プレイヤーは『疾風の狼』と同じメンツとなります。
本章は(有)ファーイースト・アミューズメント・リサーチ様のウェブサイト上にあるダウンロードコンテンツのサンプルシナリオ、『ハーピーの棲む山』のリプレイとなります。3話以降ではシナリオのネタバレが含まれますのでご注意ください。
プリプレイ・巡り合わせ
「──頼もーッス!」
エリンディル中原に座す古都、グランフェルデン、その歴史ある都の起こりから共にあるグランフェルデン大神殿。その荘厳な雰囲気を乱さぬように配慮された一角に設置されている、冒険者への依頼所の扉を、一人の若者が押し開けた。
その姿は、その大きな声に反するように小さかった。動きやすさを重視した革製の部分鎧から覗く褐色の肌に、豊かな黒髪を後頭部で一つにまとめたその娘の身長は1m位しかない。そのくせ背中には何を入れているのか、ぎっちりと物が詰まった大きな背嚢と、体格に不釣り合いなサイズの
それなりに広さのある依頼所には、今日も市民や冒険者が数多く訪れている。その誰もが、一瞬彼女の奇行に目を向けたものの、直ぐに興味を失って元の行動へ戻っていった。彼らにとって、彼女のような「おのぼりさん」は特に珍しくはない物なのだろう。
「えーっと、ここで冒険者登録をしてくれるって聞いてたんスけど……誰に話しかければいいッスかね?」
広い側面の壁には依頼書らしきものが何枚も貼られた掲示板があり、それを前に首を捻りながら唸る冒険者達が数人見受けられた。その掲示板の前から依頼所の中程までには、待合用らしいテーブルが何組か並べられており、今は四つが埋まっている。その間をすいすいと抜けるようにして、若草色の髪の少女がコップ──中身が
奥の方にはカウンターがあり、背の高い男性と、極端に背の低い少女が、その前に並ぶ人の列を捌いていた。男性は手際よく、少女は懸命に処理をしているように見えるが、いかんせん数が多いのか暫くは列が途切れそうに無い。
あそこに並べば良いのだろうかと首を傾げていると、背後の扉が再びゆっくりと開く。
「──こちらが、冒険者の登録や、依頼の斡旋を行っている依頼所でございます。主さま」
入って来たのは、神官服を着た背の低い少女だった。まだ童女と言ってもいい位の若さだろう。肩までの長さの白い髪の間から、エルダナーンの特徴である細長い耳が覗いている。彼女は扉を手で支えると、恭しく後ろにいた人物を室内に案内しようとする。
「冒険者の登録って……そんなものになるなんて一言も了承してないんだけど。それとアンタ、その主さまって呼び方やめろって言ってるでしょ」
その、
「主さまは、主さまですので」
「……鬱陶しいって言ってんの。分からない? 案内とかも別に頼んでないし。そもそも何であたしに付き纏うのよ」
主さま、と呼ばれた少女は低い声で威嚇するようにそう言うが、神官の少女はどこ吹く風、といった様子で頭を下げた。
「それが、アエマ様のご意志ですから」
「またそれ。神だかなんだか知らないけど、そんなものの言いなりになって、あたしみたいな女に付き従うとか……アンタには自分ってものが無いの?」
「それが信仰というものです」
それに、と少女は朗らかに微笑う。
「主さまはこの世界について、右も左も分からぬご様子。そのような方がいたら、わたくしは手を差し伸べたく存じます」
赤茶髪の少女はやりにくそうに頭を掻きむしる。しかし、眉間に寄っていた皺からは若干険が取れていた。
「……見かけによらず頑固よね、アンタ」
「ありがとうございます」
「褒めてないっての」
はぁ、と赤茶髪の少女は頭痛を吐き出そうとするかのように溜め息を吐いた。
「あのー」
その二人に声が掛けられる。
「もしかしてなんスけど。二人とも、冒険者になりに来たッスか?」
声を掛けたのは、ずっと二人の様子を眺めていた黒髪の少女だった。彼女は二人を──いや、赤茶髪の少女の瞳をじっと覗き込むように見上げ、首を傾げる。
「な、何よアンタ、いきなり……」
突然意識外から現れた黒髪の少女に、赤茶髪の少女は思わず仰け反った。彼女の常識からすれば考えられない量の荷物と初めて見る武骨な武器、そしてそれらを軽々と背負う少女の小ささに絶句していると、彼女は快活に笑って言った。
