人類は太陽系各地へと進出し、かつてないほどの繁栄の時代を迎えていた。
人類の統一国家として太陽系連邦が建国され、平和で豊かな社会を築いていた。
私、大澤隆弘は太陽系連邦外惑星総軍情報部の少将として、日々の職務に励んでいた。
第0話 侵略の兆候
「閣下、例の件に関する資料を纏めておきました」
「ご苦労」
副官からメモリカードを受け取り、コンピュータに差し込む。
内容はガニメデに飛来した正体不明の人工物に関してだった。
「内部に電子回路らしき物、それとコンピュータか」
「資料を見る限り人工物に間違いありませんね」
「ああ、それも情報収集用の装置だろう」
「情報収集用となると、一体誰が、何の為に送り込んで来たんでしょう」
「分からん。報告によれば、太陽系外から飛来した可能性が高いそうだが…」
「詳細は不明、と」
「そういう事だ」
現時点では断言できる事は無い。
内蔵コンピュータの解析を進める必要があるだろう。
「資料はバックアップを取っておこう。それとこの件は1Aクラスの機密事項に指定する」
「了解しました」
数ヶ月後…
衛星ガニメデ 太陽系連邦軍GA-21基地
「お待ちしておりました、大澤閣下」
「司令、早速ですが例の物を」
「勿論です。こちらへ」
基地司令に案内され、地下へのエレベータに向かう。
「司令、例の物体に関して何か分かった事はありますか?」
「はい。まず外装に関してですが、タングステンを使用しているようです」
「そうなると大気圏突入にも耐えますか」
「理論上は十分に。外装の裏はC/Cコンポジットで補強されているようです」
「随分頑丈ですね」
「長期間の航宙にも耐えられるくらいですから、まあ妥当でしょう」
しばらくするとエレベータが最下層に到着した。
降りて通路を進むと、「関係者以外立入厳禁」と書かれた扉があった。
基地司令が虹彩認証と指紋認証を行い、軍籍証を読み取らせる。
私も同様に認証を行う。扉が開く。
「これが…」
「ガニメデに飛来した物体、ETO-0324です」
扉の先には円筒形の物体が置かれていた。
直径は20m程、全長はその倍はあるだろうか。
「コンピュータの解析もだいぶ進みました。閣下の予想通り偵察機材のようです」
「やはりそうでしたか。他には?」
「電波の送受信を行うアンテナと重力波センサ、光学センサも内蔵されていました」
「完全に偵察機材ですね。これはまさか…」
「閣下、どうかしましたか?」
「いえ、引き続き解析を進めて下さい」
「了解しました」
ふと、数年前にオリオン座方向に確認されたX線源を思い出した。
恒星もパルサーも存在しないはずの位置に突如として現れたそれは、3ヵ月程で消えた。
恒星にしては暗すぎ、また太陽系に近すぎる。それは明らかに人工的な現象だった。
ひとまず、資料を纏めて戻る事にした。
GA-21基地 地下1階通路
木星周回軌道上の外惑星総軍司令部へ戻る為、私は基地のマスドライバーに向かっていた。
ガニメデの自転方向に向けられたマスドライバーは、地表から貨物や人員を打ち上げる主要な手段だった。
「すみません。マスドライバーの搭乗口はこちらで合ってますか?」
「閣下!いえ、こっちは貨物用の搬入口です。搭乗口は向こうに。ご案内します」
「助かります」
当直の士官に案内を頼み、搭乗口へ向かう。
「こちらです」
「どうも」
認証を済ませ、搭乗口へ入る。
シャトルの時刻表を確認し、ガニメデ軌道上のガリレオ・ステーション行の便を選択する。
出発まで30分ほどあるので、その間に休憩を取る。
しばらくすると放送が入った。
「ガリレオ・ステーション行、出発10分前です」
「そろそろ行くか」
機体へ延びるトンネルを通り、席に着く。
「シートベルトを確認し、耐G姿勢を取ってください」
(シートベルトよし、姿勢よし)
「ハッチ閉鎖します」
シャトルのハッチが閉じ、トンネルが機体から離れる。
シャトルがゆっくりと動き出し、エレベータから地上へ上がる。
「加速開始位置へ、マスドライバー接続」
「こちら管制、接続確認」
「射出まで10、9、8、7、6、5、4、3、2、1…」
「射出!」
電磁力によって機体が一気に加速する。
身体に強いGが掛かり、血液が後ろに集まる。
「メインエンジン点火!」
「間もなくマスドライバー終端」
「テイクオフ!」
シャトルがマスドライバーから飛び出し、自らのエンジンで推進し始める。
