Key,boardman   作:rocket

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ライブハウス「STARRY」

 

 

「いきなりごめんなさい!実はそっちのギター持ってる子…妹さん?にお願いしたいことがあって!」

「ゆ、ゆうちゃん…」

「分かりました。ではご用件を聞かせてもらえますか」

「あたし、バンドでドラムやってて、今日下北沢のライブハウスでライブやるんだけど、ギターの子が突然やめちゃって、ギターできる人を探してるの!」

 

なるほど、合点がいった。そこでギターを持っているひとりを見つけたと

 

「そういうことですか、それで妹に代わりをと」

「お願い!今日だけサポートギターしてくれないかな!?ある程度弾ける人ならすぐできる曲だから!」

 

ライブハウスでライブか。しかも今日とはまた急な。ひとりには荷が重い話だ、簡単に首を縦には振れないだろう

 

「どうする?ひとり」

「え、えっと…む…む…」

「どうか!助けると思って!」

 

いや待てよ

 

これはまたとないチャンスなのでは

 ライブハウスで演奏など重圧のかかる大仕事、当然ひとりは萎縮してしまうだろう

 でも逆に、ここを、ここさえ乗り越えられれば、ひとりにとってそれは大きな経験になるのでは?

 中学の文化祭のこともあり、ひとりは人前で演奏することに苦手意識を持ってしまっている。でもここでうまく立ち回ることができれば、ひとりは自信を取り戻せるかもしれない。ひとりに黒歴史を思い出させるかもと危惧して高校一年の文化祭でライブすることは半ば諦めていたが、もしかしたら

 

それにここまで困っている人を見捨てるのも後味が悪い。

 

「ひとり、この人に協力してあげない?」

「え、ええっ!?」

「大丈夫、僕もついて行く。それに困った時は僕が何とかしてあげられるから」

「……」

「信じて」

 

ひとりはしばらく考え込み、やがて答えを出した

 

「…自信ないけど、ゆうちゃんがそう言うなら、や、やってみます…!」

「本当!?ありがとう!」

 

 ドラムの人は笑顔になって言った。さすがおしゃれの街と言われる下北沢のバンドマンだ。見た目もさながら雰囲気からして明るい印象を受ける。

 

「あ、遅くなったね、あたし下北沢高校2年の伊地知虹夏っていうんだ」

「あ、後藤ひとりです…」

「僕は」

「ゆうちゃんだよね!ひとりちゃんが言ってたから!二人ともすっごい顔似てるね!」

 

うお、もう名前呼びとは。距離の詰め方すごっ

 

「それじゃ早速ライブハウスへゴー!」

 

 

 

 

 下北沢という街には以前から興味はあったものの、こうして実際に足を踏み入れたのは初めてだ。多数のライブハウスや劇場が立ち並ぶサブカルの街とネットで紹介されていただけあって、周囲にはおしゃれで個性的な身なりの人が多い。ひとりのようにギグケースを背負っている人も何人か見かけた。おそらくこの辺りで演奏しているミュージシャンなのだろう。楽器を弾いている身としては歩いているだけでなんだか音楽の街の仲間になった気分になってくる。

 

ギターを持っているひとりは特にそう思わない?

 

「……」

「えーと…ひとりちゃん大丈夫?」

「気にしないでください、街の雰囲気に慣れてないだけなので」

 

仲間入りどころかおしゃれな雰囲気の場違い感に耐えられず僕の背中に隠れて出てこないひとり。伊地知さんも不安な顔で(頼む相手間違えたかな…)とか考えてそう。

 

 

 

 

「ここがあたしの家でもあるライブハウス『スターリー』だよ。最近オープンしたばかりなんだー。うちのお姉ちゃんが経営してるの!」

 

 地下へと続く階段を降り、ライブハウス『STARRY』と看板を掲げた店舗へと足を踏み入れる。

 ここがライブハウスか。実際行ってみたことは無かったが、イメージ通りの雰囲気だ。照明は薄暗く、低い天井で圧迫感がある。ひとりはこの雰囲気に飲まれてないだろうか

 

「うへへ、私の家〜…」

「あたしの家だよ!?」

 

 めっちゃ落ち着いてたわ。この子昔から暗くて狭いところ好きだったし、環境がひとりに合ってるのかも。これなら緊張せずに演奏できる可能性が

 

