ダンジョンにろくでなしが居たって間違いじゃ無いだろう? 作:ケツアゴ
ダンジョン十八階、モンスターの誕生しない安全地帯、但し雲菓子や水晶飴を始め、食料になる果物が多く存在するから他の階層からやって来ない訳じゃないこの場所には街が存在する。
「それが此処、リヴィラの街で、彼が顔役のボールス君だ。何時か来た時はお世話になるんだから挨拶だけでもしておきなさい」
「は、初めまして。サンジョウノ・春姫で御座います」
「べ、ベル・クラネルです」
「お、おう。……胃薬は常備しておけよ?」
そんな場所に春姫はベル様と一緒に連れて来られました。ベル様がダンジョンから帰って、皆でご飯を食べて休憩していた時、アステマ様が言ったのです。
「二人共、腹ごなしの運動にちょっとダンジョンの十八階まで行こうか」
「「はい?」」
まるで食後の散歩に誘うみたいな気軽さに二人揃って疑問の声が漏れたのですが、視界が一瞬で切り替わってホームからダンジョンの中に移動していたのです。
話には聞いておりましたが、これがアステマ様の作り出した魔法・テレポートなのですね。
街の冒険者の方々はアステマ様を見るなり逃げ出すか遠巻きに様子を伺うか、それと私達に同情の眼差しを向けるばかり、それに気が付いていても気にした様子もなく笑顔を浮かべた彼は私達をボールス様の所に連れて来たのです。
「じゃあ私は酒場に納品する物があるから離れるけれど、二人は大人しくしているんだよ? じゃないと芋虫が吊るされる事になるかも……なーんて冗談さ、ボールス君。そんな青い顔をしないでくれたまえ」
そのままボールス様の所に置き去りにされたのですが、芋虫が吊るされる? はて? どういう意味でしょうか?
「……お前ら、アステマの旦那と同じファミリアなんかにどうして入ったんだ?」
「えっと、私は盗賊に捕まったのですが、ご先祖様のお友達だったとかで助けていただいた後はお世話になっていたのですが、ヘスティア様に二人揃って勧誘されまして……」
「マジかよ、イカれてるな、その神」
少し失礼な言い方のボールス様ですが、私達に向ける視線には同情の念を感じますし、実は私もアステマ様の名前は知っておりました。
一大事に近くに居れば頼れ、それ以外は胃痛を覚悟しろ、との事です。友人である、とも書き残されていたのですが……。
「僕はファミリアが全然見付からなくて困っている時に神様が勧誘してくれて……」
「あの旦那が選ぶんだから善良なんだろうが、困窮してる時に笑顔で寄って来る相手には気を付けな。……んでだ、どうせ芋虫ってのが何か気になるんだろ? 教えてやるが後悔するなよ?」
頷く私達にボールス様が語ったのは彼が駆け出しだった頃、鍛冶屋も目指していた彼はアステマ様と出会ったそうです。
最初は胡散臭いが強い相手だと下心有りで近付くも、変に気に入られて振り回される様になったある日、事件が起きました。
「犠牲になったのは俺が旦那によく奢ってもらった飯屋の一家でな、犯人は闇派閥の連中だ。旦那の気に入った店って事で遠回しに邪魔をするなって警告だったんだろうが……それが間違いだった。翌日、主神は送還されて団員全員が吊るされてたんだよ。……見るも無惨な姿でな」
彼が見たのは手足を根本から切り落とされ、顔のパーツを削いだ上で傷を焼き潰された状態だったそうです。それも男女問わず、本当にファミリア全員を。
「更に看板が立てられていて、手を差し伸べたなら仲間と見なす、って書かれていたよ。その日までは温厚で何をされても軽く済ませるって舐められてた旦那の闇の部分だ。……なんてな」
真剣な口調から一転、ボールス様はニマニマと笑いながら舌を出します。
冗談?
「え?」
「悪いな、旦那が客を連れて来た時に話すお決まりの冗談だ」
「ビ、ビックリしたぁ……」
ベル様は信じているみたいですね、色々な意味で。
実家に残る彼の記録、私を助けてくれた時の盗賊への対応、本当に冗談だったのかと疑問は残りますが、そんな事を考えていると戸が開く音が聞こえました。
「おーい。お話は終わったかい? 甘い物でも食べて帰ろうじゃないか」
浮かべているのは普段通りの優しい笑顔、まるで気の良い親戚のお爺……お兄様みたいに思っていますが、この方には私の知らない闇があるのでしょう。
……それでも私にとっては恩人、命ちゃん達に誘われたとしても今のファミリアから離れる気はありません。
「おや? 二人共、見てごらん。
闇……。
「駄目ですよ!? そもそもダンジョンに神が入るのは禁止じゃないですか!?」
「うんうん、分かってるさ。少し前にファミリアに所属していたけれど、あの辺の水辺で女神と楽しんでたのが後でバレてね。エルフなだけあって生真面目だった担当の子に怒られちゃったんだ。今の担当もその子なんだけれど、大分変わってしまったよ」
闇、あるんでしょうか……?
二人をホームまで連れ帰り、オラリオの殆どが寝静まる中、私は横流し品であるソーマで月見酒をしていた。
「彼等と出会ったのもこんな月の夜だったっけな」
ああ、どうもいけない。リヴェリアちゃんと出会った時もそうだけれど、愚かと指を指して笑った連中と同じになっているよ。
「彼等ってのはアルゴノゥト達の事かい? それでだ、アステマ君。ボクにもその酒をだね……」
「ヘスティアさんには刺激が強いから市販の失敗作の方にしておこうか」
「ケチだなあ。それで、ベル君と過ごして懐かしくなったのかい? アルゴノゥトの仲間の一人で十歳なのに無愛想な魔導士のアース君?」
揶揄う気なんだろう、少しやさぐれて親から貰った名前が嫌になった頃の偽名で呼ぶヘスティアさんの手元のチーズを激辛チーズと入れ替える。
当然、それに気がつくことなく、口に運んだ次の瞬間には火を吐く勢いで叫び始めた。
「ぎゃぁあああっ!? 辛ぁああああああっ!?」
「子供達は寝ているんだし、晩酌は静かにしないかい? 私より年上じゃないか」
「水! 水ぅ!!」
咄嗟に掴んだのはお酒、それも度数それなりだから思いっきり咽せた。
まぁ、私の分のチーズはとっさに避難させたから別に良いけれどさ。
輝かしい少年時代、あの旅で私は失っていた心を取り戻せた。それはそうとして黒歴史も混ざっているので弄ると怒る。名前と初恋からの玉砕とか、前に弄って来たヘルメス様は肥溜めに蹴り落としてやった位にね。
「ベル君はアルゴノゥトじゃない。生まれ変わりは全くの別人だからね。……分かっているんだけれどなあ」
あっ、一応ハーレムは諦めろって言って……いや、滞在した街で仲間や再会した人とのデートの約束が重なって慌ててたのを助けるフリして邪魔した“わくわくデートプラン”が面白かったし、今なら更に面白く出来るから止めておこう。
「知っているかい? 修羅場に追い込んでから安全圏で眺めるのって最高に楽しいんだ」
「その発言が外道だって知ってる?」
「え? 当然じゃないか。何言ってんだか」
見てくださるだけでも嬉しい