ダンジョンにろくでなしが居たって間違いじゃ無いだろう? 作:ケツアゴ
華麗に変身した私、爽やかな美青年からミステリアスな少女へと姿を変えて困惑するベル君に微笑みかける。
まあ、この姿のモデルって見た目は良いからね、少し幼くして本来の私の妹っぽい見た目にしたけれど、銀髪は別の色にしておいた方が良かったねと指先で弄る。
あっはっは、ベル君なんて今の私に見惚れちゃってるよ。
「だが、私だ!」
「えぇっ!?」
そして瞬時に元の姿に! 所要時間は僅か0.01秒。どうかな? 美少女が美青年に切り替わった感想は!
「ほら、私ってオラリオ最強だろう? つまり本気の神を除けば世界最強な訳で、店長のミアちゃんには変装して来いって言われてるんだ」
「は、はぁ……」
「因みにモデルは私にとって不要な相手。じゃあ、行く前に一つアドバイスをあげよう! あの店の店員の殆どは君の手首とか簡単にもぎ取れる子が殆どだからお尻とか触っちゃ駄目だよ?」
「触りませんよ、お尻なんてっ!?」
「ベル君って乳派だった? じゃあ、お尻には触らないか」
「いや、そっちじゃなくって!?」
「え? 頸とか足や腰の方? あっ、ヘソとか?」
「アステマさん、分かって言ってますよね?」
「うん、分かってる。あっ、触れるなっていえば過去にも触れない様にね。君みたいに夢と希望を抱いて来た子ばかりじゃない。大勢が集まる以上、流れ着くのに都合が良い街でもあるからさ」
例えば今夜はタケミカヅチ・ファミリアのところでご飯を食べる春姫ちゃんなんか、家を勘当された挙句に盗賊に身売りさせられるところだった。
行き着く先は奴隷か娼婦、妖術の内容が内容なだけにイシュタル様に買われたら殺生石を使われて廃人ルート真っしぐら。
「覚えておきなさい。世の中ってのは理不尽で不条理で不平等。努力は必ず報われる訳でもないし、才能の差ってのは存在してて、倫理的に正しい事が常に罷り通る訳じゃないってね」
少し説教臭くなったけれど、年寄りから若者へのアドバイスさ。
特に君を純粋で単純だからね、人の悪意をもっとしたほうが良い。
そういう意味では……。
「社会勉強としてご飯の後で娼館行く? 面白い話(ある意味)を聞くだけでも勉強になるよ」
「だから行きませんってっ!?」
此処は、イかないって若いのに……とか言うべきところなのかなぁって思いつつ、ヘスティアさんの反応も楽しみたいからよしておこう。
「そうそう、私が美少女になっている時はプー、いや、プリンさんとでも呼んでくれたまえ」
さてと、ロキ…ファミリアが打ち上げするならあのお店だろうけれど、どのタイミングで来るのやら。
「ベルさん来て下さったんですね!」
豊穣の女主人、ちょっとお高めの値段設定のお店だけれど冒険者には人気のお店。
その理由はフレイヤ…ファミリアで台所と団長の座を預かっていた店長のミアちゃんの料理、そして可愛い店員達だ。
まあ、殆どがランクアップを数回経験した才能も経験も桁違いの子達だし、酔っ払いの相手なんて簡単、それを知らずに良からぬ事をすれば……。
「あれ? 此方の方は……ぶふっ」
「おや、酷いなあ、お姉さん。私の顔を見るなり吹き出すなんて」
そして殆どって事は例外も、ベル君の純真さを利用して店に誘った目の前のレディ。
私の正体を一瞬で見抜いて、ツボにはまって吹き出した。
いや、そうなるように仕向けたんだけどね。
「ベル君から聞いているよ。うちの副団長にご飯をくれてありがとう。体が資本の商売だ、ご飯は大切だからね」
「お席は、こ、此方に、くくっ」
「客の前で何やってんだい!」
お客の顔を見た途端に吹き出したんだ、誰であろうと店長として拳骨が落ちる事だろうさ。
普段は面倒だから隠している私独自の気配を隠し、何食わぬ顔で微笑むけれど笑いは堪えきれない。
「えっと、シルさんで良かったかな? 私は彼の後輩のプリン。ファミリア内の妹分的ポジションさ」
「え、ええ、宜しくお願い……ぷっ!」
「シル、どうかしたのですか? 先ほどから様子がおかしいですよ」
「そうだニャ。ミア母ちゃんを不機嫌にさせた巻き添えをニャーまでくらったらどうするのニャ!」
これは少し調子に乗り過ぎたみたいだね。悪戯は良い、報復だって過剰な程度が丁度良い、それでもお気に入りのお店の邪魔になるのは駄目だ。
ほら、急におかしくなった同僚を心配しているし、さっさとご飯にしようか。
「えっと……え?」
ベル君、メニューを見て凄く困惑。だって普通の食事に比べて凄く値段が張るんだから。
これが見たかったから黙ってた! 尚、各自持ち!