「こっちの人はPAさんだよ!」

「おはようございます…」

 

 うおっ、この人すごいいっぱいピアス付けてる!口元にも!さすがライブハウスで働いてる人だ、イケイケながらもダークな雰囲気を身に纏っている。このタイプの人はひとりにはキツそうだけど今のひとりにはどうなんだろう

 

「いいいいイキってすみません…」

 

あ、駄目だ。落ち着いてたのにもう萎縮して僕の後ろに隠れた。考えてみればピアス付けてる人との縁自体無かったもんな

 

「虹夏、やっと帰ってきた」

「あ、リョウ」

 

店の奥から一人の女性が出てきた。

 

「代わりのギター見つけてきたから!これでライブできるよ!」

「……」 

 

中性的な美人さんだな…ユニセックスっていうタイプだろうか。リョウと呼ばれた女性は僕とひとりを観察するように交互に見た。

 

「さすが虹夏、まさか分身の術の使い手を見つけてくるとは」

「違うよ!?ちゃんと二人の人間だから!」

「あっ、ど、どうも分身です…本体はこっちですので分身は消えますね…」

「こらこら」

 

僕の後ろに完全に身を潜めて消えようとするひとりを引っ掴んで横に並べる。せめて挨拶する時は前に出しておかなければ

 

「紹介するね!ベースの山田リョウだよ!同じ高校の幼馴染なの!」

「よろしく」

 

山田さんは挨拶をしたがその表情から感情は読み取れない。怒ってるわけじゃないよね?もしかしてなにか粗相をしてしまっただろうか

 

「あ、別に睨んでるわけじゃないからね。リョウは表情が出にくいの。変人って言ったら喜ぶよ」

「嬉しくないし」

 

あ、今のでちょっと嬉しそうなのは分かった。どうやら山田さんも悪い人ではなさそうだ。

 

「リョウ、ひとりちゃんとゆうちゃんだよ!こっちのギター持ってるひとりちゃんにお願いしたんだ!」

「よ、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。僕はギターは弾きませんが付き添いで来ました」

 

「虹夏、店長が勝手に抜け出したから怒ってたよ」

「うそっ!?じゃあ怒られる前にスタジオ入って練習しとこう!ひとりちゃんこっちだよ!」

 

そう言うと伊地知さんと山田さんは奥の部屋に入っていく。僕は演奏しないから邪魔になるだろうし外で待っていよう。それじゃひとり頑張って

 

「……っ……っ……!」

「……すみません僕もついて行っていいですか」

「あーうん、そんな顔されたらね…」

 

捨てられ犬顔&袖ひっぱり、二人の時はいいけどあんまり人前で多用しないでほしいな

 

 

ベースの山田さんとドラムの伊地知さん、そしてギターのひとりで構成された3ピースによるインストバンド。ボーカルがいない分その注目は演奏に集まる。演奏だけならひとりなら大丈夫だ。ずっと近くで見てきた僕なら自信を持って言える。ひとりの演奏技術ならきっと伊地知さんと山田さんをびっくりさせられるぞ。さあその腕前を見せてやれ

 

「……ド下手だ……」

「はぅ!?」

 

oh……なんてこった

 

 いや、傍目から聞いていてもひどすぎる。リズム隊の二人と全然合わずに突っ走るひとりのギターで音が全く協調していない。それどころかひとり本来の実力もほとんど見えずミスだらけだ。これでは伊地知さんの歯に衣着せぬ辛口評価が出ても文句は言えない。僕以外の人とのセッションがこんなにも合わないのは想定外だ。

 

「どうも…プランクトン後藤です……」

「売れないお笑い芸人みたいな人でてきた!?」

 

ああ…想像のはるか下の出来で自分をミジンコ以下の存在に置くほどへこんでしまった。

 

「ひとり大丈夫?」

「ゆうちゃん…私もうダメだ…私なんて魚の餌にも劣る存在なんだ…」

 

 完全に自信喪失してしまっている。無理もない、知らない人といきなり演奏するというだけで緊張するだろうにさらにこの後ステージ上で披露するとなればプレッシャーも相当重くのしかかっているはず。これでは演奏に集中などできないだろう。

 

このままではいけない。困った時に僕がなんとかすると言って引き受けさせたのは僕だ。言葉の責任は取らなくては

 

「すみません、鍵盤楽器ありますか?」

「え?シンセサイザーならあるけど…」

「貸してください、それと楽譜も」

 

