

「そのことならもう決めたじゃん!ゆうちゃんが男子でも結束バンドに入ってもらおうって!」

「分かってる。明らかに男と分かる見た目なら私もちょっとは悩むところだった。でもゆうは違う、見た目は完全に女子。それに今みたいにぼっちと同じ髪型にしていればぼっちと姉妹にしか見えない。見た目だけなら絶対にバレることはない」

 

リョウさんは自分の考えを淡々と語る。この人意外と段階を踏む説明するな。そんなこと考えたら失礼だろうか

 

「だから今後結束バンドはあえてガールズバンドとは名乗らない、メンバーも性別非公開にして活動していこう」

「それは根本的な解決にはならないんじゃないですか?僕が男であることは事実ですし、隠していてもいつか必ずバレます」

「ゆうが男だと知られても許容されるくらい結束バンドが力を付ければいい。この程度で失望するならその程度のファンだったってこと」

「裏切られたと思われるかもしれないですよ?」

「私達はゆうが女の子だと言ったことはない、ファンが勝手にそう思っただけ。いいね?」

「アッハイ」

 

なぜかひとりが反射的に応える。コミュ症には同意を求められた時は肯定しかできないという性質がある。もっともひとりに否定を論じろと言うのは厳しい話ではあるのだが

 

「いや乗せられないから!そんなのファンの人たちを騙すようなもんじゃん!」

「イギー・ポップやオジー・オズボーンも女装してステージに立ったことがある。男が女のふりして演奏するのもロック。だから問題ない」

「ロック……う〜〜ん……ロック……なら、大丈夫、なのかなぁ……?」

 

それで丸め込まれる虹夏さんチョロくない?

昨日も思ったけどロックと言えばなんでも許されると思ってませんか?そのロックへの信頼性は一体どこから来るの?

 

「それにこれだけそっくりな双子なら結束バンドの良い看板になる。違う髪型にするよりはお揃いのほうが分かりやすいし、アー写なんかでもそっちのほうが映えると思う」

「で、でもゆうちゃんの気持ちはどうなるの?そこは無視しちゃいけないよ!ゆうちゃんも性別を隠して活動するなんて窮屈だと思うし……」

「あ、別にいいですよ。それでも」

「いいんだ!?そこはもうちょっと悩みなよ!?」

 

女子として扮することに抵抗はないし、もともとひとりに近付けるために伸ばした髪だ。ひとりと双子であることを示すために使うのならむしろ本望といってもいい。前髪が少し邪魔なのが気がかりだが

 

 

 

「よしっ!活動方針も決まったところで演奏のついてのミーティングをやっていこう!」

 

親睦会もそこそこに場が温まったところで虹夏さんが切り出した。ここからいよいよメインテーマである演奏の打ち合わせだ。

 

「前はインストバンドだったけど本当はボーカル入れたいんだよね。本当は逃げたギターの子が歌うはずだったんだけど……」

 

そういえば昨日は虹夏さんとは辞めたギターの代役を探していたところを出会ったんだ。

 

「あたしは歌下手だし、ぼっちちゃん歌は……だよねぇ……」

 

ノータイムで首を振るひとり。人前での演奏に苦手意識があるうちはまだ早いかな。押し入れ内で僕とデュエットすることくらいはできるが、それでもソロで歌うのは嫌がる。

 

「リョウさんはどうなんですか?」

「フロントマンまでしたら私のワンマンになってバンドを潰してしまう……」

「その湧き出る自信は何?」

 

その自信ひとりにも分けてくれたらなぁ。ステージを自分のワンマンライブにしてやるくらいの気概があれば緊張も少しは解れるだろうに

 

「あっ、で、でもゆうちゃんはボーカルできます」

「本当!?じゃあボーカルはゆうちゃんに」

「待ってください」

 

話を進めようとする虹夏さんを制止する。

ダメだ、その案には致命的な欠陥がある。虹夏さんには悪いがその意見は通すわけにはいかない

 

