ダンジョンにろくでなしが居たって間違いじゃ無いだろう? 作:ケツアゴ
「ゴメンね? お母さん、思ったよりも弱かったみたい。あの人が居ない世界に居続けるなんて無理みたいなの」
それは一番新しい母の記憶で、初めて目にする泣き顔だった。
気丈で誇り高く、少し抜けていて何よりも優しい、私が大好き
当時三歳だった私を強く抱きしめ、そのまま禁忌を犯して帰るべき場所に帰って行く。
「ごめん、本当にごめんなさい。貴方を私の手で連れて行けない駄目なお母さんを許して。あっちに来たら絶対に、絶対に迎えに行くから!」
母の手で私を連れていく、つまりそれは命を奪うと言う事だ。我が子を手に掛ける勇気が出ないから……捨てたのだ、そして一度捨てた物が手の届く場所に転がって来たらもう一度拾って自分の物にしようって事だよ、ああ、本当に女神は人の尺度では度し難い。
「待って! お母さん、置いて行かないで!」
泣きながら光の柱に包まれて消える母に手を伸ばしたけれど届かず、山奥の小さな一軒家に幼い身の上で取り残された私は泣きじゃくって、そうしたら母が帰って来て抱き締めてくれると信じていた。
無論、無理な話だ。天界に戻った神は二度と地上には戻れない、地上に遊びに来たと宣う事になる神々が決めたとされている絶対の掟、全知全能の存在でさえ逃れられない事なのさ。
だからね、私は成長し終わった今でも母との再会なんて果たせていない。
ああ、これはどんな物語かって? とある女神が地上の男に恋をして、それが全ての始まりだった。まあ、そんな所さ。
「それで、その後はどうなったんだい?」
「それがようやく見付けた食べ物が猛毒でさ。呼吸が出来なくなって森の中で一度死んじゃったんだ。いや、飢えと渇きで二回死んでるから三度目だっけ? そうそう、三度目と言えば……」
豪奢な寝所の巨大で寝心地が良いベッドの中、香の薫りと汗やら色々な物が混ざって充満した場所で私は隣で上半身を起こした褐色肌の美神を押し倒す。
「今から三回戦って事で」
「ちっ! 相変わらず仕方の無い奴だ。構わん、好きにしろ」
話を途中で切り上げたのが不満そうな美神……神イシュタルに覆い被さって唇を重ねれば向こうも私の首に手を絡めて激しく求めて来る。おっと、相変わらず隙あらば魅了をしようとするんだから怖い怖い。
此処は歓楽街、イシュタル・ファミリアが支配する欲望渦巻く場所。それでも女神を抱けるのは本当の特権、眷属とも関係を持つ彼女だけれど、その場合は女神が抱く方だからね。
「ぐっ! おい、あまり調子に……」
途中、イシュタルの弱い所ばかり攻めてたら頬をつねられたけれどご愛敬、能力を制限した神の身とオラリオ屈指の冒険者な私の肉体の差で強引に攻め続ければ少しずつ甘い声が漏れ出す。後は達した直後の数秒だけ見せる甘えた顔を楽しみつつ、今夜はまだまだ楽しむとしようか。
「……おい、相変わらずウチに付く気は無いのか? 今なら団員を好き放題にする権利をやろう。お前にはそれだけの価値があるぞ、分かるだろう? Lv.12」
「いやいや、私もそれなりの年齢だからね。そりゃ肉体の成長は二十辺りで止まってしまったけれど女神以外に手を出す気にはならないさ。まあ、イシュタル様を抱いた今じゃそそられる女神も限られるけれどさ」
いやぁ、ちょっと張り切り過ぎてしまったよ。最近開発したお薬の効果が思ったより上で、まさか朝日が登るまで頑張れてしまうだなんてさ。
地上に降りた神は普通の人間と同程度だから体力を回復させる為にエリクサーを持ち込んで口移しで飲ませたけれど、十本も使う事になるとはね。
お陰で今は一緒に朝風呂を浴びて女神の体を泡まみれにしている最中さ。三時間ぶっ続けで後ろから激しくし続けた罰だって話だけれど、ぶっちゃけご褒美? 怒るから口には出さないけれど本神も満更じゃないのではと思いつつ、今まで何度もされた勧誘を拒む。
「ほぅ。美神を抱いてても他の女神にも目移りするとは大層な事を言うじゃないか。まさかフレイヤの奴に目移りしたか?」
「うーん、何度も言うけれどちょっと苦手なタイプだからなあ。幾ら神でも気紛れとノリで動き過ぎるし、団員がちょっと面倒だから」
「ああ、相変わらずの同族嫌悪か」
私の返答は分かってるってのに、そんなに聞きたいのか顎を撫でながら微笑む。うーん、美神としてオラリオの二大頂点な扱いの二柱だけれども、私はこっちの分かりやすくエロい方が好みだな。
……同族扱いはちょっと酷く無い?