スタッフさんにお願いして急遽店に置かれていたシンセサイザーを借り、スタジオに持ってきてセットする。普段使っているキーボードは88鍵、対してこのシンセサイザーは61鍵盤だがなんとかなるだろう。

 軽く調整しいつも弾いている環境に近くなるよう設定する。

 

「へぇ〜、ゆうちゃんも楽器やるんだ」

「次は僕も一緒にやらせてもらってもいいですか」

「それはいいけど…いきなりできるの?」

「大丈夫です」

 

よし、これならいけそうだ。

ひとりは僕がセッティングしている間にミジンコから人に戻っていた。

 

「ひとり、こっちを見て。僕が二人のリズムに合わせて弾くからひとりは僕の音を聴いて合わせるんだ、いいね」

「わ、わかった…」

 

 本来のリズム隊の音を無視してギターがキーボードに合わせるなんてバンドとしては邪道だろうが、何せ急ごしらえの即席バンドだ、音の合わせ方に四の五の言ってられる状況ではない。僕がいればひとりも今日だけならなんとか乗り切れるはず

 

「すみません、演奏をもう一度お願いします」

 

 そう声をかけるとひとりは僕の目と合わせ、視線を交差させた。かすかにだが、ひとりの表情に落ち着きが見えた。

 そして伊地知さんのスティックの音と共に、初めてのバンドメンバーとの演奏が始まった。

 

 

 

 

 ゆうちゃんが楽譜を見ながらシンセサイザーを奏でる。目の前でゆうちゃんが鍵盤を弾いて、私がそれに合わせる。いつもやってるセッションだと思い込んで自分を騙し、なんとか曲を最後まで弾き切ることができた。

 

「すごいすごい!ゆうちゃんがいるだけでぐっと演奏がまとまったよ!」

「うん、二人の息が合ってる」

 

二人には悪いけど、ゆうちゃんの音だけに集中してギターを弾いていた。自分では分からなかったけど、虹夏ちゃんとリョウさんの反応を見るあたり悪くない演奏だったみたい。

 

「ねぇ!ここまでやれるんならさ!ゆうちゃんもステージに上がってよ!」

「いいんですか?」

「もちろん!むしろ今の演奏ならゆうちゃんが必要だよ!リョウもいいよね!」

「うん、文句はない」

「お二人がよければ、喜んで」

 

話を聞く限りではどうやらゆうちゃんも一緒にステージに上がってくれるらしい

 よかった、いきなりライブハウスで知らない人とバンドやるなんて不安だったけど、ゆうちゃんが一緒にやってくれるなら怖くない。さっきの演奏もゆうちゃんのおかげでなんとかなったし、ゆうちゃんがいればお客さんの視線も

 

視線?

 

視線…

 

 

 

『オ゛エ゛ッ……

オ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛……』

 

 

 

 

 

「ひとりちゃーん!お願い出てきてーー!」

 

スタジオの合わせ練習の結果僕も一緒にライブに出ることとなり、これならひとりも少しは安心してステージに立つことができる…と思ったのだが

 現在ひとりは僕のシャツの中に上半身を突っ込み、僕の服を膨らませて閉じこもっている。頭隠して尻隠さずといった状態だ。背中まで腕を回してがっしりと密着しているため素肌にひとりの吐息が当たってこそばゆい。

 

「どうしたのひとり、僕も一緒にいるんだから平気なんじゃないの?」

 

襟もとから見えるひとりのピンク色の頭にそう呼びかける。するとひとりは震えながら小さな声で言った

 

「視線コワイ…ゲロ…ライブ…ゲロ…」

 

なんてこった、トラウマの黒歴史を思い出してしまっている。お客さんの視線を受けることで中学の文化祭のようにまた嘔吐してしまうと考えて怖くなったんだ。

 

「なに言ってるのか分からないんだけど、ゆうちゃんどういうこと?」

「すみません、ひとりは人からの視線を極度に怖がる子でして…」

 

さすがにあんな過去を事細かに説明することはできない。しかしどうする。正直考えが甘かった。僕が一緒に演奏すればなんとかなると思っていた。それでも駄目なら新しい手を考えなければならない

 

「大丈夫だよ!多分見に来るのあたしの友達だけだし!緊張して上手く弾けなくても分からないって!あたしもそんな上手くないし!」

「もしひとりちゃんが野次られたら私がベースでぽむってするから」

 

おかしいな、ベースで殴りつける暴力的なイメージしたけどベースってそんなファンシーな音鳴るんだ

 

「流血沙汰もロックだからね!」

「ロックだからしょうがない」

 

ロックってそんな万能免罪符だったんですか?ロックってのは正義の御旗かなにかなの?