「虹夏さん、僕の声をどう思いますか?」

「え?うーん、女の子でもありそうな声だと思うけど普通に男の子の……あっ」

「そうです。僕、声変わりしてるんです」

 

「さっき僕は男と公表せずに活動していくと決めましたよね。演奏だけして見てくれは誤魔化せても声だけはどうにもできません」

 

ボーカルは観客が評価する最も分かりやすい指標で、バンドの質そのものとも見られる最重要ポジションだ。見た目だけならガールズバンドとして活動しているグループでバンドの命とも言えるボーカルの声質が男のものへと変わっていくのは死活問題となる。

 

「僕が同年代と比べて声が高めなのは自覚してますが、それでも声変わりは来ると思いますし、あと一年も経てばどうなっているか分かりません」

 

今はまだ女性にも負けない高音は出せるつもりだ。でもいつかはできなくなる。たとえば今後結束バンドが一年活動したとしても新規結成したバンドがたった一年で得られる成果は決して多くはないだろう。そんな期間でボーカルが声変わりなどすればさっき取り決めたことは必ず破綻する。

 

「意識したとしても必ずボロは出ますしお客さんも違和感を覚えるはずです。そうなれば僕が男だということはすぐにバレます」

「そっかぁー…じゃあボーカルは新しく探すしかないかなー」

 

これは結束バンドの今後の課題だ。お互いの学校に良い人がいればいいのだが

 

「結束バンドとして新しく曲も作っていこうよ!リョウ作曲できるし、歌詞は……ぼっちちゃんは禁句があるならぼっちちゃんが作詞したらいいんじゃないかな!ゆうちゃんもいるから2人で相談し合えるし!」

「わ、わたしが!?」

「いいんじゃない?ひとり、これもバンドマンになるための経験だよ。行き詰まったら僕も一緒に考えるから」

「……が、がんばりましゅ……」

 

そして結束バンドのミーティングは着々と進み、二人からノルマや店との売上金の分け前などライブハウスでバンドするための仕組みを説明してもらい、メンバーで協力した資金繰りが必要であることが分かった。

 

「というわけで、ライブのノルマ代稼ぐためにバイトしよう!」

 

バイトか、高校生になったらいつかやってみたいと思っていたところだ。自分の手でお金を稼ぐ経験は社会に出る時に必ず役に立つ。これは良い機会かもしれない。ひとりも社会を知るために……どうしてかばんを漁っているんだ?なにを探しているんだ?

っておい、その豚は

 

「これはお母さんが私の結婚費用にと貯めてくれてるお金です……これで勘弁してください……っ」

 

なにを考えているんだこのアホ妹は。いくらバイトが嫌だからってそれはここで使っていいお金じゃないだろう。というかなぜそれを持ち歩いているんだ。こういう時のためか?社会からの逃げ道を作るためか?

 ちなみに僕にもそういう貯金が用意されている。流石に持ち歩いたりはせず自宅に大事にしまってあるが

 

「あたし達を鬼にする気!?そんなお金使えないよ!!」

「いいんです……っ!私には無用の長物なので……っ!私は将来ゆうちゃんに養われる予定なので大丈夫ですから……っ!」

「ヒモ!?ぼっちちゃん双子のお兄ちゃんのヒモになるつもりなの!?」

「その歳でヒモ宣言とは、ぼっち、ロッカーとしてなかなか見どころがある」

「ヒモになるのがロッカーの条件みたいに言わないの!確かにそういうイメージあるけど!」

 

ああ……ついにその考えを外で口にしてしまうとは……虹夏さんとリョウさんだから良かったけどそんな事聞いたら普通の人は引く上に僕らの関係をいかがわしく思われるかもしれないから言わないでほしいのに。あとひとりを養う予定なんて今のところ無いから。勝手に決めてくれるな。

 

「ありがたく使わせ「ダメ!返すの!」いたい」

「すみません。ほらひとり、早くしまって」

「あうぅ……」

 