「それに思い付きでヘグニ君に女神専用の浴場の覗き方を詳しく教えたけれど、ちょっと悪かったなって反省してはいるんだよ?」
「その後に酒場でやらかした内容を大声で話さなかったらマシだったろうな。そんなんだから貴様は同族だっていうんだ」
今度は呆れた様子で耳を引っ張られるけれど、ちょっと反省すべきかな? せめてオッタル君にしておけば良かったよ。
所でお風呂にいたら再び……え? 契約は一晩だから別料金? 現金前払いのみだって?
「ところで最近になって処女神のファミリアに例の小娘と一緒に入団したんだってな。主神など不要な身の癖にどんな気紛れだ? 小娘は兎も角、あれを好き放題にする権利でも貰ったか?」
「いやぁ、あのご立派な胸は魅力だけれど、土台の方が子供だからね。私の異常性に気が付きもせずに屋台で勧誘されたのが笑えたからノリと勢いで」
「だから同類だよ、貴様は」
仕方が無いのでお風呂から上がったら歓楽街から出ていく事にしたけれど、アレン君が来ていた事は(面白そうだから)黙っていよう。探りを入れるとか、何だかんだ互いに意識してるよね。バベル側のバルコニーでおっぱじめた時に視線を感じたしさ(面白いからこっちも秘密)。
「なあ、彼奴ってまさか【不滅】か?」
「誰っすか、そいつ?」
「お前は入ったばかりで知らなかったか。オラリオ最強の冒険者、Lv.12のアステマだよ。百歳を越えてるのにスキルの影響で不老だとか、主神が居なくてもステイタスが維持されるとかで長いことフリーだったのが、最近になってファミリアに入ったとかの噂で……まあ、関わると面倒だから近付くな」
早朝、ダンジョンに向かう三十代や四十代の若者達が私の噂をするのが耳に入るけれど、関わると面倒だとか酷いなあ。気に入った相手を弄くるなんて神ならやってるんだし、真似しても良いじゃないか。
「おっと、そんな事よりも……」
今はホームで不機嫌だろう主神とオロオロしてるだろうあの子へのお土産を買い求めるのが優先だ。
こんな早朝からやっている花屋に向かえば看板娘が出迎えてくれる。
「これはアステマさん。相変わらずの娼館帰りですか?」
「君も相変わらず言うねえ。私はこの店の恩人だぞぉ?」
魔法で種族を誤魔化してるこの子の関係者なのか、店に放火しようとしてた連中を叩きのめしたってのにさあ。この店、歓楽街の行き帰りに立ち寄るのに便利な立地だから困るんだよ。お気に入りの店って警告はしたし、二度目はないだろうけれどね。
「取り敢えず主神のご機嫌取りに幾つか見繕ってくれるかい? あの方は潔癖症だし、団長は純情だから手ぶらは不味い」
「団長は貴方じゃないんで……成る程」
あっはっは、伝わったみたいだね。オラリオの外に出た時、まさか友人の孫の孫の曾孫が盗賊に捕まっているなんてさ。義理で連れ帰って世話をしてたけれど、読み書き計算の教養は受けてるから団長業務を任せられてお得だったよ。
「そんなんだから糞野郎とか影で言われるんですよ?」
「慣れてる慣れてる。今さらさ」
イシュタル・ファミリアで手持ちの現金は使い切ったから深層のドロップアイテムの現物払いでお釣りは結構と支払い、パン屋で朝食を買ってホームへと戻る。
元は廃れた教会……何の因果か母を信仰する場所だったので潰して新築した少し大きい一軒家、此処が私の所属するファミリアのホームだ。
「やあやあ! 今帰ったよ、ヘスティアさんに春姫ちゃん。それと見慣れぬ少年。……ああ、あの二人の子供だね。面影がある。よろしく頼むよ、副団長」
なんか戻ったら兎みたいな少年が居たけれど、団長としての書類業務が多くて大変そうだった春姫ちゃんの助けになってくれれば嬉しいな。
私? おいおい、ヒラ団員に何を求めているのやら。
アステマ Lv.12 年齢 オラリオ以上(自己申告) 半神半人
趣味 娼館通い 悪戯
夢 完全な×