ダンジョンにろくでなしが居たって間違いじゃ無いだろう?   作:ケツアゴ

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ろくでなしは贔屓する

「ミア母ちゃんの店で食い逃げか? 度胸あるやっちゃなあ」

 

 突然店の外に飛び出したベル君の姿にロキ・ファミリア一行が視線を向けたのは数秒程度、どうせ後で捕まって制裁を受けるだけだろう食い逃げ犯に割く時間なんてそんなもんだ。

 

「マナー違反を謝罪するよ。容器の代金は払うから食べ残しを包んでもらえるかな?」

 

「……仲間ならあの小僧に何か言ってやるのはアンタの役目だよ」

 

「あの……。あの子の仲間ですよね……」

 

 ああ、でも君は気付くよね、アイズちゃん。なにせミノタウロスを逃したのも、それに襲われたベル君を助けて速攻で逃げられたのも君だ。

 そんな事を気にしていたら仲間に彼を馬鹿にされ、その彼が話を聞いていたのだからね。

 

 仲間であろう私に話し掛ける時の彼女は罪悪感で表情が曇っている。

 なんて面白くない表情だろうか。困ったり慌てたりむくれたりは良いんだよ、見ていて楽しい面白い。

 

「仲間の名誉の為に言わせてもらえば怖くて逃げたのではなく、武勇伝を耳にして憧れていた君の強さを前にした緊張と興奮だよ。事実、剣姫に会った事を嬉しそうに話していたからね」

 

 だから面白くもない物なんて私が取り去ろう。それが君の亡き両親であり私の友への手向けだからね。

 あっ、前世が親友だろうがアイズちゃんの方が付き合い的にベル君より優先度が高いってのもあるし。

 

 

「それにだ、最近恩恵を受けたばかりの上に武神の手解きを受ける事になって少々浮かれ、未だ入るべきでない階層に足を踏み入れた結果の事故だ。だから気にしなくて良いさ。冒険には危険が付き物だからね」

 

 不老不死の私が何をって感じだけれど、死にたくないなら堅気の仕事を選べば良い。

 危険と引き換えに夢だの野望だの復讐だのを叶えるチャンスを与えられたんだ、だから私はアイズちゃんが幼少期に無茶をしても止めなかったしさ。

 

 ヘルメス・ファミリアだったら報復してた云々は一応身内な子が不始末で被害に遇ったってのが腹立つって個人的な理由だよ。

 

「でも、私はあの子に償いたい……」

 

「それは困ったね。どうしたものか」

 

 罰せられる事が救いになって、罰する側は罰する事は望んでいないとか、ちょっとどうしよう? これを面白おかしく引っ掻き回すには、自分の趣味で他人を引っ掻き回す女神の知恵が必要だ!

 

 

「おーい、アイズたん、さっきから何を……」

 

 

 此処でアイズちゃんを心配してかロキ様が近付いて来て、私を見るなり固まった。おや? 気配は誤魔化しているけれど、何か感じるものでもあったかな?

 

 神の世界で戦いを起こそうとしたトリックスター、普段はパッパラパーな言動だけれど他の神より抜きん出た鋭さも持っている。

 ネタばらしは此処じゃないんだけれど……。

 

 

 

 

「銀髪美少女キター!! なあ、一緒に飲まへん? ウチが好きなだけ奢ったるで。てか、名前は?」

 

「プリンと呼んで欲しいな。ロキ様の名前は聞いているし、神の世界の話とか色々聞きたいと思うよ。……敵対行為はしないから二人っきりでね」

 

「え? 乗り気? お持ち帰り成功?」

 

「ふふふ、そう思って良いんじゃないかな」

 

 神との会話のコツ、嘘は見抜かれるので曖昧な言い方にしよう。でも、企みがあるとか神なら何となく察するらしいよ、ヘスティアさんでさえ可能なのはビックリだよ。

 

 初対面(だと思っている)のに私に正面から抱き付いてベタベタ触って来るロキ様に友好的な言葉を投げ掛け、アイズちゃんへのセクハラ混じり発言でお仕置き中のベート君の口に錠剤二錠を弾き入れる。

