Key,boardman   作:rocket

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G.T.Rockers ひとり視点

 

 

怖い、恐い、こわい

 

 あと数分もしないうちに、私はステージに立ってギターを弾かなければいけない。なのに、怖くてたまらない。

 あれだけ欲した舞台なのに、あれだけ望んだ夢なのに、人の注目を浴びると思うと、動悸が止まらない、身体が震えて仕方ない

 

「ひとり、ちゃんと深呼吸はしてる?」

「し、してるけど…やややっぱり緊張するよぉ…」

 

 双子の兄である優一お兄ちゃん───ゆうちゃんが心配して声をかけてくる。ゆうちゃんに言われた通り腹式呼吸を繰り返し、緊張が取れるらしい手のツボを痛いくらいに押している。あまり効果は感じられない。出番が近づくにつれて緊張で倒れてしまいそうになる。

 

 いっそ倒れちゃったらこの苦しみから解放されるのかな。

 いやダメだ、それはゆうちゃんだけじゃなくいろんな人に迷惑をかけることになっちゃう!

 

『あの子文化祭でライブやるつもりだったのに倒れて予定に穴空けちゃったんだって〜』

『え〜?なにそれチョー迷惑なんですけどー?』

 

 うわあああああ!ダメだダメだダメだ!大事な文化祭を私みたいな陰キャが台無しにしたら確実に陽キャを敵に回す!

 はっ!そうなったら兄であるゆうちゃんも目の敵にされて…

 

『お前あの女の兄貴なんだってなぁ…』

『男なのにかわいい顔してんじゃねぇか、ちょっと付き合えよ』

 

 ゆうちゃん私と違ってかわいいからそういうことに誘われちゃうかも!?

 アッー!アッー!ダメです!考えただけで脳が破壊されそう!ゆうちゃんは私のなのに!

 

 だ、だったらもっと自然な感じで避ける方法はっ、自然な…自然……自然災害?

 

「大地震とか来て中止にならないかな…」

 

 もしマグニチュード9くらいの大地震が来ればさすがに文化祭どころではなくなるのでは!?地理で東京はプレートがどうとかでいつ大地震が来てもおかしくないって先生が行ってたし、そうなれば金沢八景にも被害は出る!ちょうど今机の下にいるし、対策は万全!すぐにゆうちゃんを引っ張り込めば二人とも助かるはず!

 あ、あとはこないだテレビでやってた映画の巨大竜巻とか。体育館の天井を引き剥がすくらいのやつが来ればさすがに中止───

 

『3年1組の岡田さ』

「危ない!!」

「え、ひゃっ!?」

 

 なになになに!?どうしたのゆうちゃん!?まさか本当に地震が来たの!?それとも竜巻!?

 

 でも床は揺れてないし何も聞こえない。聞こえないのはゆうちゃんが手のひらで耳を塞いでいるからだ。いったいどうしたんだろう。

 

 何が起きたのか戸惑っていると、ゆうちゃんが私の顔を見て、じっと目を合わせてきた。

 やっぱり綺麗だなぁ、ゆうちゃんの目。青くて宝石みたいで。家族や親戚は同じ目をしてるって言うけど、ゆうちゃんのほうが綺麗で、優しい目をしてると思う。

 押し入れの中でセッションしてて目が合うと、何故だか嬉しくなる。その時は決まってゆうちゃんも笑う。それを見るととても、満たされた気分になって

 

 

 

あれ?

 

動悸が、震えが、無くなった。

 

緊張も、していないわけじゃないけど、さっきよりずっと楽になってる。

 

 ゆうちゃんの目の中に、自分が映るのが分かるくらいに見つめ合う。私を見てくれてる。子供の頃から変わらない、優しい目で

 

あ、そっか。

 

安心してるんだ。私。

 

 小さい頃から私を守ってくれてきたように、押し入れの中でセッションしてる時みたいに、ゆうちゃんが見てくれてるから、心が落ち着いてきてる。

 ステージに立つのは怖いけど、ゆうちゃんがいる。ゆうちゃんが一緒にいるなら、怖がる必要なんてなかったんだ。

 なんでさっきはあんなに恐れていたのか分からない。こんなに頼りになるお兄ちゃんがすぐそばにいたのに

 

「…もう大丈夫だよ、ゆうちゃん」

 

いつも通りだ。ゆうちゃんと一緒にギターを弾く。いつもやってることを今日もやるだけ

 

「私、行ける。いつもみたいに、ギター、弾けるよ」

 

そう言うと、ゆうちゃんは満足そうに頷いた。

 

 

 

 

「え、あの、ゆうちゃん?私もう大丈夫だよ…?なんでまだ頭抑えたままなの?ねえ…?」

 

でもゆうちゃんの手に包まれて、ゆうちゃんの体温を感じている間は、落ち着いていられた。

 

 

 

 

 

 

 