「小僧の方は私達を驚かせる位に食べるって聞いてるよ。んで、そっちの小娘の方は……」
「本日のお勧めの一品に肉の揚げ物幾つかとサラダ大盛り、飲み物はドワーフの火酒をジョッキで、パスタ大盛りを〆に貰えるかな?」
「あいよっ! 注文しておいて残したら承知しないからね」
「大丈夫さ。私が食べきれない分は隣の副団長が食べてくれるさ。ねぇ、お兄ちゃん」
「えぇ!?」
あー、楽しい。他人の困り顔って最高のツマミだって思いながら度数の高い酒を一気に流し込む。自分で酔おうとしない限り、アルコールなんてどれだけ接種しても私の体は酔ってくれないけれど、味が良いんだよ、味が。
「店長、ジョッキでお代わりを頼むよ」
頼むなり私の前にはジョッキが三つ、ミアちゃん分かってるぅ!
「ご予約のご一行様いらっしゃいましたー!」
おっ、やって来た。お目当てのロキ・ファミリア様、ご来てーん。
そしてアイズちゃんの姿を見るなりカウンターに隠れるベル君、予想通りでウケる。後はどのタイミングで正体を見せるかだけれども、店内でやったら出禁にされちゃうかな?
それはちょっと。この店のご飯気に入ってるし、ちょっと前みたいにお気に入りの店の料理が食べられなくなった事と、ついでに店長一家が殺されたからってヤンチャが過ぎたけれど、ロイマン君が五月蝿いよね。
「店長さん、ごめんね。うちの副団長、あのテーブルの一人にお熱なんだ。邪魔だろうけれどそのままでお願いするよ。あっ、揚げ魚をもう一皿お願い。お酒もちょっと甘いのが飲みたいかな」
「あいよ。その小さい体によく入るね、アンタ」
「私の体は育ち盛りだよ。ついでにポテトフライも欲しいかな」
計画に固執しても面白くないし、今日は食事を楽しみつつ笑いを堪える彼女の姿を楽しもう、そう思っていたんだけれど……。
「なあ、アイズ。そろそろあの話をしてくれよ」
ありゃりゃ、ベート君ったら随分と悪酔いしてるみたい。どんな話をする気なんだか……。
「その時に出会ったミノタウロスが……」
「追い掛けた先でいかにも新人って感じの……」
「臭ぇ血を浴びてトマトみたいに……」
「アイズにビビって逃げ出して……」
うーん、聞いてたらよくない流れになっちゃった。他の子も笑ってるし……うーん。
「取り敢えず聞き耳を立てて笑った別ファミリアの子は後でミノタウロスの群れの前に連れて行ってあげようっと」
最後に雑魚じゃアイズちゃんには相応しくないとか言った時にベル君は走って店を飛び出した。
ベート君ったら……ちょっと駄目だよ、君。