 

「私無理です…ギターならゆうちゃんも弾けるんでそちらにどうぞ…」

「えっ、ゆうちゃんもギターできるの?」

「…」

 

確かに見せてもらった譜面はあまり難しくはない。あれならひとりより劣る僕のギターでも無難にこなせるだろう。ひとりが無理であるなら引き受けた僕が責任を取ってギターを務めれば筋は通る。

 

でも

それでも僕は

 

「いいえ」

「え…」

「僕はキーボード専門なんで、ギターは少しつまんだ程度でステージで披露できるほどの実力はありません」

「そっかー、残念」

 

それでも僕はひとりにステージに立ってほしかった。文化祭で黒歴史に上塗りされてしまった、ステージで自分の演奏を披露する喜びを、改めて知ってほしい。だから嘘をついた。ひとりの逃げ道を断つために

 

「ゆ、ゆうちゃん…どうして…」

 

服の中から泣きそうな顔で僕を見上げるひとり。いやこれこっわ、ホラー映画でこんなシーンあったわ。自分が入ってる布団の中を覗いたら髪の長い女がこっちを見てたっていう

 

「ごめん、でもひとりはここでステージに立つべきだと思う。ここで演奏すればひとりにとって大きな経験になると思うから」

「うぅ〜…」

 

そうは言ったものの、実際のところ解決策の目処は立っていない。ステージに立てば人から視線は絶対に受ける。なにか方法はないか、ひとりが視線を気にせずギターを弾ける良い方法は

 

「怖いならこれに入って演奏したら?」

 

そう言う山田さんが持ってきたのは、人一人は余裕で入れそうなでっかい段ボール箱(完熟マンゴー)だった…

馬鹿な、これを被ってギターを弾けとでもいうのか。いくらなんでもそれは

 

 

 

「い、いつも弾いてる環境と同じです!」

「どんな所に住んでんの?」

 

いやそれでいいんかい

 

え?嘘でしょ?これでステージに上がるつもりなの?バンドの花形であるギターが段ボールだなんて聞いたことないぞ?

あと住んでる場所を怪しませないで。それ同じ家に住んでる僕にも飛び火するから。

 

「みっみなさん下北を盛り上げていきましょう!」

 

気が大きくなってる…いやひとりの不安がそれで無くなるならいいけどさ、自分の見た目分かってる?ガタガタ揺れる異様な段ボール箱だよ?

 

「そういえばバンドで出る時の名前どうする?

ゆうちゃんはゆうちゃんでいいと思うけど」

「あ、はい、それで大丈夫です」

「ひとりちゃんあだ名とかない?」

「あっ…ちゅ、中学ではあの〜とか、おいとか、言われてました」

「それあだ名じゃなくない!?」

「あ、あとは後藤の妹っていうのも…」

「ひとりちゃんも後藤だよね…?ひとりちゃん主体の呼ばれ方なにもないの…?」

 

しょうがないよね。クラスメイトと話すこともなければ名前すら覚えられてるかも怪しかったし、あれ、ちょっと涙出そ

 

「ひとり…ひとりぼっち……ぼっちちゃんは?」

「またデリケートなところを!」

「いやそれはさすがに…」

 

おいふざけんな。ひとりはメンタル紙耐久のクソザコ陰キャなんだぞ。そんなレベル1スライムのような妹をいじめるというならお兄ちゃん黙っては

 

「ぼぼぼぼぼっちです…うへへ…」

 

いいんだ…初めてのあだ名それで嬉しいんだ…生まれた時から一緒にいたけどひとりはそれでも喜ぶんだ…新しい一面を知れたのはいいけどお兄ちゃん本当に泣きそうだよ…

 

「あっ、まだバンド名聞いてなかったです」

「うっ…」

「そういえばそうでしたね。なんていうバンドですか?」

「…くバンド…」

「「えっ?」」

「結束バンド!あーもう!絶対変えるからね!」

「傑作」

 