「アタシ、レア・ブルーウェルっていう名前ッス。見ての通りのネヴァーフッス。戦士やってるッスよ」
「ッ……アンタは関係ないでしょ。どっか行って」
苛立った様子を隠しもしない態度で視線を切る少女。その、焔が燻っている様な澱んだ瞳を見て、黒髪の少女、レアは確信する。
──これは、よくない目だ。
そこに、直感以外の根拠は無いけれど。放っておいたら、潰れてしまうか、あるいは爆発するか……ロクなことにはならないだろうから。
「これも何かの縁ッスよ。名前を教えて欲しいッス!」
だから、レアはぐいぐい行くことにした。アホな自分にはそれ位しか出来ることが無いのだから。
「知らないわよ。ウザいから消えて」
「あ、そっちの人も名前教えて欲しいッス」
「わたくしは、アヤナさまの従者を務めさせていただいております、ココロ・カナデと申します」
「ちょっと、人の名前を勝手に」
「おぉ、ココロにアヤナッスね。よろしくッス」
「はい、何卒よろしくお願い致します、レアさま」
「聞きなさいよ!?」
自分を置いて和やかに挨拶を交わし合う二人に、思わず吼えるアヤナ。いい傾向だ、と考えながら、レアはココロとの会話を続けることにして首を傾げた。
「ところで、さっき従者って言ってたッスけど、アヤナはお貴族様か何かなんスか? 確かに、見たことない立派な服を着てるッス」
「アヤナさまは、異世界から参られた勇者なのです。わたくしは、アエマさまからの信託に従い、アヤナさまに仕えています」
「誰が勇者よ、そんなの勝手に……」
「勇者ッスか! 超カッケーッスね!」
顔を顰めるアヤナの言葉に被せるように、顔を輝かせながらレアは言った。
「勇者ってアレッスよね、ビシバシ魔物を倒して、皆を護る人ッスよね! 凄いじゃないッスか!」
レアはぐっ、と両拳を握り締めながら、笑顔をアヤナへ向ける。少し大袈裟かも知れないが、こういう時は相手を肯定して持ち上げるのがいい。そう思ったのだが。
「ッ──! 煩いわね! 放っといて!」
アヤナの反応はレアの想定と異なる強い拒絶だった。レアは思わずたじろぎ、どうやら対応を間違えたらしいと悟るが、吐いた言葉は戻せない。
「え、えーっと……あ、そうッス!」
失言を挽回する言葉を彼女は知らないが、全ての諍いを何とかしてくれる存在を、彼女は知っていた。
「お近づきの印に、お肉でも食べないッスか!?」
「……は?」
何言ってんだコイツ。そう思っているのが丸分かりなアヤナの姿は一顧だにせず、レアは背中の背嚢に手を伸ばすと手慣れた手付きで何かを掴み出した。それは干した肉の塊。
「アタシが狩った兎で作った干し肉ッス! 味は保証するッスよ!」
満面の笑みでレアは肉をアヤナに突き出す。肉は全てを解決するのだ。肉を食べれば
「~ッ! 何なのよ、アンタ!」
レアの差し出した肉を払い退けると、その胸倉を掴み上げ──安穏と暮らしていたであろうその細腕では小柄なレアでさえ持ち上がらなかったが──アヤナは吼えた。
「いきなり現れて、何よ、肉って! 焼き尽くすわよ!?」
アヤナの瞳に、赫灼とした激情の色が灯る。沸き立つ魔力の熱を感じたレアは青褪めた顔で首を振った。
「わわ、いきなり怒らないで欲しいッス! あと、焼くならお肉をいい感じに焼くだけにして欲しいッス!」
必死に言い募るが、勿論アヤナは止まらない。
「ふざけんじゃないわよ! クソ親父も! あのクズも! 学校も! あの子も! アンタ達も! この世界もッ! あたしを馬鹿に──」
「お、落ち着くッス──!」
「もがっ!?」
レアは反射的に、払い退けられても手放さなかった肉をアヤナの口に全力で叩き込んだ。力自慢の戦士の膂力で口一杯に肉を捩じ込まれたアヤナがそのまま仰向けにひっくり返る。
「……やっちまったッス」
「あ、主さま……!?」
依頼所の入り口付近で起こった珍騒動は流石に日常茶飯事ではないようで、周囲の白い視線が集まっているのが分かる。慌ててアヤナに縋りつくココロを見下ろしながら、レアは気まずそうに頬を掻いた。
冒険者紹介は次話で。
『疾風の狼』で言うと、
レアの中の人=アルミナの中の人
アヤナの中の人=ノーラの中の人
ココロの中の人=キャサリンの中の人
です。