ようやくGも収まった。
「噴射終了。巡航体制へ」
「こちらGA-21コントロール、管制をガリレオ・コントロールへ引き継ぐ」
「了解」
それから1時間程でシャトルはガリレオ・ステーションへ到着した。
「こちらガリレオ・コントロール、貴機のドッキング誘導を開始する」
「了解。データリンク開始」
「確認。13番ポートへ入港せよ」
「了解」
シャトルが誘導に従いドッキング・ポートに向かう。
ロボットアームが展開し、機体を引き寄せる。
「接触確認」
「固定。ドッキング確認」
「エアロック第一ハッチ開放。機内気圧正常」
「ポート・ハッチ開放、こちらも問題なし。ようこそ、ガリレオ・ステーションへ」
シャトルから降り、ドッキング・ポートから出る。
虹彩と身分証による認証を済ませ、ステーションの奥へ進む。
「たしか中距離船はあっちだったか」
「ん?おーい!大澤!大澤じゃないか」
「誰かと思えばなんだ、マイクか」
「久しぶりに会ったって言うのに、不愛想なやつだなあ」
声を掛けてきたのは、同期のマイケル・C・アールソン少将だった。
「実際に会うのは何時ぶりだ?」
「司令部のカフェで話して以来だから半年ぶりか」
「そのくらいになるか。それで、大澤、どこへ行くところだったんだ?」
「報告の為に総軍司令部へ」
「そうか、俺も丁度司令部に用事があったんだ」
「用事って、艦隊司令が幕僚も連れずにか?」
「幕僚連中はカリストの方面軍司令部に居る。後で合流する予定だ」
「司令部には何時着けばいいんだ?」
「明後日の2200までには」
「そうなると…1600に出れば十分だな。一緒に乗るか?」
「そうしよう」
「今…1350か。チェックインを済ませて待つか」
「ああ。その間雑談でもして時間を潰そう」
外惑星総軍司令部のあるジュアウター・ステーション行の船を予約し、出港時刻を待つ。
「なあ、ちょっと重力区画にでも行かないか?」
「そうだな、低重力で身体が衰えがちだしな」
ステーションの中央シャフトを通り、上下の中間にある遠心重力区画へ向かう。
エレベータから下層方向(重力区画の外側)に降りる。
「重力が強くなって来たな」
「一番外側は1Gになってるからいい運動になる」
「ところでマイク、何所へ行くんだ?」
「新しくオープンしたカフェがあるんだ。そこへ行こう」
エレベータを降りてしばらく歩いて行くと、目的のカフェがあった。
扉を開け中に入る。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか」
「2名です」
「あちらの6番席へどうぞ」
受付のヒューマノイドロボットが空いている席を示す。
「さて、何にしようか」
「そうだな。オリュンポスのミディアムローストにしよう。マイクはどうする?」
「俺はエウロパのハイローストで。あと合成プロテインサンドを一つ」
席の端末から注文をする。
しばらくしてコーヒーとサンドイッチが運ばれて来た。
「お待たせ致しました。キャリアから品物をお取り下さい」
箱型の配膳ロボットからトレーをテーブルに移し、ロボットを帰す。
「ごゆっくりどうぞ」
焦げた大豆と人工香料の香ばしい香りがする。
「ゴク…あ~苦味の中に程よい酸味、いい味だ」
「そうだな。これぞコーヒーって感じだ」
煎り大豆と人工酸味料、合成カフェインが絶妙なバランスで配合された"コーヒー"を飲む。
マイクはサンドイッチを口に運ぶ。
「これも美味いな。丁度いい硬さだ」
「合成たんぱくキューブも上手く火を通せばかなり美味いよな」
「さて、食べ終わったし行くか」
飲食を終え、会計をする。
「9ソリル58セントです」
「今回は私が払おう」
「ありがとな」
口座カードを読み取らせ、支払いを済ませる。
「ありがとうございました。またお越しください」
「1520か。このまま港へ向かおう」
「ああ」
ステーション上部 中距離船搭乗受付
「身分証と生体認証をお願いします」
IDカードを読み取らせ、虹彩認証と指紋認証を行う。
「問題ありません。よい旅を」
「保安検査は…混んでるな。出港時刻までには終わるといいんだけど」
「大澤、こっちも認証は済んだ。出港まであと1時間か。まあどうにかなるさ」
「そうだな」
20分程して、検査場が空いた。
「手荷物をコンベアに乗せてください」
「これと…あとはこれか」
「そのアタッシュケースは?」