結束バンド…ちょっと好きかもしれない。結束って言葉は仲良い感じがするし

 

 

 

 

「初めましてー!結束バンドでーす!」

 

 幕が上げられ、ついにライブハウスによる初の演奏が始まった。

 スターリーはそこまで大きな箱ではなく、現在来ているお客さんも50人にも満たない小規模なライブだ。中学の文化祭ステージを思い出せば観客こそ少ないが、決定的に違うのは料金を払って来てくれていることだ。

 お金を取っている以上それに見合うものを提供しなければならない。そう思うと鍵盤を弾く指が強張る。しかし同時に高揚する。まさかライブハウスで披露する機会に恵まれるとは。

 

 リハーサルでやった通りリズム隊二人とひとりのギターの橋渡しに努める。多少のズレはあるが僕がうまくやれば辛うじて旋律のバランスは保てる。どうかお客さんには納得してもらえる程度の出来にはなっていてほしい。

 

間に合わせの4ピースバンド「結束バンド」。ステージに立つのはベースの山田さんとドラムの伊地知さん、その横に並ぶキーボードの僕、その前に陣取るはギターの…でっかい段ボール箱(完熟マンゴー)

 

いや待って、なにこれ。

 

ひとりと一緒にライブステージに立ってるはずだよね?どうして僕は段ボール箱を前に見据えて演奏しているのだろう。ひとりを怖がらせないための苦肉の策とはいえあまりにも奇妙な状況だ。風変わりという言葉で片付けられる光景ではない。お客さんもなんだあれって顔してるし。

ひとりは吐くこともなく無難な演奏は出来ているが、それでいいのかひとり…

 

 

 

「ミスりまくったけど楽しかったー!」

「MC滑ったね」

 

リハーサル同様に協調性のない演奏だったが、無事に終わらせられただけでも喜ぶべきだろう。臨時でひとりにサポートギターをさせた責任も一応は果たせたと言ってもいい。

 

「ゆうちゃんぼっちちゃん、今日はありがとう!初ライブとしては大成功だよ!」

「あっ、いっ、いえ…」

「いえ、大したことはしてませんよ」

「ううん、今日ちゃんとライブできたのは二人のおかげ。きっとお客さんも満足してくれたよ!」

「ならいいですけど…」

 

 

「せっかくだからさ、二人とも私たちとバンド組まない?」

 

伊地知さんからバンド加入の勧誘を受けた。今後ライブハウスで演奏できると考えるとかなり良いお誘いだと思う。僕は受けたいところだがひとりはどうだろうか。

 

「どうする?ひとり」

「あ、あの…つ、つつつつっつつつつ……」

「なになに!?怖いんだけど!?」

「つ、次のライブまでにはクラスメイトに挨拶できるくらいにはなっておきます!!」

「なんの宣言!?」

 

なんと…ひとりが脱ぼっち宣言を掲げるとは…ライブハウスで演奏したことで一皮むけたのか?段ボール箱の姿とはいえステージに立ったことは決して間違いではなかったようだ。ひとりの大きな成長にほろりと涙が溢れそうだ。

とにかく、ひとりもこのバンドに入ることには前向きに考えているようだ。ならばもう断る理由は無い。

 

「えーと、私たちのバンドに入ってくれるってことでいいんだよね」

「はい、これからよろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします!」

「やったー!バンドメンバー確保ー!」

 

成り行きとはいえこんな形でバンドを組むことになるとは、人生なにがあるか分からないものだ。

 

「よーし、これから新しいガールズバンドの誕生祝して二人の歓迎会兼反省会するぞ〜」

 

ん?ガールズバンド?

 

「疲れた、眠い」

「も〜しっかりしなよリョウ!今日くらいは」

「あの、ガールズバンドって?」

「え?だって女の子だけで組んでたらガールズバンドじゃん?」

 

あぁ…そういうことか

 

「すみません、僕男です」

「えっ?」

「僕の名前は後藤優一といいます。こう見えて男なんです」

「…またまたご冗談を〜。こんなにかわいい顔して男子なわけないじゃん、ぼっちちゃんお姉ちゃんが変なこと言ってるよ〜?」

「あっ、いえ、嘘じゃないです。ゆうちゃんはお兄ちゃんです…」

「え…」

 

「えええーーーーっ!?」

 

まあ、仕方ないよね。昔からよく間違えられてたし

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