虹夏さんにど突かれたリョウさんから返された豚の貯金箱を受け取り、ひとりに手渡して片付けさせた。ひとりは奥の手が通用せず落胆しているが、お前のしたことは母さんの気持ちを無碍にする行為だからな。危うく母さんを悲しませようとした事として後でしっかりと反省させる必要があるようだ

 

「心配しなくても大丈夫だよ、バイトするのはここスターリーだし、あたしとリョウもちゃんと教えるから!」

「アットホームで和気あいあいとした職場です」

「ゆうちゃん……うぅ……」

 

返す言葉に詰まり僕に縋り付いてくるひとり。家に篭って在宅ワークならともかくライブハウスでバイトとなればおそらく主な業務は接客になる。外で他人と接することは避けられない。コミュ症には考えただけで怖くなるだろう。ひとりが自分で一言断ることができればいいのだが、それができればコミュ症ぼっちなどしていない。

 

仕方ないな。

 

可愛い妹がここまで嫌がっているのだ。ここで助け船を出さないほど鬼ではない。今までひとりを助けるために色々してきた。それを今回もするだけだ。

そして僕は総意として答えを出した

 

「兄妹共々お世話になります」

「!!!?」

「よーし決まりっ!じゃあ近いうちにライブできるようにバイト、頑張ろう!」

 

ええそうです。僕は鬼です。溺れるひとりに助け船を出さず見殺しにしました。ひとりの意に反する答えを出しました。兄失格と罵りたければ好きに言ってください。甘んじて受け入れますから

 

「バイト始めは来週からだからよろしくね!」

「よろしくお願いします」

「あ……あぁぁ……」

 

兄に裏切られ絶望した表情を浮かべるひとり。こんな顔をさせてしまうことには罪悪感を覚えそうだ。ひとりのためとはいえ鬼になるのも楽じゃない

 

 

 

「来週から学校終わったら直行だからね、じゃあ気をつけて帰ってね〜」

 

今後の活躍方針も固まり、今日はそのまま解散となった。帰宅中ひとりは俯いていて表情は見えないが、おそらく膨れっ面をしているだろうことは想像できた。それでも下北沢を歩く時は僕の後ろに引っ付いて離れなかったあたり可愛いものだが

 

電車に乗れば2時間は暇な時間になる。揺れる電車に身を任せて座っていると、不意に隣のひとりが呟いた

 

「……ゆうちゃんのいじわる」

 

まぁ、そうなるよね。ひとりの気持ちを理解した上で勝手にバイトのことを了承したのだ。理不尽な仕打ちを受けたと捉えられても仕方ないだろう

 

「ごめんとは言わないよ。僕は間違ったことしたとは思ってないし」

「……私の考えてること分かってたくせに」

「ひとり、考えてもみてよ。バンドメンバーはみんなライブやるために働いてるのに自分だけ何もしてないなんて、むしろそっちのほうがずっと居心地悪いと思うけど?」

「……でも怖いよ……」

「せっかくバイトするんだからさ、楽しんでいこうよ。ライブハウスでバイトする機会なんてそうそうあるものじゃないだろうし、いろんな人のライブも見られるって虹夏さんも言ってたじゃん」

「私はゆうちゃんみたいに前向きになれないよ……」

「虹夏さんとリョウさんは良い人だからきっと丁寧に教えてくれるよ。それに僕もいる。もし失敗してもちゃんとフォローしてあげられるから」

「本当?一緒にいてくれる?片時も離れずずっと私に付いててくれる?」

「多分それは無理。離れないと仕事できないし」

「……やっぱりやだぁぁぁ………」

 

そう言い残すとひとりは枕を抱くように僕の腕を抱き寄せて顔を伏せてしまった。

初めてのことが不安なのは分かるけど、案ずるより産むが易しというわけで実際やってみれば案外すんなりやれるものだ。ひとりもいろいろ経験するうちにそういうことが分かってくれたらいいんだけど

 

「あ、帰ったら結婚費用使おうとしたことで怒らせてもらうから」

「っっっ!!!?」

 

当たり前だ。使っちゃいけないお金を使おうとしたんだから

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