「中身は紫外線レーザディスクです」
「こんなもの今時軍かマニアくらいしか使ってませんよ」
「まあ、そんなところです」
「他には特にありませんかね」
「あのー拳銃は船長に預けて貰わないといけないんですが…」
別の職員が話しかけて来た。
「私こういう者でして、その銃が必要なんです」
軍籍証を職員に見せる。
「太陽系連邦軍…少将!?」
階級を見て職員は見るからにに驚いていた。
考えてみれば、将官クラスが部下も連れず軍服姿で船に乗るのは相当珍しい事だろう。
「失礼しました。拳銃は持ち込んで構いません。他には特に問題はありませんので、どうぞお通りください」
「ありがとうございます」
ステーション上部 6番ポート 搭乗口
「ジュアウター・ステーション行、309便、出港20分前です。お乗りの方はお急ぎください」
「なんとか間に合ったな。危うく乗り遅れるところだったぞ、大澤」
「待たせちまったなマイク。拳銃は別に無くても良かったんだが、護身用にな」
「俺も拳銃の1丁くらいないと不安だな」
エアロックから船内に入る。
「えーとビジネスクラスは中央部か」
「俺は別にエコノミークラスの冷凍睡眠でもよかったんだがな」
「そういうなよ、偶にはいいじゃないか」
「まっ積みゲーでもやって時間を潰すか」
船の中央部、ビジネスクラスの区画に向かう。
「席は…ここだな」
「俺の席はあそこか」
IDカードと端末で認証を行い、席に着く。
「大澤、ちょっといいか?」
「なんだ?」
「これ、おすすめのゲームなんだが、やってみないか?」
「ディスクパッケージ?随分古めかしいが…」
「そこまで昔じゃないぞ。10年くらい前だ」
「まだまだディスクもあるんだなあ。それで、どんなゲームなんだ?」
「それはやってれば分かる…いやまあ説明くらいはしておかないとな。ざっくり言うと宇宙艦隊の戦略シミュレーションだ」
「時間が掛かりそうだな。先にトイレ行ってくる」
「戻ったぞ」
「じゃっ適当にやってくれ」
端末の電源を入れ、ディスクを差し込む。
ヘッドセットを耳に掛け、こめかみ部分の網膜投影装置を起動する。
レーザによって網膜に像が映され、視界が切り替わる。
「ほお、こんな感じか」
数分後、出港の放送が流れた。
「本船はこれより出港します。シートベルトを確認してください」
「おっと、出港時刻か」
座席にしっかりと座り、シートベルトを付ける。
船がゆっくりと動き出し、ステーションから離れる。
309便 ブリッジ
「回頭完了。メインエンジン点火用意」
「メインエンジン点火」
「点火確認、推力安定」
「加速度0.2Gを保て」
「加速0.2、自動調整」
核融合エンジンが点火され、プラズマによって船が加速を始める。
10時間後、加速を終了し慣性航行に入った。
船は6時間の慣性航行の後船首を反転、減速に入った。
「逆噴射開始。減速0.2」
「目的地との相対速度を0に」
「了解」
さらに10時間後、ジュアウター・ステーションが視界に入った。
「こちらジュアウター・コントロール、309便、貴船の誘導を開始する」
「309便了解。入港指示を請う」
「了解。24番ポートへ入港せよ」
「了解」
船は24番ポートにドッキングする。
木星圏の外側、ジュアウター・ステーション。
木星圏各地と他の惑星との中継地であり、毎日多くの船が往来する。
交通の要所であるこの地には、外惑星総軍司令部が置かれていた。
「軍事区画には第2シャフトが近いな」
「ああ、高速運転中のやつに乗ろう」
「時間も余りないしな。そう言えば艦隊の幕僚は今どこに?」
「今頃は司令部に着いてるだろう。急がないと」
第2シャフトの16ある人員用エレベータの内、2番、7番、10番、15番が止まる階層が少ない高速運転となっていた。
7番エレベータに乗り、総軍司令部のある05階層へ降りる。
ジュアウター・ステーションの遠心重力区画はステーションの中央部に位置し、上下2つのブロックに分かれている。
その北側ブロックの円筒の中に、総軍司令部はあった。
「着いたか。降りるぞ」
「ああ。2234か。明日は合同演習の会議だし早く寝たいな」
エレベータを降り、シャフトに隣接する駅へ向かう。
駅から電車に乗り、軍事区画へ向かう。
5分程で電車は軍事区画に到着した。
「着いたな。久しぶりの司令部だ」
「こっちは各地の基地と司令部を往復する事が多いからそんなに久しぶりでもないが」