 

 指先での素早い動き、Lv.12のステイタスと長い人生で培った(主にカジノでのイカサマ用の)器用さで可能とする神業さ。

 

 恐ろしく速い行動、ロキ・ファミリア一行は酔ってるし、私じゃないなら見逃しちゃってるね。

 

 

「……まあ、遊ぶのはこの辺にしておこうか。仲間への辱めの代償は本人に払ってもらった事だしね」

 

「うん? それは一体……は?」

 

「べ、べべ、ベート、さん?」

 

「あぁ? 何だよ、一体。……飲み過ぎか? テメェらが大きく見えて……」

 

 私がそっと指差したのはベート君、皆がそれに釣られて見たのもベート君、そんな彼の口から出たのは幼い少女の様な声。

 

 そんな彼はお酒で顔を真っ赤にさせたフリルだらけのピンクなドレスを着た十歳前後の女の子になっていた。

 

「はっ!? なんだ、この格好」

 

「べ、ベートさんがベートちゃんになったぁあああ!?」

 

 ティオナちゃんよりは膨らんだ胸をペタペタ触り、フリルだらけの袖から出た白い腕や手入れのされた爪を見てベート君の表情は固まり、誰かの声が静かに響く。

 

 さてと……。

 

 ジョッキの酒を一気に流し込み、残った料理を食べるとベル君の残りと何時の間にか用意されていた私のパスタを入れた袋を掴むと財布を置いてその場から消え去った。

 

 

 

 

「えええええええええええええっ!?」

 

「しまった! あの流れでロキ様をベッドに連れ込んでから正体を明かせば良かったよ!」

 

 店の外まで響く驚愕の叫びを聞きながら失敗を悟る。デメテル様とかイシュタル様と違ってベッドに連れ込むのに手間が幾つも掛かるのに!

 

 

 

 

 

「まあ、そんな失敗があった訳でさ。最近少し気が緩んでたから良いんじゃないかい? 無茶はしたけれど心折れての自暴自棄って訳じゃないんだ。それにしてもロキ様は惜しかった」

 

「君、ボクとロキが仲悪いって知ってて言ってる? そもそもボクは処女神なんだぞ! その眷属になったならもう少し落ち着きをだね!」

 

「いや、だってヘスティアさんって私に対する頼まれごとからして親戚のおばさんみたいなものだし、別に良いかなって」

 

 その依頼主は既にどうでも良い。勝手に居なくなる母親なんて要らないし、拗らせた時は送還させる神に息子からの伝言だって頼んだけれど、今はそんなのを頼むのすら面倒だ。

 

 

「そもそもヘスティアさんの言葉からして伝言伝わってないのかなぁ?」

 

 呟きながら傷だらけのベル君にエリクサーを振りかけ、そのままベッドに放り込む。

 

 ベル君ったら防具も無しにダンジョンに潜るだなんて。まっ、ただ好きになった相手と仲良くなりたいってだけで気合いが空回りしている状態だったしね。

 

「ベル様は大丈夫でしょうか?」

 

「四肢はもげてないし心も折れていないし平気さ。春姫ちゃん、彼が起きたら更新前にこれを読めって伝えておいて」

 

 私は他ファミリアの女神とデートの約束があったし、昨夜書いておいた本を春姫ちゃんに手渡す。

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず彼の更新が終わったら春姫ちゃんと一緒に私の授業を受けさせてあげるよ。大丈夫、指がちぎれたり血反吐吐く程度なら治せるからさ」

 

 

 おっと、デートの前にあの冒険者をミノタウロスの餌にしないと。

 

 

 そうして野暮用を済ませ、女神とのデートに向かう私、先ずは相手の寝室で汗を掻いてから近場の湖までテレポートする……そんな素敵な予定に対する楽しい気分は路地裏からこちらを手招きするフードの姿によって台無しにされた。

 

「……ちっ」

 

 

 

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