ダンジョンにろくでなしが居たって間違いじゃ無いだろう? 作:ケツアゴ
「思う存分に人生を謳歌したけれど、一つだけ悔いが残っている。君を置き去りにしてしまう事だ、アステマ」
出会いがあるなら別れだって必然さ。私以外の全ての命に終わりがあるこの世界、老衰で亡くなる友を看取るって別れは幸せな方だったんだろう。
だってさ、覚悟も別れの抱擁も無しに永遠の別離をするなんて珍しくもないんだから。
「大丈夫さ。私はこの通りの陽気で愉快な美青年、そして最強! 望まなくとも周囲に人が集まるのさ」
ベッドに横たわる友人は出会った頃は弱々しく、試練を乗り越えて少しは逞しくなったと思ったのに老い衰えて出会った時より弱そうだ。
掠れ声で私の心配をするアルゴノゥトに笑い掛けるけれど、彼の眼差しには悔いが浮かんだままだった。
「そうだね、君になら人が集まるだろう。でも、その人達も、次の人達も君を置き去りにしてしまう。……もし願いが一つ叶うなら、君が永遠に近しい人生で孤独を紛らわせてくれる出会いがある事……」
臆病で情けなく、誰よりも英雄に近い男の最後の言葉がそれだった。
ああ、まったく余計なお世話だよ。
「君達との思い出があるんだ。永遠の孤独だって少しは紛れるさ」
この後も数多くの出会いと冒険をしたけれど、この最初の仲間達との出会いに勝る物は無い。
相変わらず皆揃って私を置き去りにしてしまうんだけれどね……。
「……泳ぎが得意だった友人が溺れた事が信じられず、慌てて近寄った瞬間に後悔した。恐怖で引き攣った顔の友人の足には彼に裏切られた事で湖に身を投げ、そのまま行方知れずだった女の死体がしがみ付いていたのだから」
「っ〜〜!?」
「アイズさん!? ちょっと落ち着いて下さい!?」
怪物祭に向けて彼等の為の魔石集めの最中、遠征帰りのロキ・ファミリアを発見した私は抜き足差し足忍び足、なーんて面倒な事はせずに魔法で会話に入り込み、オバケが苦手なアイズちゃんの隣に座り込んだ。
「あっ、兄さ……っ!」
おっと、二重の意味で気が付いたか。対人間用の悪戯専用だからアイズちゃんには効果が薄いと。
でもね、気付いた時にはもう遅い。
始まっているんだよ、チキチキ! 第二十回終わるまで逃げられない怪談大会! はね。因みにこっちも魔法。
最初はギャグオチから小手調べや子供騙し、最後は居ない誰かの視線や濡れた足音が聞こえる気がする演出有り。
終わった瞬間にはアイズちゃんが混乱して隣のレフィーヤちゃんに抱き付いたけど、抱き付くってよりは締め上げる感じになってるよ。
「アイズちゃん、もう少し精神を鍛えようか。オバケなんか居ないんだから。……いや、待てよ? この前、モンスターじゃないのに動く人骨(旧知)が夜の街を……」
ああ、この子は本当にオバケ関連で揶揄うと凄く面白いな。声も上げれずレフィーヤちゃんにしがみ付く力を強めてる。
彼女も彼女で同性愛なのか羨望や崇拝に近い尊敬なのかを抱く相手に抱き付かれてご満悦のまま昇天しそ……流石に止めるか。
「むぅ。兄さんは相変わらず酷い」
「あっはっはっ。私が性格の悪い老人だと忘れてたのかい? まあ、こんな性格じゃなかったら世の中全てを恨んで滅ぼそうとしそうな気もするけれどね」
なんとかアイズちゃんが落ち着いた事でリヴェリアちゃんの後継者の命は守られ、子供みたいに拗ねたアイズちゃんは頬を膨らませてポカポカと叩いてきている。尚、遠慮が一切ないので一撃一撃がベル君の頭蓋を粉砕可能な威力だった。
「あの人、なんか普通にキャンプに混ざってるけれど、フリーだった以前と違って今は他のファミリアなのよね? 私は最近オラリオの外から来たけれど、皆どうして受け入れれるの?」