「そうだったな。俺の方は演習やら任務やらで離れてる事が多いからな」
「さて、行くか」
「おう」
軍事区画は複数の施設に分かれており、総軍司令部、外惑星艦隊司令部、外惑星地上軍司令部、後方支援本部、法務本部、
情報本部等が設置されている司令区画を中心に、居住区画、貯蔵区画、情報区画、衛生区画に分けられる。
「うん?居住区画に行かないのか?」
「私は資料を執務室に置いてから行く。先に行ってくれ」
「分かった。そうだ、今夜、いや明日の夜一杯付き合ってくれないか?」
「いいな。とっておきのやつがある」
情報本部の一画にある執務室に資料を置き、居住区画へ向かう。
深夜という事もあり、当直要員以外は殆ど人と会わなかった。
その後、私はシャワーを浴び、直ぐに寝た。
「おはよう!大澤」
「おはよう。マイクは朝から元気だな」
「はは、一番の取柄なんでね」
「0740か。朝食にしよう」
「それじゃあ近所のハンバーガー屋に行かないか?」
「そうするか。食堂の飯も悪くはないが偶にはいいだろう」
朝食を摂る為軍事区画から徒歩5分程のハンバーガー店に向かった。
「いらっしゃいませ。ご注文を端末に入力してお待ちください」
店に入ると、箱型のAIが受付の端末で注文するよう促して来た。
「さてと、何にしようか」
「そうだな。俺はチーズバーガー2個とポテトLサイズとコーラLサイズにしよう」
「それじゃあ私はエッグバーガーとチキンバーガーをひとつずつで。それとソーダMサイズ」
「よし。今回は俺が払うよ。この前のお返しだ」
「ありがとな」
注文と支払いを済ませる。
「支払い完了。17番席だな。あっちか」
「まあ直ぐ出来るだろう」
数分後、席の端末に注文した品が完成したとの通知が来た。
食券に印刷された電子回路を読み取らせ、受け取り口から商品を受け取る。
「うん、やっぱりハンバーガーは美味い」
「このチキン辛味があっていいな」
「コーラも最高だな」
食事を終え、店から出る。
「さて、戻らないと。1000から会議なんだ」
「こっちも報告に行かないと」
軍事区画のメインゲートでマイクと別れ、私は情報本部へ向かう。
執務室の金庫からディスクを取り出す。
金庫は虹彩認証、指紋認証、静脈認証装置を備え、厳重なセキュリティに守られていた。
ロックを解除するには登録された各種生体情報と軍籍証が必要だった。
ディスクと他の資料を持って情報部長の執務室へ向かう。
情報部長の執務室に入る為、私は虹彩認証を行い、扉をノックする。
「大澤隆弘少将、入ります」
「入れ」
ロックが解除され、扉が開く。
扉から向かって正面のデスクには、外惑星総軍情報部長を務めるジェレミー・F・オベール大将が座っていた。
「大澤少将、早速だが報告を」
「はっ、こちらが例の件に関する資料になります」
私は扉から左側面にある端末にディスクとメモリカードを差し込む。
端末を操作し、機密保持の為執務室の窓を閉鎖した後、壁面の大型ディスプレイに資料を映す。
「まず、この物体についてですが、太陽系外から飛来した物体でほぼ間違いありません。飛翔速度と方向から飛来源は太陽
系外と確定しました」
「予想はついていたが、やはりか。続けろ」
「内部構造を解析した結果、レーダ、重力波センサ、光学センサ、赤外線センサ、通信アンテナが内蔵されていました」
「これだけの探知機器を搭載している以上、これは外宇宙文明の無人偵察機だろう」
「はい、これらの機器を制御するコンピュータと航法コンピュータに加え、中央で全体を制御するコンピュータが内蔵されてい
る事から、自律型の無人機と思われます」
「どうやら、最悪に備えなければならないようだな」
「最悪、ですか」
「ああ。兎も角、報告ご苦労。この件は今後も貴官に任せる。それに加えて別の任務を任せたい」
「どのような任務でしょうか」
「我が外惑星総軍の戦力評価だ。丁度来月には合同演習がある。悪いが次も各地を飛び回って貰う事になるだろう」
「いえ、任務とあらば」
報告を終えた私は、一度自宅に戻る事にした。
次の任務も忙しくなるだろう。最悪への備えは、まだ始まってもいなかった。
次回
万に一つの最悪
読んでいただきありがとうございます。
本格的な小説を書くのはほぼ初めてで、至らない点も多々あると思いますが、ご容赦下さい。
もし気に入っていただけたら、続きも制作中ですので読んでいただけると幸いです。