 一曲目が終わった。14歳になっても私に成りきれるゆうちゃんの高い歌声は原曲の高音もものともせず会場に響きわたった。ゆうちゃんは「ひとりも頑張れば僕よりうまく歌える」と言ったことがあったが、絶対に無理だ。ギターだけで精一杯なのに、歌までやるとなったらそれこそ頭がキャパオーバーになって爆発四散してしまう。なのにゆうちゃんはキーボードを弾きながら難なくやりこなした

 

「こんにちは、僕らはG.T.Rockersです」

 

そして今はMCまでこなしている。やっぱりゆうちゃんは私なんかよりずっとすごい。

あ、紹介の時間だ。構えておかないと

 

「ギター、妹のひとり!」

 

巻弦の上でピックを滑らせてピックスクラッチで音を出す。歯弾きはゆうちゃんに即座に却下された。せっかく練習したのにな。

 

 

 

 

 

 二曲目を弾き終わる。前の人たちはみんなこっちを見ている。弾いてる時は集中できてたから気にしなかったけど、今気付いたらかなりの注目を集めている。ここに立った時より人も増えている気がする。

 

「あ…」

 

まただ。この嫌な感じ

 

知らない人に見られると、急に不安が襲ってきた。

 

ダメだ、

 

下を向いちゃダメなのに。

 

 昔からそうだ、どうして、どうしてこんなにも、人の目が怖いんだろう。

 せっかくゆうちゃんが元気付けてくれたのに、安心させてくれたのに、ゆうちゃんはすぐ隣にいるのに、少し離れてるだけで、こんなにも不安になる。

 三曲目は私がどうしてもと我儘を言って決めた曲。一番ロックっぽいから、この曲で文化祭を盛り上げたいから、だから一番頑張らなきゃいけないのに、顔を前に向けられない。

 

お願い見ないで。

見られたら怖くなる。

身体が動かなくなる。

やっぱり私みたいな陰キャが文化祭ライブなんて、場違いだったんだ。大人しく妄想だけしていれば、こんな怖い思いをすることなんて───

 

 

 

「ギターヒーロー」

 

 

 

騒がしい会場の声に紛れて、不意に聞こえた小さな声。その声の主を求めて、すぐ顔を聞こえた方に向けた

ゆうちゃんが悪戯好きの子供みたいな笑みを浮かべて、サムズアップしていた。

なにそれ、これから何かやらかそうっていうの?私はいっぱいいっぱいだっていうのに、ゆうちゃんはなんでそんな余裕が…

 

ギターヒーロー?

 

ゆうちゃんは私を、ギターヒーローと呼んだ。

 

『頼むぞギターヒーロー』

『頼りにしてる、キーボードマン』

 

そうだ

なんで忘れてたんだろう。

私、ギターヒーローだった。ライブでバンドして盛り上げて世界を平和にする、ギターヒーローだったのに。

私は一人じゃ怖くてなにもできない

でも、一人じゃなかったら、ゆうちゃんが、キーボードマンが一緒にいるなら

 

私は、何でもできる

 

「キーボードマン」

 

ゆうちゃんに向かってそう言うと、サムズアップを返した。

「やってやろうぜ」と意味を込めて

 

私は前を向いた。いくつもの視線が刺さっても、痛くも痒くもなかった。怖いものなんて、何もなかった。かかってこい、私達はギターヒーローと、キーボードマンだ。

 

 

 

 

 

 

 

終わった、やり切った。

熱い。頭も、身体も、空気も、なにもかも、熱い。私、やったんだ。バンドで文化祭ライブを盛り上げたんだ。やれることは全部やった。持ってるものは全部使った。慣れないことやって、さすがに疲れた。

ゆうちゃんは歓声に応えるように手を振っている。そういうことはゆうちゃんに任せよう。だからもう、休んでいいよね

 

ギターから指を離すと、腕から、肩から、力が抜けていく。上った頭の血も、体温も、興奮も、一気に下がっていく。これが燃え尽きるっていうやつなのかな。初めて体験したかも

 

 

 

 

あれ?

 

みんなこっち見てる。

 

「後藤さんすごかったよー!」

 

え、

 

なにこの注目度

 

わわわ私めちゃくちゃ目立ってる!?

さっきまで強気になって平気だったのに、熱が冷めたら一気に恥ずかしくなってきた!お願い帰ってきて熱と興ふオ゛ウ゛ェ゛ッ゛

や、やばい、無数の視線に晒されて拒絶反応が…!

ゆ、ゆうちゃんたすけて…!

え、何その楽しそうな顔

私にも手を振ろうって言いたいの!?無理無理無理!そんな陽キャ物質と陰キャ反物質が合わさったら対消滅してこの場を消し飛ばすほどの大爆発が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛……」

 

 

 

 

 

 

 

遠いところへ行こう。

ゆうちゃんを連れて。

私達のことを誰も知らないところへ行って、ゆうちゃんに養ってもらいながら、ひっそりと生きていこう。

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