「オラリオで育った人は子供の時から、そうでなくても新人時代を知ってる相手ですからね。しかも好きに世界を回ってるから顔も広くって」
「レフィーヤは外で知り合ったんだっけ? 他所でもあんな感じなの?」
「あの人、学区の臨時講師をしていた時もあんな感じでしたよ。校長が子供の頃に知り合った仲って伝手で講師になったけれど、受講した生徒はかなりの無茶をさせられるから授業を希望する生徒は講義が終わるたびに減っていくんです」
おや、ちょっと前の話をしているね。学区が所有する文献目当てに引き受けたけれど、彼女は他の生徒と比べて頭一つ抜き出てたからね。エリクサーを大量に用意しての大怪我前提超ハードコースに誘ったっけ。
あの特別授業が理由で契約期間内に追い出されたけれど、立ち入り禁止書庫の禁書でさえ私の死には役立つ物は無かった。
得た物が有るとすれば将来有望な若者達との出会いって所か。
「レフィーヤちゃん、並行詠唱はちゃんと使えるままかい? 例のランニングをまたやるかい?」
「だ、大丈夫です! ですのであの拷問は必要無いので!」
拷問だなんて人聞きが悪いよ。精神力を注げるだけ注ぎ込んだ状態でシャトルランをやらせて、必要なら即座に薬で回復ってだけだろう?
私の薬なんだから掠り傷すら残らないんだぞぉ?
「おや、それは残念。エリクサーも
「げぇっ!? 見つかったっ!」
アイズちゃんに惚れてる君の事だ、こうして私が一緒にいたら気にして様子を見に来るなーんて予想の範囲内、前世と行動パターンが似てるんだよ、君は。
物陰に隠れていたのは分かっていたけれど、むこうが気を抜いた瞬間に振り向いて笑顔を向ければ逃走開始、流石は魔法を使ったアイズちゃんを除けばロキ・ファミリアでは最速。
「速い速い、久々に見たら随分と敏捷を伸ばしているね」
最初の距離は百少々、全力で逃げると獣人としての特性もあって一秒毎にドンドン距離が広がっている。若いってのは素晴らしいなあ。瞬く間に成長をするんだから。
「さてと……」
背中、腕、足と順番に屈伸、別に要らないけれどノリとか私のキャラとか。ほら、私って肉体は若いけれど中身は老人だし?
「よーいドッ……ありゃりゃ」
ちょっと力出しすぎた。
ドンのドで動き出したらベート君に追い付いちゃった。此処で捕まえると可哀想だし、スピードを全く同じに調整したら互いに止まっている状態と同じさ。
「カドモスの泉で会って以来だね、ベート君。面白い魔法薬を作ったんだ、飲んで」
「ふざけんな! マジでふっざけんなジジィ! 毎回毎回俺に飲ませようとしやがって! バカゾネスのどっちかで良いだろうがっ!」
「前回は喋る言葉が敬語になっちゃう薬だっただろ? ティオネちゃんはフィン君には敬語使うし、ティオナちゃんが使っても微妙だし、どんな理由があるにしろ口の悪さで顰蹙買ってる君ならギリ大丈夫かなって」
「この糞ジジィイイイイイイイッ!」
さて、少し遊んだからこの辺にしておこうか。だって今は仲間の悪口言ってないし。……アイズちゃんが拗ねてるよ。
「ゴメンよ、アイズちゃん。君、幽霊とか苦手だし……肩に置かれた血塗れの手とか言わない方が良いよね?」
「っ!?」
さてと、春姫ちゃんがダンジョンで使う道具を完成させたいし、帰ろうか。
この数日後、ベル君がなんか血塗れでギルドに飛び込んで来た。
「エイナさーん! アイズ・ヴァレンシュタインさんについて教えてくださーい!」
「悪いね、ロイマン君。掃除はちゃんとさせるよ」
「いや、それは清掃担当にやらせますが……貴方と同じ問題児の気配がしますな」